買い物に不便を感じることがなさそうな東京都内の住宅地で、JAの移動販売車が好評だ。青果店の撤退やスーパーまでのアクセスの悪さなどの理由で、買い物に困っている住民の課題を解決。住民同士の交流のきっかけづくりにもつながっている。直売所が遠い生産者のために、その場で集荷するJAもあり、農家の負担軽減も進んでいる(木村泰之)

「急坂きつい」団地に 東京・JA八王子


 JA八王子は、2018年4月から移動販売車を走らせる。直売所「ふれあい市場」に出荷された野菜や果実、花、総菜など約100品を積む。当初は市内8カ所で始めたが、地域の要望に応えていくうちに、今では13カ所にまで増えた。

 今年6月、新たに運行を始めたのが、都多摩ニュータウン鑓水第二団地だ。団地の住民の3分の1が高齢者で、最寄りのスーパーは3軒あるが、1キロ先と遠い。また、スーパーまでの道が急坂で、買い物に行くのに不便だった。

 住民らの要望を受け、自治会が市と相談。都が、以前から市内で移動販売車を運行させていたJAに持ち掛け、実現した。毎回30人ほどが買い物に訪れている。同団地では京王電鉄の移動販売車も営業している。

 団地に住む主婦の橋本はるみさん(67)は「出歩くのが面倒になったので助かる。移動販売車が来ると、住民同士が顔を合わせる機会も増えた」と喜ぶ。

「その場で集荷」好評 JA東京スマイル


 東京都足立区や葛飾区など、交通網が発達した地域を管内に抱えるJA東京スマイルでも、今年4月から移動販売車を使った試験販売を始めた。足立区内2カ所を隔週で巡回。直売所が遠い生産者もいるため、販売場所で集荷し、その場で販売する。スーパーが近くにあることから、取れたての野菜に特化した品ぞろえが特徴だ。

 30アールでエダマメなどを栽培する福田剛広さん(41)は「直売所まで往復1時間かかるため、近くまでトラックが来て販売してくれてありがたい」と感謝する。

 JA経済営農指導部の石井義男部長は「高齢者が多いマンション住民向けの試験販売も始めた。農家は出荷が楽になり、消費者は新鮮な野菜を買うことができる」と、双方へのメリットを説明する。

青果店が激減 住宅地に需要


 住宅地での移動販売が増えてきた背景には、青果店の減少がある。経済産業省の商業統計によると、1996年に約4万店あった青果店が16年には10分の1以下の約3000店にまで減少した。

 都内の農業振興のために移動販売車導入を支援したJA東京共済連は「生産者からも消費者からも喜ぶ声があった。移動販売車が都市農業への理解を深める契機になっている。同様の課題を持つ地域のモデルケースにしたい」(管理部総務・企画管理グループ)と期待する。