G20での日韓首脳は「たった8秒の握手」だった。今回の「日韓貿易戦争」は日本が「圧倒的に有利」とされているが、果たしてそうか(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

6月と7月で世の中はすっかり様変わり。大阪G20首脳会議が始まるまでは、「米中貿易戦争はどうなるのか!」と、皆が固唾をのんで見守っていたものだ。ところが6月29日に米中首脳会談が終わったら、それはもうどこかに行ってしまい、今月の焦点はズバリ日韓関係である。いやあ、どうなるんですかねえ。

韓国企業が浮き足立つのも無理はない


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大阪G20が終わった翌週の7月1日、経済産業省は「対韓国輸出規制」に踏み切ることを公表した。そして4日から実施。たちまち日韓関係は大揺れとなった。

今回、規制対象となったのは、「レジスト」(感光材)、「エッチングガス」(フッ化水素)、「フッ化ポリイミド」という3種類の半導体材料。韓国によるこれら材料の対日輸入額は5000億ウォン(466億円)に過ぎないが、それによって生み出される韓国製の半導体とディスプレ−は、全世界への輸出総額が170兆ウォン(15.8兆円)に達する。つまり日本側は失うものが小さく、韓国側が受ける打撃は大きい。これを称して、「レバレッジが高い効果的な経済制裁」ともてはやす向きもある。

韓国企業の反応は素早く、サムスン電子の李在鎔副会長は7月7日にはお忍びで日本へ飛んだ。日韓の政府間交渉に任せていたのでは埒が明かない、民間企業同士で解決を図ろうと考えたのだろう。その認識はまったく正しくて、韓国政府はこれを政治問題化させて、外交戦、宣伝戦に持ち込む構えである。文在寅大統領の頭の中に、「経済界の利益」や「日韓関係の安定」は存在しないとみえる。

しかし供給元の日本企業としては、たとえ韓国財界のトップから直々に陳情されたとしても、これが政府による輸出管理政策上の判断だと説明されると手の打ちようがない。この問題、政府と民間企業ではまるで受け止め方が違ってくるのだ。

世間的には、「WTO提訴になった場合、日韓のどちらが勝つか?」みたいな話になっている。しかし企業にとっては、そんな話は悠長に聞こえてしまう。WTOで争うとなれば、答えが出るまで1年やそこらはかかる。韓国企業の半導体材料の在庫は長くて3カ月分、短ければ1カ月程度しかないと言われている。彼らが浮足立つのも無理はないところだ。

それではこの喧嘩、日本が圧倒的に有利かというと、そうとも限らない。この問題に対する日本政府の説明が、7月第1週と第2週以降で微妙に変化していることにお気づきだろうか。

安倍首相の気持ちはわかるが「世界がどう見るか」がキモ

安倍晋三首相は7月3日、日本記者クラブ主催の党首討論会において、本件は元徴用工訴訟で対応を示さない韓国政府への事実上の対抗措置だという認識を示している。「1965年の日韓請求権協定で、互いに請求権を放棄している。約束を守らないうえでは、今までの優遇措置は取らない」とも語っている。

もちろん日韓関係には、それ以前から従軍慰安婦合意の一方的破棄、レーダー照射事件、水産物規制などの問題が積み重なっている。徴用工問題については、日本政府は日韓請求権協定に基づき、日韓と第三国による仲裁委員会の設置を5月に求めた。ところが韓国側は期限の6月18日になっても仲裁委員を任命せず、翌19日になって突然、日韓企業が資金を出し合って救済することを提案した。おいおい、それって財団方式じゃないか。2015年の日韓合意でできた慰安婦の「和解・癒し財団」を、勝手に解散してしまったのはどなたでしたっけ? 安倍首相がブチ切れた心情は、非常によく理解できる。

とはいうものの、韓国に対して恣意的な経済制裁を打ち出すのは拙いだろう。日本は今までそういうことをしない国だった。自由でリベラルな国際秩序の忠実なる担い手だった。特に今年はG20議長国であり、世界に率先して自由貿易の旗を振る立場。それが首脳会議終了直後に豹変したとなったら、周囲はどう見ることか。

ウォール・ストリート・ジャーナル紙では、7月2日に政治学者ウォルター・ラッセル・ミードが「トランプ化する日本外交」という記事を寄稿している。「あの日本がIWC(国際捕鯨委員会)から脱退し、対韓輸出規制を始めるのだから、世の中は変わったもんだねえ」とのご趣旨であった。つくづくこの問題、日韓関係だけを見ていちゃいけない。第三国からどんな風に見られているかが、勝負のキモなのである。

ということで、政府の説明は翌週から「本件は輸出管理の一環です」というテクニカルなものに軌道修正した。政治家としては7月21日の参議院選挙も意識して、「韓国許すまじ」と気炎を上げたいところかもしれないが、それでは聞こえが悪いのである。

実際に経済産業省のHPを見てみよう。今回の措置は以下のように説明されている (「輸出貿易管理令の運用について」等の一部を改正する通達について)。

外国為替及び外国貿易法に基づく輸出管理制度は、国際的な信頼関係を土台として構築されていますが、関係省庁で検討を行った結果、日韓間の信頼関係が著しく損なわれたと言わざるを得ない状況です。

こうした中で、大韓民国との信頼関係の下に輸出管理に取り組むことが困難になっていることに加え、大韓民国に関連する輸出管理をめぐり不適切な事案が発生したこともあり、輸出管理を適切に実施する観点から、下記のとおり、厳格な制度の運用を行うこととします。(下線は筆者)

つまり今回の措置は「輸出規制」であって「禁輸」ではない。半導体材料を、「お前さんには売れねえ」と啖呵を切ると、2010年の中国によるレアアース禁輸措置と同様、明々白々なWTO違反となってしまう。

経済産業省はこんな風に説明している。2004年以降に簡略化されていた韓国向けの輸出管理の手続きを、それ以前の状態に戻します。韓国はいわゆる「ホワイト国」から外れるので、今後は輸入の際に個別に許可を取らなければなりません。しかし半導体材料を入手できなくなるわけではありません……。仮に関連企業から行政訴訟を起こされたとしても、負けないように予防線を張ってあるわけだ。

もし「不適切な事案」が肩透かしなものであったら?

ところで上記の文言で気になるのは、「韓国に関連する輸出管理をめぐり、不適切な事案が発生した」ことの中身である。「武士の情けで皆までは言わないでおいてやる」的な書きぶりだが、今後、「不適切な事案とは、具体的に何のことなんだ?」との疑問が寄せられることは避けられまい。

そこでぐぅの音も出ないような事実が出てくれば、日本側の勝ちである。例えば北朝鮮やイランへの材料の横流しがあったとすれば、「なるほど、日本の措置はもっともだ」ということになる。ところが韓国側はさほど意に介する様子もなく、「2015年から今年3月までに156件の違法輸出があったが、日本産の転用はない」などと答えている。仮に「不適切な事案」が肩透かしなものであったら、第三国からどう見られるか。「規制強化に政治的な意図があった」という心象を持たれれば、日本外交が失うものは小さくないだろう。

繰り返すが、建前はさておき「ビジネスを武器にして他国に圧力をかける」という発想は、少なくとも今までの日本外交にはなかった。国連安保理やG7の制裁には足並みをそろえるが、少なくとも二国間ベースでは行わない。むしろ「意地悪をされても、仕返しはしない国」であった。今回の措置は、わが国の「通商政策」の転換点となるかもしれない。

半導体産業は、そうでなくとも世界的な逆風下にある。これで韓国企業が打撃を受けた場合、アジアのサプライチェーンを混乱させて日本経済に跳ね返ってこないとも限らない。

ちなみにサムスン電子、ハイニックスなど韓国関連企業の株価は、輸出規制強化措置を受けていったんは下げたものの、「これで半導体市況がかえって回復するかもしれない」との思惑から直近では再び上げている。政治の思惑とは違って、経済はさまざまな要素とともに千変万化する。かくなるうえは、こんな想定が杞憂に終わることを祈るばかりだ(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が、週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)。

ところでこの原稿は札幌で書いている。いや、やっぱり梅雨のない土地はよろしいな。日中はカラッと暑くなり、夜は涼しくなって、乾いた空気が終日心地よい。これでこそ7月の気候というものだ。この週末は地元町内会のお祭りで、勤労奉仕に馳せ参じなければならないのだが、できればこのまま函館競馬場になだれ込みたい気分である。

ということで、今回の注目レースは14日のメイン、函館記念(G3、2000メートル)だ。「サマー2000シリーズ」の第2弾。毎年、「1番人気が来ない」「2着馬、3着馬はいつも7番人気以下」という波乱のレースとして知られている。となれば、少しエッジの効いた狙い方をしなければならない。

函館記念の本命はレッドローゼス、「ステゴ丼」もある?

人気の3頭の中からレッドローゼスを本命に指名しよう。理由は簡単で、前走の福島民報杯で1着。そのときの2着馬クレッシェンドラヴが、7日の七夕賞(G3)で2着と好走している。

同じサマー2000シリーズなのだから、ここから流すのが自然な選択となる。鞍上の蛯名正義騎手はこのところ重賞勝ちから遠ざかっているが、ここは北海道出身者の意地を見せてほしい。
馬券は、レッドローゼスから馬連で薄めに流す。函館記念には不思議な傾向があって、前走が同じ函館競馬場であるよりも、むしろ東京など他の競馬場からの臨戦組の方が好成績を残している。そこでステイフーリッシュ、ポポカテペトル、メートルダールあたりへ。それ以外ではマイスタイルが気になるところ。

いやあ、またまた「ステゴ産駒」から狙っちゃうよ。やまげんさん(山崎元氏)に冷やかされそうだが、函館記念は過去10回でステイゴールド産駒が3勝しているレースでもある。とりあえずレッドローゼス―ステイフーリッシュという「ステゴ丼」も、少し厚めに買っておきたいと考えている。