マイクロソフトは8月から週休3日制度を試験導入する(写真:まちゃー/PIXTA)

日本マイクロソフトが8月の1カ月間、「週休3日制」を試験導入する。全社員が対象で、8月の金曜日をすべて有給の「特別休暇」とし、国内の全オフィスを閉鎖する。社員にはスキルアップや家族旅行などの時間に充ててもらうという。

週休3日制は、2017年にヤフーが育児や介護を抱える従業員を対象に導入。アクセンチュアも育児や介護などを抱える従業員に、週20時間および週3日以上という範囲内で短縮勤務制度を導入している。

ただ、全社員を対象に導入するケースは大手企業では珍しい。日本マイクロソフトで働き方改革を推進してきた岡部一志・業務執行役員に制度導入の狙いを聞いた。

本来の狙いは「週4日勤務」制

――8月から「週休3日制」を試験導入します。

国内の全社員約2300人を対象に、8月の金曜日を休暇とする。ただ、週3日休むことを目的とする「週休3日制」というより、週4日間で5日分の仕事をこなす「週勤4日制」が本来の狙いだ。「短い時間で働き、よく休み、よく学ぶ」ようにするのが目標だ。

今年8月に実施し、来年8月も同様に実施する予定だ。その成果を検証して、今後の働き方改革につなげたい。ただ「週勤4日制」を標準とすることは考えていない。そこまですると、会社の経営戦略からすべて変わってくる。あくまで時間の使い方をより効率化させることが狙いだ。

――そのように狙う理由は何でしょうか。

大きな理由は2つある。1つはマイクロソフトの事業の軸にある顧客の生産性向上を、自社でも実践することだ。パソコンのウィンドウズOSにしても、ワードやエクセルといったOffice製品にしても、もともとわが社は、いかにして人々の仕事や生活の生産性を高めるかという課題解決を事業の軸としてきた。

今はソフトウェアを作り、「買ってください」と営業する時代ではなくなっている。顧客がITを使いこなしている時代には、自社がいかに生産性向上を実践しているかが問われる。だからこそ、(勤務日数が)週4日でも週5日と同じだけの成果を出せることを証明したいと考えている。

もう1つの理由は、新たなアイデアやイノベーションを生むには、やはり仕事を効率化したうえで、よく休み、よく学ぶことが重要だからだ。全社一斉に試験導入することで、社員に効率的な働き方の実践を促したいと考えている。

その前提にあるのは、わが社の「ワークライフチョイス」という考え方だ。よく「ワークライフバランス」といわれるが、仕事と生活は本来、ただバランスをとればいいというものではなく、個々人の事情に応じて、そのバランスを社員が選択(チョイス)できたほうがいい。


岡部一志(おかべ かずし)/日本マイクロソフト業務執行役員コーポレートコミュニケーション本部本部長。1968年愛媛県生まれ。1991年慶應義塾大学卒業後、横河・ヒューレット・パッカード(現・日本ヒューレット・パッカード)入社。1999年日本マイクロソフト入社。一貫して広報畑を歩き、2016年より現職。(記者撮影)

働きたいときはとことん働けばいいし、家庭生活に時間を割きたいときはそうすればいい。それをもっと、一人ひとりの社員が自由に選択できるようにしたい。

その考え方を社内で浸透させようとしているが、まだ不十分だ。例えば、育児中の女性社員にヒアリングすると、社内保育所を設置するのもいいが、むしろ夕方に罪悪感を抱かないで子どもを迎えに行けるようにしてほしい、という声もあった。

フレキシブルに働きやすい制度を整備しても、社員一人ひとりが効率的な働き方を実践していないと、そうした職場風土は変わらない。ワークライフチョイスの考え方をもっと浸透させるためにも、週4日制を試験導入することで、社員の意識改革を一層図りたい。

会議時間は30分に半減、メンバーも5人以内に

――導入に向けての課題とは?

大きな課題は業務の効率化だ。社員からは「今でも忙しいのに、業務量が変わらないまま週4日勤務では、とても仕事をこなせない」といった不安の声が上がっている。そうした不安を解消するため、社内では3つの行動を推奨している。

1つは、会議時間を1時間から30分に短縮することだ。これまでの社内会議は、慣例で1時間に設定されていることが多かった。しかし、もっと効率化が可能だ。そのため、物事を決める必要がある場合は、30分以内に終えることを推奨している。

もう1つは、会議のメンバーを5人以内にすることも推奨する。参加人数が多いとどうしても時間が長くなる。なるべく5人以内にして、意思決定の時間をその分短くする。また会議の参加者はあらかじめ明確にする。「よろしければ参加ください」といった一斉メールを送り、任意での参加を促すことは極力避ける。

3つ目が、ミーティングはなるべくオンラインのコミュニケーションツールを利用すること。社内のコミュニケーションツールではチャットも利用しており、メールで求められるようなあいさつ文がないことも効率化につながっている。

――週休3日制の試験導入には、「よく学ぶ」という狙いも掲げています。

週休3日制を「単に休みが増えてよかった」と捉えられるだけではいけないと考えている。もちろん金曜日を休息に充てるのもいいが、仕事以外の経験を通じた自己成長、または私生活の充実、社会貢献などにも活かせるよう、社員支援プログラムを用意している。

例えば自己成長であれば、取引先の企業に協力してもらうなどして、他企業で職場体験をしたり、私生活であれば家族旅行の費用を補助したりする。社会貢献活動については、例えば教職員や高齢者向けのプログラミング研修に参加するといったメニューを用意している。

実践したいアイデアを募集して、認められたら10万円までの資金を援助する。こうした社員支援プログラムも通じて、ワークライフチョイスの考え方を浸透させていきたい。

働き方改革の「ネクストステージ」

――過去の働き方改革とは何が違うのですか。

これまでも働き方改革を実施してきたが、今行っているのは働き方改革の「ネクストステージ」という位置づけだ。

わが社が本格的に働き方改革を経営の中核に置いたのは、2011年のこと。当時、都内に分散していたオフィスを、現在の品川の本社ビルに集約したことがきっかけとなった。ちょうど東日本大震災の発生と時期が重なり、テレワークを導入した。

その後、2016年に就業規則を変更し、勤務場所や勤務時間の制約を取っ払い、人事部門や上司に申請しなくても、自分の判断でフレキシブルな働き方ができるように制度化した。2017年秋からは「休み方改革」として、男性社員が有給の育児休暇を合計6週間取得できるようにし、有給の介護・看護休暇を計20日間取得できるようにもした。

ただ、これは社内の大勢を占めるホワイトカラー向けの働き方改革だ。働き方改革の次の段階では、社員全員が個々人にとっていちばんいい働き方を選べるようにしたい。それが、ワークライフチョイスの考え方だ。「週休3日制」の試験導入で、働き方改革をネクストステージに移していきたい。