Q. 朝5時起きの予定、前日早寝は厳禁ってほんと?

■頑張っても眠れない「睡眠禁止ゾーン」

出張などで翌朝早めに起きる必要がある場合はどうしたらいいでしょう。思い浮かべがちなのは、前夜早めに寝る案だと思いますが、案外これが難しい。いつもより長めに寝ることはできても、早めに寝るというのは簡単そうでなかなかできません。実はこれには理由があります。

写真=iStock.com/tarasov_vl
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tarasov_vl

通常、人はずっと起きていると「睡眠圧」が上がってきて眠くなります。つまり朝7時に起きて仕事をしていれば、夕方には疲れて眠気が増してきてしまう。だから、さらにその時間を越して夜になれば、ますます眠くなるはずなのですが、そう単純にはいかないんです。

一日で最も眠い時間は、昼食後の午後2時頃。そして反対に眠気が一番遠のくのはいつもの就寝時間の2時間前あたり。つまり毎日午後10時に眠る習慣のある人は、午後8〜10時頃が最も眠りにくい時間帯になるのです。これを入眠の直前に脳が眠りを拒否するという意味で「フォビドンゾーン(進入禁止域)」、名付けて「睡眠禁止ゾーン」と呼びます。

これはイスラエルの睡眠研究家ラビー氏が1986年に提唱した理論ですが、いまもってなぜそうなるのか、解明されてはいません。

まず昼食後の午後2時頃に眠気が襲ってくる件ですが、これを「アフタヌーンディップ」と呼びます。しかし就寝までまだ時間があるのにどうして眠くなるのでしょう。「睡眠圧」を考えるならば、まだ余裕があるはずなのに。考えられる仮説としては、ヒトは、太古の昔よりその時間帯に昼寝をしていたからだという説があります。実際にサルなどを観察すると、その時間帯に寝ていることが多いんです。人間は社会を構築するうえで、その時間帯も働くことにしましたが、本来の体のリズムを考えるならば、その時間帯に昼寝をとるのが自然なのかもしれません。

■抗う力(オレキシンという物質)が一番高まるのが寝る直前の2時間

一方の「睡眠禁止ゾーン」ですが、朝起きてから徐々に高まる「睡眠圧」に対抗するためには、眠気に抗う別の力学が必要です。それがないと15時間以上もの長い時間起き続けていることができないからです。そして、その抗う力(オレキシンという物質)が一番高まるのが寝る直前の2時間であり、そこを超えた瞬間、人は急激に眠気を感じ入眠していくのではないかと考えられています。

だからこそ就寝時間を常に固定化することが、速やかに入眠できるコツなのです。そして早朝出勤などイレギュラーなケースでは、無駄なあがきはやめて「いつも通りに寝て睡眠時間を1時間削る」ほうが、睡眠の質的にはよいと思われます。

それでも「早く寝ていつもの睡眠時間を確保したい!」という方には、いつもより1時間早く風呂に入り、軽いストレッチを組み合わせて、人為的に眠るための体温を上げることをお勧めします。実際の時間はいつもの就寝時間より早いけれども、脳に「いつもの入眠コンディションですよ」と錯覚させることで、比較的速やかな入眠を実現できるからです。

アンケート調査方法=ランサーズで実施。調査日は2019年7月25日〜8月5日。

▼いつも通りに寝て睡眠時間を削るほうが、実はよい

----------
西野 精治(にしの・せいじ)
スタンフォード大学医学部精神科教授
同大学睡眠・生体リズム研究所(SCNlab)所長。医学博士、精神保健指定医、日本睡眠学会専門医。2019年5月に睡眠に特化した健康経営のコンサルティングなどを手がけるブレインスリープのCEOに就任。
----------

(スタンフォード大学医学部精神科教授 西野 精治 構成=三浦愛美 撮影=原 貴彦)