ビジネスでは緊張を強いられるシーンが多々ありますが、緊張を撃退するよい方法を紹介します(写真:perfecta/PIXTA)

プレゼン、スピーチ、商談など、ビジネスの現場では緊張を強いられるシーンが多い。そんなとき頭が真っ白になり、しどろもどろになり、本来の自分の実力を発揮できず、悔やんだ経験のある人は少なくないだろう。20歳以上の男女1579人を対象に行われた緊張に関するアンケートでは、82%の人が「緊張しやすい」ことが判明している(ハピ研・アサヒグループホールディングス)。ならば、どうすればいいのか? 演技コーチの伊藤丈恭氏が著した『人前で変に緊張しなくなるすごい方法』を一部抜粋し、再構成し、緊張を克服するための方法に迫る。

緊張しやすい自分をなんとかして変えたい

人生では公私にかかわらず、緊張を余儀なくされる場面が数多くありますよね。「緊張しないぞ!」と意気込んでも、「私は緊張していない!」と暗示をかけても、必死に深呼吸を繰り返しても、まったく効果がなく、それどころかますます緊張のドツボへ。その結果、本番や人間関係で大失敗――。もしかしたら、そんな経験をお持ちかもしれません。

私自身も、もともと緊張しやすい性格でした。俳優を志していた私は、出演した舞台やオーディションで何度となく失敗してきました。役柄になり切れなかったり、大事な場面でセリフが飛んでしまったり……。正直言って思い出したくないシーンがたくさんあります。そんな私だからこそ、緊張することに悩んでいる人の気持ちがよくわかります。緊張しやすい人のつらさは、そうではない人にはなかなか伝わらないものですから。

緊張しやすい人を指して、「他人の目線や評価を気にしすぎ」だとか、「自分のことしか考えていない」だとか、「準備が足りないから緊張する」だとか、あたかもモノの考え方や、事前の準備次第で緊張はとれるものだと主張する人がいます。あるいは、「緊張を生かしてハイパフォーマンスを発揮しよう」だとか、したり顔でいう人も増えています。そこで私は声を大にして言いたい。

「そんな余裕ないっつーの! モノの考え方で緊張がとれる? 準備を徹底すれば緊張しない? 腹式呼吸をすれば落ち着く? そんなことで解決するなら、だれも苦労しません! しかも何? 緊張を生かせ、とか、緊張を活用しろ、とか。緊張に悩んでいる人はそういうことじゃなくて、人前で話すときの、この苦痛や不安を、どうにか解消したいだけ!」

ちょっとテンションが上がってしまいましたが、あなたと同じく緊張しやすい私は、あなたの気持ちが痛いほどわかります。きっとこれまで、自分の性格や考え方に問題があるんだと、1人思い悩んでいたのではないでしょうか。

そもそも緊張状態は、脳内神経伝達物質のセロトニンやノルアドレナリンのバランスが崩れて、交感神経が活発になりすぎ、自律神経が乱れたときに起きます。その結果、心拍数が上がり動悸が激しくなり、手足や声は震え、冷や汗が出たり、赤面するといった「症状」がもたらされます。私たちが大事な場面でテンパるのは、医学的には自律神経の乱れに原因があったのです。

例えば、いまこの瞬間、お腹を空かせた獰猛なライオンと対峙してしまったとしましょう。すると、あなたの交感神経は一気に活発になり、自律神経のバランスが崩壊し、逃げ出そうにも頭の中は真っ白。冷静な判断はできず、その場でガチガチになってしまうことが想像できませんか? これがまさに究極の緊張状態です。

緊張は人に備わっている本能的な反応

日頃から緊張しやすい人は、“ライオン”が「プレゼン」であったり、「商談」であったり、「上司への報告」であったり、「初対面の人に会う」であったりするのでしょう。ライオンを怖がるなといっても無理ですよね。緊張というのは、もともと人間に備わっている本能的な反応ですから。

でも一方で、プレゼンがライオンだなんて大げさな、と笑う人もいるでしょう。そのような「緊張しない人」と「緊張する人」には心の奥底にどんな違いがあるのでしょうか。

私は、緊張しやすい人は「何事もなく平穏に終わってほしい」「大事な場面を無事に乗り切りたい」「成功したい」という思いが人一倍強いと考えています。無意識にそう思ってしまっているのです。

あなたが緊張して失敗してしまった場面を振り返ってみてください。そのときあなたは、「人生の一大事」「失敗できない」という気持ちが強くなかったですか? 先ほどのライオンの例でいうと、「生き残りたい」という思いが強い人ほど、逆に緊張して生き残るための行動ができなくなってしまうのです。

一方、緊張しない人は、プレゼンや商談などは「人生にとってさまつなこと」「失敗しても構わない」「むしろ楽しい」と思っています。意識的にそう考えているのではなく、無意識レベルでそう捉えているのです。すると結果として、自然体で話をすることができ、ビジネスでもどんどん成果を上げていきます。

世間には「緊張しているからこそうまくいく」と考えている人がいます。それはおそらく、一流スポーツ選手やアーティストが深い集中状態に入る「ゾーン」のような状態を指しているのだと思います。いやいや、私たちはビジネスの現場で、自然体で話したいだけなのですから、そんなものを目指す必要性は皆無です。

それよりも、普段通りに話せることが、仕事上で信頼感を得るためにははるかに重要だと思います。だから、緊張は「生かす」ものではなく、「とる」べきものなのです。

旧ソ連の俳優にして演出家、演技講師でもあったコンスタンチン・スタニスラフスキー氏(1863〜1938年)は、自然体の演技を引き出すためには緊張をとることが大切だとし、そのことを前提とした演技理論「スタニスラフスキー・システム」を構築しました。

スタニスラフスキー・システムには、「心は直接操作できない」という教えがあります。感情を込めろ、役になり切れ、勇気を持て、などと心を直接操作しようとしても、それは無理強いであり、かえって緊張はひどくなり、頭の中は真っ白になるだけだと見抜きました。メンタルというのは、少しでも無理に変えようとすると、フリーズしてしまうというわけです。

その一方で、心は間接的には誘導できることを発見しました。それは、直接操作できる「身体」を使うことで、間接的に心の状態を変化させられることに気づいたのです。スタニスラフスキー・システムは演劇界に革命をもたらし、ニューヨークのアクターズ・スタジオでも研究が重ねられ、「メソッド演技」として発展を遂げました。

実践!緊張をとる方法

ロバート・デ・ニーロ氏やアル・パチーノ氏などの名優も、メソッド演技を学んでいます。俳優たちが、舞台やカメラの前で自然体で話すことができるのは、身体を活用することで、心の状態を自由自在に操作していたからなのです。

緊張に悩んでいた私は、スタニスラフスキー・システムを徹底的に学びました。そして、自ら実践を繰り返していった結果、舞台上で緊張をせずに、自然体で演技ができるようになったのです。私はこの方法を「伊藤式・緊張撃退メソッド」として体系化し、同じ悩みをもつ俳優や俳優志望者たちの緊張をとることに成功しました。

さらに昨今では、その効果が広く知られるところとなり、ビジネスパーソンで取り入れている方も増えています。ある著名なIT系企業の若手社長も、プレゼン前に「伊藤式・緊張撃退メソッド」を行っています。

このメソッドには、シチュエーションによっていくつかの方法がありますが、ここでは「ジブリッシュダンス」を紹介します。「ジブリッシュ」とは演劇用語で、「メチャクチャ言葉」という意味です。

きちんとした日本語を話さなければならない、という常識や理性から解放されて、緊張しやすい自分を壊していくために「ジブリッシュダンス」を行います。「緊張をとろう」と考えて行う必要はありません。何も考えずに、プレゼンなど緊張を強いるイベントの当日の朝、出発前に自宅で行ってください。

【ジブリッシュダンス】●「シュビドゥララ〜 ズッコンサランヤ トルサマインコ〜」などと、なんちゃって外国語のようなメチャクチャ言葉で、ひとり言を言い続ける
●意味も設定も、感情も、何も考えずにとにかくしゃべり続ける
●声の抑揚やスピード、間を自由自在に変えて、それっぽいメチャクチャ言葉を追求する
●フランス語風、アラビア語風、といったように、メチャクチャ言葉の雰囲気を変えて楽しむ
●面白い感じのジブリッシュができたら、そのフレーズを連発して楽しむ
●乗ってきたら、ジブリッシュに合わせて適当なジェスチャーをつけて楽しむ
●どんどん声やジェスチャーを大げさにし、最終的には歌いながら踊る
●そのテンションのまま、家を出発する

なんだそれは!と思われた方は、実際に試していただけばその効果が実感できるはずです。「伊藤式・緊張撃退メソッド」は、頭で論理的に理解しようとしても、なかなか実感できないものです。それは、論理的な方法では、緊張をとることはできないことに似ています。心は論理によって変えることはできないのです。

あえて理屈を説明させていただくと、ジブリッシュダンスは「緊張している人」が絶対しない言動をすることによって、「緊張している自分を壊し」、感情が伴っていなくとも楽しい言動を繰り返すことによって、心を「緊張」から「楽しい」に誘導することを目的にしています。緊張しているとき人は楽しくありません。その逆で、楽しいとき人は緊張していないのです。

伊藤式・緊張撃退メソッドは、このように、緊張とは一見なんの関係もないような手法で、緊張を撃退していきます。

楽に生きるために緊張をとる

世の中にはいまだに、「頑張ればできる」「うまくいかないのは努力が足りないからだ」などという、心を直接操作しようとする精神論が横行しています。そのせいで、仕事でうまくいかないのは自分の頑張りが足りないからだと自信を失い、追い込まれている方がたくさんいるように思います。


本当はまじめで有能なのに、緊張のせいで口ごもってしまったり、うまい応対ができないだけで無能の烙印が押されてしまう世の中です。

そんな人たちのお手伝いを少しでもしたい。そんな思いで、私は「伊藤式・緊張撃退メソッド」を演劇の世界にとどめず、ビジネスの現場でも活用できるように改良を重ねてきました。

この方法で、あなたの心を覆っていた重たい気分はスッと消えていきます。そして、その代わりに楽しい気分がやってきます。

緊張しすぎて何度となく失敗し、何度となく落ち込んできた私にできたのですから、あなたにできないはずがありません。幸運を祈っています。