韓国の若者たちの本音とは?(写真:iStock/estherpoon)

日本から最も近い「外国」は韓国です。私は今年の3月末に調査目的でソウルを訪れましたが、いま韓国は、日本の若者、とくに10〜20代女性の多くにとってファッション、コスメ、グルメ、音楽といった分野で流行の先端を行く国である、と言えます。

一方、韓国の若者たちはどんなトレンドの中で生きているのでしょうか。高校生を中心とした男女7人に集まってもらい、彼らの意識・生活価値観を探ってきました。彼らが直面している社会問題や現政権に対する気分、対日感情、身の回りの流行や恋愛事情から、現在の韓国社会のリアルと実態が浮かび上がってきます。

日韓関係は緊迫した状況が続いていますが、その一方で、日本の若者も韓国の若者もお互いに切っても切れない関係になりつつある様子が明確に見えてきます。(座談会は3月に実施したものです)

日本の韓流ブームに対する韓国の若者の反応は

原田:今日は韓国の若者、とくに皆さんのような高校生くらいの若者がどんな意識なのかを聞きたくて、集まってもらいました。軽く自己紹介をお願いできますか?

A君:高校3年生です。プログラムが趣味で、ロボット工学科のある大学への進学を希望しています。

B君:高校3年生です。学校で日本語を習ったので、少しできます。絵を描くのが趣味で、デザイン系の大学に進学を希望しています。

C君:高校3年生です。ファッションに興味があって、好きなブランドはイヴ・サン=ローラン。大学ではホテル経営を勉強したいと思っています。

D君:高校3年生です。趣味は運動で、テコンドー、柔道、ボクシングなど、いろいろやっています。芸術系の大学に進学希望です。

Eさん:高校3年生です。趣味は絵を描くこと、歌を歌うこと、ゲーム、プログラミングで、卒業後はウェブデザインや本の編集について勉強したいと思っています。

Fさん:高校は卒業していて今20歳です。大学には行っていません。製パンを学びたいと思っているので、今はその準備をしています。

Gさん:19歳です。高校は卒業していて、デザインの勉強をしながら進学を考えているところです。

原田:今の日本の若い女性、とくに君たちくらいの歳の子たちの間では、韓流がものすごくブームになっています。防弾少年団(BTS)をはじめとした芸能・音楽、ファッションやコスメやスイーツやフードがその中心で、日本から韓国に来る女子高生、女子大生も増えるいっぽう。そのことについてはどう思いますか?

B君:それ自体はいいことだと思いますけど、韓流が海外で人気だとしても僕は興味がありません(笑)。 

C君:BTSがアメリカや日本など海外でも人気だというのはニュースでよく見るんですが、正直、実感がないです。なぜ韓国のグループが世界で?と。

原田:BTSファンの日本人の若者は本当にたくさんいますよ。韓国人女性のメイクや韓国人のイケメンに興味がある日本の若者女子も。ちょうど今日、春休みを利用してソウルに旅行に来ていた知り合いの日本の女子高生たちと話す機会があったのだけれど、韓国人のイケメンを探しにソウルに来たと言ってました。「カフェのウエイターにも好みのイケメンがいた」とか言って、かなり盛り上がっていましたよ。

Eさん:BTSを見てカッコいいと思って来てるんだとしたら、それは間違い。一般の韓国人の男はそんなにかっこよくないですよ(笑)。

Gさん:ただ、かつて「冬のソナタ」などの韓国ドラマを見て韓国語を習う日本人が増えたなんて話を聞くと、韓国文化の影響はすごいんだと感じます。自分たちは韓国にいるからそのすごさにあまり気づかないんですが。

「インサ」と「アサ」とは?

原田:韓国の若者トレンドについて聞かせてもらえませんか?

A君:韓国の若者たちは、変なもの、変わったものを「インサ」と呼び、はやらせるんですよ。

原田:インサ?

D君:インサはinsiderの略で、クループや団体などによくなじんで遊ぶ人、社交性のある人のことです。反対がoutsiderの略でアサ。団体になじめず1人でいる人のことで、ご飯も1人で食べます。

原田:ははあ、日本で言うと、インサは「パリピ(パーティーピープル)」、アサが「パンピー(一般人)」の中でも社交性がない「ぼっち」のことでしょうかね。


B君:インサは無理して流行を作ろうとしているというより、その人自身が個性的で、彼らが飛びつくものは結果的にはやってしまう、みたいな感じですね。

原田:となると、インサはむしろパリピより上位の「フィクサー」みたいな感じかもしれない。

D君:インサ、アサは学生の間でよく使われる言葉ですね。高校生でも使いますが、とくに大学のオリエンテーション後にインサかアサに分かれると聞いています。

C君:成績を上げるために勉強に集中したり、奨学金や資格を取るため自発的にアウトサイダーになる人は「自発的アサ」と言われます。

原田:なるほど。じゃあ今、周りですごくはやっているものは何かな?

B君:うーん、すごいスピードで流行が移り変わっていきますからね……。

Eさん:とりあえずフェイスブックはよく使っています。アップするのは辛いもの、チーズ、食べ放題、あとはコストパフォーマンスのいいもの全般(笑)。

原田:今、世界では若者がフェイスブックから離れているなんて言われたりしていて、代わりにインスタやスナップチャットに向かっていると言われたりしているけど、韓国の高校生は結構使ってるんだね。

Eさん:はい。でも韓国の大人たちはフェイスブックをあまり使ってなくて、インスタグラムに移行してるみたいです。

就職率の低さは社会問題

原田:韓国の若者にとって1番の社会問題ってなんですか?

Eさん:就職率の低さですね。新卒でいい会社に就職しようとしても、なかなか難しい。

原田:今の日本は長く続いた少子化の影響によって超売り手市場なので、日本の大学生は簡単に就職できます。韓国も同じように長く少子化が続いている国なのに、なぜそこまで厳しい就職難が続いているんだろう?

A君:企業は、学生がどれだけ勉強してきたかを重視して採用するからです。いい大学じゃないと、まともな会社に就職できません。韓国はたぶん日本よりずっと過酷な競争社会なんです。

原田:日本も韓国も出生率が下がり、少子化が続き、本当は似たような状況に置かれているはずなんだけど、韓国は超就職難で日本は超売り手市場。なんでこんなに真逆の状況になってしまっているんだろうね。

C君:僕の周りでは、生徒の90%が学校以外に塾へ通っています。加えてたくさん自習しないと追いつけません。だから極端な話、高校3年までは勉強しかしていないし、勉強のことしか考えてない。

やりたいことを見据えて進学するというよりは、自分の成績で行ける大学はどこ、という発想でしか進学しない。このように自分のやりたいこと、自分が向いていることは何か?なんて発想を持ったことがないから、就職もうまくいかないんじゃないでしょうか。

原田:ほかに韓国の社会問題だと思うことはありますか。

Fさん:青少年に投票権・選挙権がないことです(注:韓国の選挙権は18歳から)。私たちは大人たちが作った社会の中で生活しているにもかかわらず、その社会に対する決定権がない。これは問題だと思います。

原田:日本の選挙権は長らく20歳からだったんだけど、数年前に18歳からになりました。結果、高校生のうちは先生に尻をたたかれて投票に行くけど、卒業すると行かなくなる子が多いことがわかったんですよ。つまり日本には、権利を得てもそれを行使しない若者が多い。若者の多くは選挙より遊びのほうが大切だってことなんでしょうね。

B君:韓国も同じです。今日、ここに集まっている若者たちは投票に行くだろうけど、周りの韓国の若者たちは日本と同じく投票に行かないと思いますよ。

韓国でも「若者の政治離れ」ってある?

原田:じゃあ、自分たちのことというよりは韓国の若者一般の意識ということで聞きたいんだけど、韓国でもいわゆる「若者の政治離れ」ってあるのかな。日本の若者同様、多くは投票に行かないって話していたけど?

Eさん:罷免された朴槿恵(パク・クネ)前大統領の弾劾時も高校生が路上で運動していましたから、まったく無関心というわけではないと思います。

原田:朴槿恵前大統領はどこが駄目でしたか?

Gさん:大統領という高い地位を利用して、特定の企業に特権を与えていた点ですね。

Eさん:教科書の歴史記述について、本当はいろいろな史観があるから複数の教科書の記述を比べなきゃいけないのに、韓国という国がよく見えるように1つの記述に絞ってしまったこと。

B君:そんな教科書を読んだら、高校生は洗脳されてしまいます。

原田:本当に大変悲しい出来事でしたが、2014年に沈没した韓国の大型旅客船セウォル号事件も朴政権のときでしたね。あの船には皆さんと同世代の修学旅行生もたくさん乗っていて、悲しみをもって日本でもたくさん報道されました。

Eさん:事件があったとき、まだ私は小学校6年生でした。報道では船長が救助する努力をしたと言っていたのに、実際はされていなかったんです。私は事件が政治と大きく関わっていたことを知り、大人への不信感を抱きました。

Fさん:船長が何もしなかったことについては本当に悲しかったし、いまだに心から怒りを覚えます。それを聞いた私は、思わず泣いてしまいました……。

(そう言いながらFさんは当時を思い出して泣きじゃくり、しばし全員が沈黙する)

原田:ここにいるメンバーはみんな、政治に対する興味関心がすごいですね。日本の高校生ではなかなかいないので、そこは本当にうらやましいと思います。

B君:僕たち、「平均的な韓国の高校生」じゃないので(笑)。

原田:今の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は若者たちの間で人気がありますか?

B君:大統領を選ぶって、ほんと難しいですよね……。

Gさん:北朝鮮との関係を回復したのはよかったと思います。ただ女性の人権問題については、公約で言っていたのに実行してない! 最近の韓国では女性の裸を盗撮したポルノが蔓延していて抗議運動も起こっているんですが、政府が断固とした政策を打っていないんですよ。当選したばかりの頃の彼は、若者からの支持率が高かったけど、今は半々になってしまっているのでは?

B君:文在寅はインターネットに対する規制も厳しくしていますけど、それについても彼にとって都合が悪い世論を封じ込めているのでは?と感じています。

原田:すごいね、高校生なのにそこまで政治ニュースを追っているんだ。じゃあ、もっと突っ込んで聞くけど、君たち世代は北朝鮮との統一についてどう思っているんですか。

Eさん:冷戦状態は終わってほしいですが、韓国と北朝鮮では経済格差があるので、突然統一しても大混乱になるんじゃないでしょうか。かつてのドイツのように。経済と文化の交流を少しずつ進めてからでないと。

原田:確かにベルリンの壁が壊れてもう30年経つのに、いまだに旧東ドイツと旧西ドイツの経済格差は大きいからね。北朝鮮と韓国だったらそんなもんじゃ済まないかもしれない。

Gさん:高校の友人たちも、経済格差がひどいから統一しないほうがいいという意見の人が多いですね。

Eさん:私たちは小学生のときから、北朝鮮の独裁者に対する悪口を散々聞かされているので、彼らの国全体に刷り込まれた悪いイメージを覆すのは、なかなか難しいと思います。

日本に対する正直な気持ち

原田:この中で外国に行ったことがある人は?

B君:アメリカに行ったことがあります。

A君Gさん:中国の深圳に行きました。

原田:ほかの人は海外経験なし、日本に行ったことがある人もいないんですね。僕が日本人だからといって遠慮しないでほしいんですが、今の日韓関係についてはどう思いますか? ぜひ率直な意見を聞きたいです。

Eさん:今、日本の書店には、韓国や韓国人を辛辣に批判する本ばかりを集めたコーナーがあるんですよね。それをテレビで見ました。昔のドイツ(がユダヤ人を劣等に見ていた時代)のような。あれは……よくないと思います。

B君:やっぱり歴史問題がまだしこりとして残っていますよね。僕たち世代が直接経験していなくても、かつて起こったこと、上の世代が感じてきたことが、僕たち若者にも伝わっていますから。どうしても日本は韓国にとって競争の対象になってしまいます。サッカーの日韓戦も竹島の領土問題も。

(ここで通訳者が「竹島」と訳したところ、日本語を理解するB君が割って入り、「すいません、竹島ではなく独島〈竹島の韓国での呼称〉です」と日本語で訂正し、場が凍る)

日本に対する競争意識は、若い世代になればなるほど少しずつ薄れていると思いますが、やっぱり残っているといえば残っていますね。韓国メディアが、日韓関係が悪化するほうに世論を誘導するのもよくないなと思いますが。でもやはり、従軍慰安婦の問題も国と国の問題として日本政府には謝罪してほしいです。

原田:1993年の河野談話、2015年の慰安婦合意など、正式に日本は国として何度か謝罪しているのだけど、戦争から年齢的にかなり遠い君たち高校生世代でもまだ謝罪が足りないと思っているんだね……。

A君:(割って入る)あ、ちょっと、いいですか。僕は日本を肯定的に見る韓国人のうちの1人です(笑)。僕は他人に迷惑をかけない日本人の性質がとてもすばらしいと思うし、気に入っています。僕はロボット工学を学びたいと思っていますが、ロボット大国としての日本もリスペクトしてるんですよ。技術もそうですが、ほかの国とは異なる創造的な日本のデザインにも惹かれますし。

若者世代が担う日韓関係の行方は…

原田:今日は皆さんへのインタビューなので僕の意見や反論などは控えますが、遠慮せずに率直に思っていることを話してくれてありがとうございます。

皆の話を聞いて君たちが「韓国の平均的な高校生」ではないことを差し引いても、でも、やっぱり正直かなり驚きました。まだ若い君たちに、戦争のしこりがこれだけ残っていることに。

日本では韓流好きな若者たちもたくさん出てきているし、韓国の若者たちの間でも日本好きはたくさんいるので、さまざまな考え方の違いを乗り越え、今の若い世代が社会の中心になったときには、今、存在する日韓のゴタゴタが解消されていることを期待していますね。

B君:はい、政府同士のことはどうあれ、僕は日本の文化に興味があったからこそ日本語を習ったので。『HUNTER×HUNTER』のアニメもX JAPANも大好きですし(笑)。

Eさん:『HUNTER×HUNTER』は私も!

原田:『HUNTER×HUNTER』、人気だなあ(笑)。

【座談会を終えて】
今回、韓国の高校生たちが素直に話してくれたことで、韓国政治や韓国社会の問題がたくさん見えてきました。また、日韓関係のぎくしゃくは、今の若者たちが中心となる令和の時代にもきっと引き継がれてしまうであろうことも――大変残念ではありますが――想像できました。

確かに日韓の間にはたくさんの問題が存在しています。ただ、世界中で若者研究を行っている立場として両国を俯瞰的に見ると、今、両国の歴史上かつてないほど、日本と韓国の若者たちは互いに接近してきていると思います。

日本の若者たちは、男女ともにK-POPと韓国の食べ物が好き。女子は加えて、メイクやファッションの影響も大きく受けています。一方、慰安婦問題や領土問題で日本の政治面に嫌悪感を示す韓国の若者たちも、文化やトレンド分野での日本からの影響は少なくありません。なにより日韓は物理的な距離が近いので、両国の若者たちにとって身近な海外旅行先です。

この若者たちの互いに惹かれるピュアな感性が、令和の時代に花咲くといいと、心から願っています。

(構成:稲田豊史)