お坊さんの知られざる金銭事情とは?(写真:Yukii/iStock)

お坊さんが普段、どんな生活をしているかを説明できる人は少ないだろう。「坊主丸儲け」という言葉もあるため、羽振りがよかったり、会社員と比べて苦労のない生活をしているのだろと勘違いしている人もいるかもしれないが、実際はそうでもない。新書『住職という生き方』を上梓し、今年で住職歴17年となる蝉丸P氏が「住職のリアル」について語る。第1回のテーマは、「住職の金銭事情」について。

「安定とは無縁」の住職という仕事

うちは檀家さん(寺を支援する家のこと)が250軒ほどあるのですが、これが多いかと言われると少し微妙なところでして。坊さん界隈では、首都圏で300軒あれば、副業を持たずに専業で食べていけると言いますが、地方の200軒くらいだとちょっと働きにでないと厳しい数字だといえます。嫁さん子どもを養おうと考えるなら尚更ですね。

地方の250軒というのが絶妙で、1人でやって行けなくはないんだけれども、嫁さんと子どもを抱えるのは厳しいかなと。1人でも余裕があるわけではないし……という感じでしょうか。

葬儀や法事の頻度ですが、葬儀は年間で(250軒に)×0.03くらいですかね。法事の件数だと250軒の3割くらい、年間に70軒くらいが法事を入れてきたりします。一方で、お葬式は結構変動します。葬式の「そ」の字も聞かないような年もあれば、遠方の家から寺に向かって順番に人が亡くなるような年もある。住職というのは業務量がまったく安定しない職業なのです。

このような状況が続いてまいりますと、はっきり言ってキャパオーバーになってしまうことも少なくありません。住職が倒れてしまえば元も子もないわけですから、檀家総代や結集寺院と協力し合いないがらさまざまな業務を進めていかなければいけません。

ただ、総代さんとのやり取りもそれなりの仕事といえる量がありまして、総代会議と言って、自分のお寺の年間予算や定例の行事をどうするかという会議をしなければいけませんし、支所で催し物をするときはその会議もしなければいけません。

また、それとは別に支所で青年会に入っていれば(というか半強制的に入ることになります)そちらの行事に関する会議や予算の割り当てだとか、具体的に誰が人を出すかという話まですることになります。

自分のお寺は自分1人しかいませんから、全部に参加しなければいけないわけですが、さすがにやり切れない支所活動は断ることもあります。これが逆に、奥さんや子どももいる場合ですと「お前出られるやろ」といった感じでいろんな役職仕事が回ってきてしまうことが多いので大変です。

とかくキャパオーバーになりがちなのが住職という職業なので、檀家総代や結集寺院、家族がいれば奥さんや両親と協力しながら進めていくことが極めて大切になってきます。

住職の大半は「ブラック」

さて、それなりに忙しい職業である住職ですが、実は社会保障は国民健康保険しかなく、特別な措置もありません。家族を抱えている人は家族を職員とみなして厚生年金に入ったりするところもありますが、住職1人だけではとても払いきれないと思います。

端的に言って、大半の住職はひどくブラックな職業だといえるでしょう。年収500万円以下ならば、正直、福利厚生は中堅のメーカーとかのほうが全然いいのかもしれません。お通夜、葬式、法事での収入は不安定なうえに住職の福利厚生はないに等しいので、なかなかに厳しいものがあります。

それこそ事故にあって歩けなくなったり、喉が潰れてしまったりしても何の保証もなく追い出されます。息子さんのいるお寺であってもこれは同じで、継がせないのならばたたき出すぞという。檀家さんによっても違いますけど、こういう脅し文句は常套句でした。

さてここで質問です。檀家さんの年会費はいくらくらいでしょう?世の中には「坊主丸儲け」という言葉もございますが、実際の年会費は別に高くも安くもなく、大体年間で5000円から1万円程度が相場になっています。

では住職は檀家さんからお金を集めて何に使っているのでしょうか。まず、お寺は火災保険に入る必要があります。お寺という場所があるということが重要ですから、火事になって建て直せないようでは住職が困るだけではなく、檀家さんも困ってしまいます。後は本堂の電気代やガス代、線香やローソクなどの消耗品、所属宗派への看板代である宗費を払ったらカツカツで、住職が自由に使えるお金ではありません。

ですから、お寺に年会費を納めるというのは、檀家さんにとって、お寺の維持続の為の費用であると言えます。ちなみに、本堂の保険は店舗特約になってしまうので(お寺は店舗?)保険料も掛け捨てになります。なんとも世知辛いことでございます。

先ほど述べたように、不動産収入でも無ければお寺の収入というのは一定しません。高給かと言われると困ってしまうくらいの不安定さですね。「お寺さんだったらお金持ってるだろう」と見られがちですし、「税金払わなくてもいいんですよね?」という誤解に満ちた質問をされることも少なくありません。

「坊主丸儲け」とはいかない懐事情

また税金の面でもメリットだけではありません。固定資産税がかからないだけです。公益法人みたいなものだから、個人のものではないという考え方ですね。固定資産税が課されたら、明治神宮や浅草寺みたいな大きい寺でも潰れてしまうと思いますよ。

大きいお寺ですら大変なのですから、とくに都内の小さいお寺なんて軒並み潰れてしまうでしょう。だから、固定資産税が取られないというのと、法人収入が一定金額(8000万円)以上の収入でなければ法人税は免除になるというわけです。


新興宗教で収入の大きいところは法人税免除が生きてくるでしょうが、寺の世界でそんな巨大な収入があるところは少数派ですし、不動産など副業を展開したりすると「営利事業」になっちゃうんですよ。たまにニュースになりますが、観光寺院や有名な神社でお守りとかお札とか、どこまでが宗教行為、どこまでが営利行為なのかという線引きは税務署の匙加減ひとつですね。

檀家200軒、250軒の世界では年収1000万円なんていかないわけです。法人として寺の収入が500万だとしてもそこから法人職員である住職への給与という形で払われるのでいろいろ引かれていきますから、個人に対して税制上の優遇というのはありません。