社員がなかなか休まない会社の経営者に欠けている視点とは?(写真:YinYang/iStock)

今までは会社が人を選ぶ時代だったが、人手不足に陥っている現在の日本では、人が会社を選ぶ時代になってきている。こうしたご時世に必要なのは、経営者が「働き方改革」と同じように、「休み方改革」を進めることだ。会社が魅力的になれば、魅力的な人材が働きたいと集まってくるはずだ。

だが、実際どうすれば休み方改革を進めることができるのだろうか。今回は筆者自らの経験を基に、経営者の観点から社員が休むメリットと、休むための仕組み作りについて考えてみたい。

ベストな「休み方」は人により違う

筆者は新卒でアクセンチュアに入社し、コンサルティング業務に従事した。コンサルティングは、短い時間軸の中でクライアントが抱える経営課題に対して方向性を示していく仕事で、数カ月単位のプロジェクトごとに、アウトプットベースの働き方をする。

当時参画したのは、金融機関の基幹システム刷新プロジェクトや、企業統合に伴うシステム統合プロジェクト、事業戦略策定、新規事業の立ち上げなど。プロジェクトの間はハードに働き、終了後に次のプロジェクトが始まるまでの1週間から2週間、まとめて有休を取得。そして長期休暇ごとに海外旅行に行くという、集中的に働いて集中的に休むというサイクルを築き上げた。

しかし、困ったことが起きた。ベンチャー企業に転職してからのことだ。ベンチャー企業はコンサルティング会社と働き方がまったく異なり、プロジェクト単位、アウトプットベースでの仕事ではなく、時間単位でつねに動き続ける働き方だったのだ。

それまで「プロジェクトが終わったら休む」という休み方をしていたので、あまりの違いに休むべきタイミングがわからなくなってしまった。趣味の海外旅行に行く機会を見つけるのも難しい。そこで海外旅行ではなく、3連休に有休をくっつけて、国内47都道府県を回る旅をするようになった。

休むタイミングを自分で作るためには、仕事のタスクコントロールもおのずと必要になり、結果的に「休み方」だけではなく、「働き方」も自分自身で変えていくことになった。

その後、ベンチャー企業を退職し、フリーランスのコンサルタントとして活動するようになると、再びコンサルティングファーム時代と同じプロジェクト単位(プロジェクトが終わった後、休みをまとめて取る)での働き方となった。

それから月日が経ち、みらいワークスを立ち上げたのは2012年のこと。今だから言えるが、創業当時は自分も社員も夜中まで働くような働き方をしていて、私自身も社員も「休みを取る」という感覚はなく、とにかく会社を成長させることに集中していた。

しかし、社員15人ほどの規模になった頃、単身者ばかりではなく家庭を持つ社員も働くようになったことをきっかけに、社員も自分もきちんと休みを取ろうという感覚が芽生えた。

「休んでいい」と言っても…

そして現在、私自身はゴールデンウィークと年末年始に長期休みを取り海外旅行に行く休み方をしている。普段は短期的な意思決定に追われているため、長期休暇中は、デッドラインが決まっていない重要な意思決定や、中長期的な事柄を考える時間に充てている。今まで、起業したり、新規株式公開(IPO)を目指したりなど、日常でなかなか取り掛かることができない重要な意思決定は、いつも旅行中にしてきた。

このような自分自身の経験から、働く環境や立場、業務の特徴によって、休み方や休む感覚は異なってくるものだと感じている。

私が休み方や休む感覚は人それぞれ違うと気づいたのは、前述したとおり会社が15人ほどになり、社員の休ませ方を考えるようになったことがきっかけだった。しかしながら、休んでもいいと言っても休まずがむしゃらになって働いてくれる(働いてしまう)社員もいて、心身ともに休ませる経験がない社員へ、休むことの大切さを気づかせる必要性も出てきた。

そのために、お盆の休暇取得を推奨したり、年末年始は全社的に休暇にしたり、ノー残業デーやプレミアムフライデーを設定したこともあった。会社として強制的に休みを設定し、「休暇を取るのはいいものだな。リフレッシュできるのだな」と体感してもらうための取り組みであった。

だが、考え方は人それぞれ。強制的に休みを設定しても、仕事することを希望する人もいる。働き方改革で、強制的に残業時間を制限したり、有給休暇の取得率を上げるための法整備がされているが、これによりハッピーになる人ばかりとはかぎらないのだ。

「人生100年時代」といわれているが、人生が長くなれば、過ごし方も人それぞれのバリエーションが増えるはずだ。ライフステージや自分のライフプランに応じて、集中して働きたいタイミングや働くべきタイミングがあったり、介護や出産、学び直しなどで仕事を休むべきタイミングもあるはず。

社員にモチベーション高く働いてもらうためには、価値観が多様化されていく日本で、働き方と同様、休み方も、強制ではなく「自ら選択している」と思える環境を整えることが大切なのではないのだろうか。

社員が「休みを取りたがらない」理由

厚生労働省の調査によると、2017年の有休取得率は、51.1%であり、世界から見ても低い水準であった。働き方改革法が施行され、2019年4月より年5日は従業員が有休を消化できるように企業に義務が課せられたので状況は多少改善すると見られるが、それでも日本に根付いた「休まない文化」を根本的に変えられるのかは未知数だ。

休みを取りたがらない理由には、「他人に迷惑をかける」「自分がいないと仕事が回らない」などがあるようだ。しかし、実際はそんなことはない。

私は、社会人2年目の頃、プロジェクト参画中に交通事故に遭ってしまい、唐突に数週間プロジェクトから抜けざるをえなくなったことがある。ちょうど繁忙期で、「自分がいないと大変なことになるのでは」と危惧したが、周囲のサポートのおかげで事なきを得た。一時的に、周囲に仕事の負荷がかかり迷惑をかけてしまったとは思うが、「自分がいなくても仕事は回るのだ」と実感した出来事であった。

個人的には、積極的に休みを取りリフレッシュするべきだと思うが、経営者としては、会社を問題なく運営することも考えなければならない。

「自分がいないと仕事が回らないのでは」と心配する社員に気兼ねなく休みを取得してもらうためには、特定の誰かがいない状況でも、ほかの誰かが代わって業務に当たれる状況を作っておくこと。そのためには、マニュアル整備や情報共有、引き継ぎ方法の統一が重要だ。これが「休み方改革」につながる。

例えば当社では、「みらペディア」という業務マニュアルを作成している。これは、ウィキペディアと当社の社名を掛け合わせた造語で、創業以来、改良を重ねている。創業当時、ミドルオフィスメンバーの7割ほどが、週2日出勤のパートタイムで、不在にすることも多かったのでチームの業務をしっかり伝達して連携することがとても大切だったのだ。

5日ぶりに出勤したときに、顔を合わせていないほかのメンバーが対応していた業務をそのまま引き継ぐこともしばしばあり、それを間違えることなく進めなければならないが、間接的に申し伝えるのはなかなか難しい。かといってリッチなITの仕組みを導入する予算もなく、なんとか運用でカバーしているという状況であった。

マニュアルを作るきっかけになったのは、無印良品の元会長である松井忠三さんの著書、『無印良品は、仕組みが9割』という本。38億円の赤字という経営難に陥っていた良品計画社をV字回復させた施策の1つに“MUJIGRAM”という名のマニュアルがあり、それについて取り上げられている本である。

メンバーからの提案により、MUJIGRAMのみらいワークス版を作成することになり、その結果出来上がったのが「みらペディア」だった。その後、ミドルオフィスだけでなくフロント業務でも「みらペディア」を作成し、すべての業務を全員で把握できる仕組みを作った。そして、誰かが休んでもほかの人に負荷をかけることなく仕事が回る仕組みと文化が定着していった。

「休み方改革」に必要な経営者の視点 

この仕組みと文化の定着により、今では「従業員に休んでもらうことはメリットしかない」と考えるようになったが、創業期は違っていた。創業期は、がむしゃらに働くことによりパフォーマンスが発揮されるのだから、従業員を休ませるのは、仕事がたまるというデメリットでしかないと思い込んでいた。

しかし、パフォーマンスを発揮できる環境は人それぞれ。ちゃんと休むことによってパフォーマンスが向上する人もいるのだ。「休み方」にも個人差がある。「休み方」にも多様性があることに気づいた。

業務マニュアルを作り、仕組み化した結果、社員が休んでも業務がたまることもなくなった。それもあってか、当社の有休取得率は62%。世の中の平均を10%以上上回っている。

経営者やリーダーは、社員が休むと仕事が回らないと思うかもしれないが、誰かが休んでも業務が回る仕組みは作ることができる。休み方は働き方にもつながる重要な軸なので、一度業務の仕組み化に真剣に取り組んでみてほしい。やってみてダメならやめればよいだけだ。やってみないと実際のところはわからないと思う。

“ダメ元”の取り組みが、方針がぶれていると思われてしまい困るというのであれば、初めから「やってみてダメならやめます」と宣言してしまえばいいのだ。

「働き方改革関連法により、従業員を休ませなければならない」という“やらされ感”ではなく、経営者自身が本気になって従業員のことを考え、休み方に関する多様性を認め業務の仕組み化を実行すれば、「休み方改革」は進むのではないだろうか。国の方針だからと仕方なしに取り組むのではなく、必要性を感じ自分事として「休み方改革」を推進する経営者が増えることに期待している。