[画像] フィリップ モリスがIQOSで目指すのは「煙のない社会」「紙巻きたばこ撤退」 社会を変える理念の企業にこそ人が集う

たばこ業界は、今、大きな変革期を迎えている。

受動喫煙対策を強化する改正健康増進法が成立。東京オリンピック・パラリンピックを控えた2020年4月には、全面施行される。

多くの人が集まる施設では「原則禁煙」となる。
違反者に対しては罰則が科せられる。

こうした喫煙環境の変化に呼応し、ここ数年「IQOS(アイコス)」に代表される「加熱式たばこ」や、VAPE(ベイプ)と言われる「電子たばこ(ニコチン含まない)」への移行や普及が推奨されている。
「加熱式たばこ」が勧められる大きな理由としては、紙巻きたばこに比べて有害物質の低減や受動喫煙に配慮した設計があげられる。

フィリップ モリスは、そうした状況の中、いち早く
将来的に「紙巻きたばこの事業から撤退する」と宣言した。

フィリップ モリスは、いわずと知れたIQOSなどを展開する世界的なたばこ会社である。

一見、フィリップ モリスそのものを否定するかのような衝撃的な宣言は、
本当に実現可能なのだろうか?

フィリップ モリスが、IQOSで目指している社会の変革。
「煙のない社会」
「紙巻きたばこ事業からの撤退」

日本法人フィリップ モリス ジャパンに、このあくなき挑戦の実像を伺った。


■「煙のない社会を目指す」理念に感銘した人が集まる会社
フィリップ モリス ジャパンは、フィリップ モリス インターナショナル(PMI)の日本における子会社だ。 1985年に日本でビジネスを開始して以来、日本国内でのフィリップ モリス製品のマーケティング、および販売促進をおこなっている。現在、日本国内で加熱式たばこ「IQOS」シリーズを展開している。


フィリップ モリス ジャパン マーケティング&コミュニケーションズ エクスターナル コミュニケーション&パブリック リレーション マネジャー 小池蘭氏

今回のインタビューに応じていただいたのは、
フィリップ モリス ジャパン
マーケティング&コミュニケーションズ エクスターナル コミュニケーション&パブリック リレーション マネジャー小池蘭氏(40歳)だ。

小池蘭氏は、
2001年に三菱自動車に入社。
2004年に三菱ふそうトラック・バスに転職。2001年からおよそ13年間、広報活動に携わり、広告宣伝とブランド管理を2年間担当。
2016年9月にフィリップ モリス ジャパンに転職。
現在、主に広報活動に携わっている。


小池蘭氏が、フィリップ モリス ジャパンの転職した理由が、
「煙のない社会を目指す」
この理念や取り組みに感銘を受けたからだ。

実は、ここ数年、フィリップ モリス ジャパンには、
小池蘭氏のように、「煙のない社会を目指す」という理念に感銘を受け、「世の中を変えたい」という思いから入社する社員が増えているそう。
また、非喫煙者の入社希望も多いのだとか。



■20年の開発期間を経て誕生した加熱式たばこ「IQOS」
PMIでは現在、4種類のたばこデバイス(プラットフォーム)を開発している。

大きく分けて、2つのカテゴリーに分類される。
・加熱式たばこ
・ニコチン入りの電子たばこ

いずれも「次世代たばこ」と呼ばれており、日本で販売されているIQOSはPlatform 1の加熱式たばこにあたる。


フィリップ モリスが開発した4種類の製品群。「加熱式たばこ」と「ニコチン製品」の2カテゴリーがある(資料提供:フィリップ モリス ジャパン)


IQOSは、
・IQOSホルダー(たばこスティックをセットして使用するデバイス)
・IQOSチャージャー(IQOSホルダーの充電器)
・たばこ葉が入った専用たばこスティック
この3つの要素で構成されている。



「IQOS」のラインアップ


使用する際は、たばこスティックをIQOSホルダーに挿しこむ。
IQOSホルダー内にある加熱ブレードがたばこスティックのたばこ葉を加熱すると、ニコチンを含む蒸気が発生して、喫煙者はニコチンを吸引できる。

注目したいのが、たばこスティック内のたばこ葉だ。
実は、紙巻きたばこのたばこ葉とは、まったく異なる製法や形状をしているのだ。

ここにこそ、フィリップ モリスの20年にもおよぶ研究の成果が詰め込まれている。


上が紙巻きたばこのたばこ葉、下がたばこスティックのたばこ葉


小池蘭氏
「たばこの葉を5回に分けて、いったんパウダー状になるまでグラインドします。そのパウダー状になったものに、水やグリセリンを混ぜてペースト状の薄いシートにします。
それを乾燥させて、切り込みを入れて折りたたんだものが、たばこスティックになります。」

たばこスティック内のわずか1〜2cmのたばこ葉には、とんでもなく手間がかけられているのだ。

小池蘭氏
「今までの紙巻きたばこをIQOSに挿そうとしても、挿さりません。無理矢理挿せても、ブレードとたばこ葉の接触面が均一ではないので、均等に加熱ができません。そのため、ブレードの開発をしながら、たばこの葉をどう加熱したらよいのか、これらを同時に開発しました。」


たばこスティックを分解すると、たばこ葉やフィルターを見ることができる


たばこスティックには、熱い蒸気を冷ますフィルターや紙巻きたばこと同じような口当たりにするためのフィルターも含まれている。

IQOSホルダーに挿しこむたばこ葉の部分は、ブレードとほぼ同じ長さだ。
正確には1mmブレードに足りないくらい精密な長さで製造されており、ブレードがフィルターに届かない絶妙な距離になるように設計されている。

たばこスティックの開発においては、たばこ葉の組み合わせを何種類も確認する必要があったという。

さらに、加熱式たばこは火を使わないため、加熱した際の
・ニオイはどうか?
・発生する成分がどうか?
こうした研究もあわせておこない、試行錯誤を重ねた末に開発されたという。

IQOSのような既存製品に置き替える新製品を製品化するまでの道のりは非常に厳しい。
・エアロゾル(たばこの蒸気)の中にどんな物質があるのか
・マウスによる臨床試験
・誤解のない宣伝ができているか
これらをすべてクリアしてはじめて誕生する。

IQOSのターゲットは、
・既存の紙巻きたばこ喫煙者のみ。 
・非喫煙者はターゲットではない。
・もちろん未成年者もターゲットではない。

そうした理由から、紙巻きたばこの喫煙者がIQOSを使った際に、紙巻きたばこと同等の満足感や吸い応えが得られることに注力している。


■有害物質の発生を約9割も抑える IQOS開発における挑戦
たばこに限らずモノが燃焼すると、有害物質が発生する。
フィリップ モリス ジャパンが「煙のない社会を目指す」理由はそこにある。

紙巻きたばこは4000種に近い有害物質を含んでいるといわれている。
有害物質の量は燃焼温度と関係しており、高温であればあるほど、有害物質が多く発生することがわかっている。

つまり、燃焼させず加熱することで有害物質の量を減少させることができる。

しかし、低温になれば吸い応えは低減してしまう。
有害物質の量を抑えながら、従来の紙巻きたばこと同等の吸い応えを実現するのか?

IQOSは、この課題に真正面から取り組み開発された。


IQOSの加熱ブレードの温度は350度以下、たばこ葉は300度以下で加熱される。(資料提供:フィリップ モリス ジャパン)


実験によると、紙巻きたばの燃焼温度は800度にも達し、多くの有害物質が発生する。
一方、IQOSは300度以下で、たばこ葉を加熱している。

・燃焼していない
・紙巻きたばこよりはるかに低温
このことが、有害物質を減少させるために重要なポイントなのだ。

実際にIQOSはどの程度、有害物質を低減できているのだろうか?


有害性成分の量を平均して90%程度低減(資料提供:フィリップ モリス ジャパン)


資料内の数値による結果。
・FDAが指定しているは健康にとくに害をもたらす化学物質(18種) 90%低減
・PMI58はそれ以外の有害物質を合わせた化学物質(58種) 90%低減
・Carcinogensは発がん性のある化学物質(15種) 95%低減


もちろん、100%有害物質が発生しないわけではない。
しかし従来の紙巻きたばこと比較し、9割以上の低減を実現できたことになる。

また、紙巻たばこには、吸引した際に煙の中に超微細粒子が含まれ、これが壁や天井に汚れとして付着する。


紙巻たばこの煙とIQOSのエアロゾルの比較(資料提供:フィリップ モリス ジャパン)


IQOSは燃焼による煙が出ず、発生するのは蒸気で固体粒子がないため、壁や天井を汚しにくい。
IQOSのフィルターも綺麗なままだ。



IQOSへの切り替えによって、禁煙に近い状態に


小池蘭氏
「喫煙者が、どこかの時点で禁煙すると、疾病リスクは下がっていきます。PMIは、米医学研究所の用いる『究極の判断基準(ゴールデン・スタンダード)』による評価方法に基づいて、禁煙したときの喫煙関連疾患リスクの低減に、できるだけ近い結果を示す製品を開発することを目標としています。」

有害物質の発生を低減することは、喫煙者だけでなく、周囲の人々にも影響を与えることになる。


屋内空気環境を測定した数値(資料提供:フィリップ モリス ジャパン)


上記の資料は、屋内の空気環境を測定した実験結果を表したものだ。
IQOSも紙巻きたばこも使用していない環境と、IQOSを使用した場合、紙巻きたばこを使用した場合とを比較している。

IQOSを使用した場合は、何も使用しない環境の場合と比べてあまり変化がみられないが、紙巻きたばこを使用した場合は、有害物質が一気に発生する。

IQOSの場合、
・ニコチン
・アセトアルデヒド
この2種類がわずかながら検出されているが、その量は微量であり屋内空気環境に悪影響を与えない。つまり、IQOSを利用することで、紙巻きたばを利用する施設よりも圧倒にクリーンな環境を保つことができる。


■互換製品や他社製品への考え
有害物質を徹底的に排除する。
それと相反する、喫煙者の満足感や吸い心地の提供。
IQOSは、このために20年もの間、研究・開発してきたという。

これまで紹介してきた成果や実証実験の結果については、
「IQOSホルダー」
「たばこスティック」
この組み合わせによるものだ。

しかし、最近ではIQOSホルダーではないが、たばこスティックが利用できるサードパーティー製のデバイス(いわゆる互換製品)が、数多く販売されている。

このことについてフィリップ モリス ジャパンは、どのような見解なのだろうか。

小池蘭氏
「我々が目指しているのは、製品が普及することが最終目標ではなくて、社会的にポジティブなインパクトをもたらすことです。
害を減らすということを研究の肝にしています。
我々が長年研究してきたサイエンスは、IQOSに関するものであるため互換製品との組み合わせは推奨していません。」

互換製品を利用した場合、
フィリップ モリスが達成した有害物質を9割低減する、
この研究結果を実現、再現することができなくなる。
このことは、互換製品の利用者の健康にとって、大きなデメリットにもなる。

フィリップ モリスでは、IQOSに近い製品(類似品)に関しては、1件1件、パーツを確認、検証しながら、適切な措置を取っているという。
特許の数は、先に紹介した加熱式たばことニコチン製品をあわせた4製品群と、それに関わるもので4600以上を取得しており、現在も6300を超える特許を出願中とのこと。

一方で、他社の加熱式たばこや、電子たばこについての見解も伺った。

小池蘭氏
「新しい製品が出てくるのは、新しいカテゴリーとして喜ばしいと思っています。

いろいろな企業が参入することで、お互いに切磋琢磨して競争が生まれて、どんどんお互いのデバイスがよくなるので、いいと思います。」

多くの企業が参入するということは、フィリップ モリスが他社に先駆けて開発を進めてきた加熱式たばこというプロダクトが、方向性として間違ってなかったという裏付けにもなるという。


■紙巻きたばこ事業の撤退は可能なのか?
フィリップ モリスは将来、IQOSなどの加熱式たばこやVAPE(電子たばこ)製品に切り替えて、紙巻きたばこ事業を撤退する方針だという。

そこにはどんな思いがあるのだろうか?


小池蘭氏


小池蘭氏
「たばこ製品に限らずどこの業界でも、ある会社が販売する製品に害がある、もしくは危険があるとわかった時に、そのリスクを減らすというのは企業使命であり、責任として当然だと考えています。

それが我々にも当てはまっています。
紙巻きたばこの煙には、多くの有害物質があり、健康に被害をもたらします。

我々はそこを認めた上で、紙巻きたばこに代わる製品開発をしています。
将来的にはすべて煙の出ない製品で、健康リスクを低減できるということを証明したい。そして、私たちのビジネスもすべてこれら(加熱式たばこ、電子たばこ)の製品に切り替えていくことを目標としています。」

紙巻きたばこによる喫煙は、がんや脳卒中、糖尿病など、さまざまな重大疾病の原因になるといわれている。これは、紙巻きたばこの燃焼によって発生する有害物質の影響が大きい。

一方で、喫煙による疾患の主要因ではないとされているが、依存性があるニコチンの存在もある。
喫煙者は、煙や有害物質を体内に取り入れたいわけではない。
依存性のあるニコチンを体内に取り入れるために、たばこを吸引していると考えられている。

WHOによると、2025年においても世界中で10億人以上の人が喫煙を続けると推測されており、そのうち、フィリップ モリスの試算ではフィリップ モリス社製の紙巻きたばこを吸っている人は全世界で1億4500万人になるという。

規制の強化、環境の変化、自ら禁煙、たばこ製品を使う人が少なくなるなどの試算から、1500万人くらいの人がたばこを利用しなくなると見ているが、フィリップ モリスは、こうしたデータを踏まえた上で、2025年までに4000万人のフィリップ モリスの紙巻きたばこ利用者を、IQOSを含めた煙の出ない製品への切り替えを目指しているという。


2025年には、世界で1500万人がたばこを利用しなくなるという(資料提供:フィリップ モリス ジャパン)


なお、現在では全世界でおよそ1000万人がIQOSを利用しているとのこと。
今後、さらに5〜6年をかけて4倍の4000万人をIQOS利用者にかえていこうというわけだ。



社会全体への悪影響の低減が目的(資料提供:フィリップ モリス ジャパン)


小池蘭氏
「しっかりと製品開発しながら、使用される方が満足されることを目指したいと考えています。我々はハーム・リダクション(harm reduction)を目指しているので、紙巻きたばこからIQOSへの完全移行を重要視しています。」

ハーム・リダクションとは、
社会全体への悪影響を低減することだ。健康被害や危険をともなう習慣があれば、それをできる限り少なくすることを意味する。

フィリップ モリスが目指す「煙のない社会」の実現は、
遠い将来なのか?
もしかしたら予想以上に近い将来になるのか?

今はまだ分からない。

小池蘭氏
「フィリップ モリスとしては、紙巻きたばこ事業の撤退は『明日にでも!』という気持ちでやっております。

ただ、実際に我々が明日、コンビニの紙巻きたばこを撤去したところで、紙巻きたばこの喫煙者は、ほかの会社の紙巻きたばこを買うだけなんですよね。

社会的にまったくポジティブなインパクトがないのです。
なので、まずフィリップ モリスを使っている成人喫煙者の方にIQOSに切り替えていただくことを第一に、他社製品を使われている方にもアプローチしています。」

たばこ会社が「紙巻きたばこ事業の撤退」を言い切る。
これだけでも、社会、市場、業界に与えるインパクトは大きい。

フィリップ モリスは、その宣言を実現するために、長きに渡ってさまざまな研究・開発をしてIQOSという製品を創り上げた。

そこには「社会を変える」「企業としての責任を果たす」という、ブレない自信と理念があった。


関連リンク
フィリップ モリス ジャパン | フィリップ モリス 日本 - JA
受動喫煙対策|厚生労働省


執筆:ITライフハック 関口哲司
撮影:2106bpm、関口哲司