入社1年目で急成長する新人の3つの共通点とは?(写真:EKAKI/PIXTA)

「新人を早く育てたい」「でも手取り足取り教えている時間はない」というジレンマは、多くのビジネスリーダーが抱える悩みだ。

ソフトバンクで2万人の社員教育に関わり、『10秒で新人を伸ばす質問術』を上梓した人材育成のプロ、島村公俊氏は「成長速度が速い新人には3つの共通点がある」と指摘する。その共通点とは何か。効率よく最速で新人を戦力化するためのノウハウを解き明かす。

1つ目の共通点:「メモ」の習慣

あなたの職場の新人は順調に成長していますか? ほかの新人と比べて成長スピードは速いでしょうか? 入社した当時は、同じレベルであった新入社員たちも、数カ月もすると徐々に成長の差が出始めてきます。


本稿では、成長が早い新人の3つの共通点についてお伝えしていきます。この3つの共通点を意識して新人教育をすることが、時間がない指導者にとって、なるべく早く新人を一人前の戦力に育てるカギとなるでしょう。

職場に配属されて数カ月経った職場の新人は、あなたの話を聞くときや、ほかの先輩のアドバイスを聞くときに、メモを取ることを習慣にできているでしょうか?

指導者は日々とても忙しく、新人の育成だけにかまっていられません。そのような忙しい環境の中で、新人に何度も同じ質問をされてはかないません。

一方で、新人は指示されたことをうまく整理しきれず、何度も同じ質問を先輩にしてしまい怒られがちです。そうなると、だんだんと先輩に質問しづらくなってしまい、ついには、聞かないとわからないことであっても1人で悶々と考え込み、ただ時間を浪費してしまうという悪循環に陥ることも少なくありません。本人も指導者も、こうした不効率さにはなかなか気がつかないものです。

「メモ」を取ることはビジネスパーソンにとって基本の動作ですが、案外この習慣が身に付いていない新人も多く、それが成長を遅滞させていることもあります。

では、1回指示したことを聞き直されないようにするためには、メモをとる指導をどのように工夫したらよいでしょうか? よく言われているのは5W1Hでメモを取らせることです。しかし新人に「5W1Hの視点でメモを取るように」と伝えるだけでは、最初はなかなか正確にメモを取れるようにはなりません。

そこで、業務指示をする際に、わざと5W1H視点での抜け漏れや曖昧さがある状態を作りだし、指示命令をします。例えばあなたが新人に「今日中に○○を頼むよ」と伝え、新人が今日中とメモに記入して、その具体的な時間を確認する様子がなければ、「今日の何時までか確認しなくていいの?」と具体的な時刻を聞くように促すのです。

また、「これ、会議で使うから印刷しておいて」と新人に頼み、新人から詳細の確認がなければ「何部印刷するか、わかっているかな?」「カラーか白黒かなど聞かなくて大丈夫?」など、5W1Hの視点で抜け漏れを確認するように新人に促します。これにより、手戻りがだんだんと少なくなり、指導者の負荷がだんだんと軽減されていきます。

このように5W1H視点で手戻りなく、1度で情報整理ができる新人は、安心してどんどん仕事を任せられるので、入社1年目から急成長していくようになります。

2つ目の共通点:「お礼」の習慣

新人を育てるにあたり、意外と重要なのが「ものを教わる態度や心構え」を教えておくことです。別の表現をすると「人が教えたくなるような教わり方」を教えるということになります。

いくら新人を指導する役割を担っていても、指導者とて人間です。教えがいがなかったり、教わる側の態度次第では、指導する気が薄れてしまうこともあるわけです。

そこで大切になるのは、教えていただいたことに感謝を示すことです。教えてもらったことに対して感謝できる新人とできない新人では、どちらが教えたくなるでしょうか? しっかりと感謝を示してくれる新人にはいろいろと教えたくなるものです。

例えば「おはようございます」「こんにちは」などのあいさつの後で、新人から「この前は○○について教えてくださりありがとうございました」「先日はお時間をいただき、ありがとうございました。またいろいろと教えてください」「先日教えてもらったことを早速やってみたら、すごくいい反応だったんです」などの感謝の言葉を添えられると、「じゃあ、また教えてあげよう」と思うものです。

そうすることで、新人は引き続き教えてもらえる関係を維持しやすくなります。新人がその関係を継続できるかどうかは新人の教わり方次第ですが、その重要性について指導者が最初にしっかりと意識させることには、大きな意味があるでしょう。

新人が「上司には教える義務があるんだから、私は教えてもらって当然」などという教わる側の態度では、早晩教えてもらえなくなります。

もし、あなたの担当する新人が別の先輩方から何か教わった際には、「教えてもらって当然だと思わないほうがいいよ」とか、「引き続きいろいろと教えてもらえるように、お礼を伝えておくといいよ」と伝えてください。そうすることで、教える側も気持ちよく教え続けることができ、新人の育成に多くの方が関わってくれるのです。

当然ですが、多くの方が関わってくれる新人は、多くのアドバイスをいただくことができるので、急成長していくことができます。

3つ目の共通点:「助けて」と言える習慣

指導者の共通の悩みに、新人から困っていることや悩んでいることをなかなか打ち明けてもらえないということがあります。

そうならないためには、指導者が新人に「助けを求めることは、恥ずかしいことではないよ。みんなで成果を出すために必要なこと。躊躇するのはおかしい」とはっきり伝えておくことが大切です。新人に、「相談を通じて仕事を前に進めることは、チームへの貢献になる」という思考を持たせてほしいのです。

「進め方がわからない」「業務がうまく理解できない」といったSOSが発信できないタイプの新人は、どちらかというと人の目を気にしたり、失敗を極度に恐れたりする慎重派に多く見受けられます。また、プライドが高く、大きな失敗をしてこなかったタイプも、質問や相談ができず、1人で悩みを抱えてしまったりします。

こういうタイプは、「もう少し自分で調べたら、誰かに聞かなくても済むのではないか」「周囲からできないやつだと思われたくないから、なんとか自分で解決したい」と考え、問題を1人で抱え込み、先延ばしにしてしまうのです。何日も悶々と悩んでしまう人は、時間コストという視点でいうと課題があると言わざるをえません。

私は新人に対して「困っていることを言わないで放置するのが最もダメ。すぐに報告、相談することを大切にしてほしい」というメッセージをつねに伝えるようにしています。

トラブルや悩みが生じると、新人は「恥ずかしい」とか「自分の評価を下げる」とか、自分事としてそれらを抱え込みがちです。しかし指導者としては、「時間を無駄にするな、チームのために報告せよ」と、つねにチームを意識させることを徹底させることが大切です。

そうすることで、チームで早期に解決に向けて動き出すことができ、組織として時間のロスと成果のロスを最小限に食い止めることができるのです。

そして当の新人もチームに悩みを受け止めてもらえることで、短時間で前向きに行動し始めることができ、急成長していくことができるのです。

3つの習慣があれば多くの人に助けてもらえる

以上、3つの習慣として入社1年目の新人が急成長する共通点をお伝えしました。いずれも、ビジネスパーソンとしての「基本中の基本」と言えるものですが、意外と身に付いていない新人も少なくありません。そしてこの3つがおろそかなままだと、どんなに時間をかけて丁寧に指導しても、新人の成長速度は思ったように上がらないことでしょう。

なお、新人がこれら3つの習慣を実行できるようになると、もう1つ副次的なメリットが生まれます。それは、より多くの人に関わってもらえるようになることです。教えたことをきちんとメモしてくれて、お礼を言ってくれて、トラブルが発生したら適宜報告してくれる新人だったら、直接の指導者でなくても、周囲のみんなが「面倒を見てあげよう」と思うものです。

そうすると、さらに好循環が生まれます。あなたが忙しくなり新人の面倒見が悪くならざるをえないときでも、ほかの多くの人が少しずつ関わってくれれば、新人にとってはそのことが心の大きな支えとなります。また、新人の変化を指導者1人ではなく大人数で見守ることができれば、育成上とても有効に働くはずです。

指導者の方々は、今後新人教育において、本稿で紹介した3つの共通点をぜひ意識してみてください。そして、あなた1人の存在で新人の育成をすべて背負うのではなく、職場にいるより多くの人を巻き込みながら職場全体で新人の育成に対応していくことも意識してください。きっと新人は入社1年目から急成長する存在になることでしょう。