[画像] 上尾vs日立商

あわやコールドが大逆転と一転、好投手戦と2つの味わいの上尾・日立商上尾・藤原良太君

【熱戦の模様をギャラリーでチェック!】

 はっきりしない天候だったけれども、何とか予定していた2試合を行うことができた。朝5時30分に日立市の学校を出発してきたという日立商も、それを迎えるため朝早くからグラウンド整備をして準備をしていた上尾も、まずは「予定通り試合をやれて、よかった」ということであろう。

 いよいよ本番となる夏の大会、組み合わせも決まって、いやが上にもモチベーションは上がっていく今の時期である。

 埼玉大会は10日に開幕して、春にはベスト16に残れたということでシードの上尾の初戦は13日、上尾市民球場で慶應志木。上尾は記念大会だった昨夏は、北埼玉大会の準優勝校でもある。昭和の時代の一時期、埼玉県の高校野球を引っ張り続けた上尾、徐々にその名門校が復活を示し始めている。

 茨城大会は6日に開幕して、2回戦から登場となる日立商の初戦は藤代紫水と茨城東の勝者と11日に日立市民球場で予定されている。

 こうして組み合わせが決まってくることで、野球部としては、具体的な先が見えてきているのだが、高校生としてはこの時期期末試験という厄介なものも控えている。

 上尾の場合は、4日から土日を挟んで開会式の前日の9日までが試験期間となっている。それだけに、シード校ということで、開会式から初戦までの間の日々が何日かとれているということはチームの調整という点からも非常に大きい。

 野球部員と吹奏楽部、チアリーダー部などを合わせると総勢200人近くになる。だから例年、上尾高校では学校行事予定を組み立てるときに、野球部の大会がいつから始まるのかということを考慮して、その前までに試験は終了させるということは考えられているという。

 というのも万が一、試験の日と試合が重なってしまったら、学校全体で公欠する生徒が200人近く出るわけで、それは避けたいというのが学校側としてもあるので、そういった配慮になっているということだ。

 一方、日立商の場合は既に期末試験を終えてしまっているということで、最後の調整へ一途に迎える態勢である。

 茨城大会では、多くの学校が野球部の初戦は全校応援ということになっている。学校行事の一環としているところが多いのだ。それだけ、学校全体で野球部を支えて行こう、高校野球を盛り上げていこうという姿勢でもあるようだ。

 また、そういう野球文化が地域にしっかりと定着しているともいえる。

 その背景は、“高校野球の父”とも“学生野球の祖”とも言われる飛田穂洲を輩出した水戸一があり、戦前から竜ヶ崎一と水戸商の流れがあったことも大きい。

 さらに、その後は取手二が全国制覇を果たしたことによって、木内幸男監督(その後に常総学院監督)を中心として新たな野球文化を築いていったということもあろう。

 ただ、日立商の野澤哲郎監督は、 「今は、県内の公立校はなかなか中学生を勧誘しにくい状況にあるんです」というような環境もあるらしく、部員が減少しつつあるという現実は否めないという。

 それでも、今春のセンバツに出場した石岡一や今春の関東大会に進出した藤代や水戸商という公立勢が健闘しているのも茨城県の特徴でもある。その要因の一つとして、全校応援を積極的に進めていることで学校の期待を担っていると感じる選手たちのモチベーションもあるのではないかという気もしている。

 上尾の高野和樹監督は、まだまだ試していきたいことも多くあるようで、2試合とも多くの選手を起用した。

 投手も、1試合目では本来は遊撃手で1番を打っている二階堂君を投手として起用した。 二階堂君は、制球がいいので確実に試合を作れる。実は、春先の愛媛遠征でも、済美相手に好投しているということもあったという。この試合でも5回までは日立商打線はわずかに内野安打2本に抑えられていた。

日立商ベンチ

 ところが、この試合では極めて珍しいことが起こった。

 と言うのは、7回表に上尾は、6番に入っていた小林君の満塁一掃の二塁打で3点を加えて7点差とした。大会も意識して、そのまま日立商に点が入らなければルール通りにコールドゲームということだった。

 しかし、その裏一死から鈴木健太君が失策で出塁すると、そこから5連打。さらに四球を挟んで4番富永君が左前打すると、1点差となる。さらに四球で満塁となり、鈴木健太君が今度は左翼へ柵越えの満塁本塁打で逆転して10対7。しかも、その後も大浦君、鈴木雅士君が続いて3連打。

 打者15人目でやっと二死となったが、さらに四球と田村君、富永君の連打でついに逆に7点差がついて14対7ということでコールドゲームとした。もちろん、練習試合でもあり、流れを止め切るための投手交代などもしなかったということもあったが、それにしても珍しい試合だった。

 「長いこと野球やっていますけれども、こんな展開は、初めてですよ」と、高野監督もさすがに呆れていた。とは言え、試合内容がだれていたかと言うと、そういうものではなかった。ただ、たまたまアウトが取れなかったということだった。

 粘りを示した日立商の野澤監督は、「今年のチームは、結構終盤でひっくり返せるんですよ。3〜4点くらいだったら、返していかれるだけの粘り強さというか、そういうところはありますね。だから、こういう試合をすることで、それが実績となってまた自信になっていくのでこういう試合が出来たことは大きいと思います。7回はまさに、そんな感じで一気に盛り上がりました」と、現チームの特徴が出たことを喜んでいた。

 天候が崩れないうちにと、2試合目も早めにスタートさせたが、今度は一転して日立商は田代君、上尾は藤原君の投げ合いとなった。

 そして、上尾が初回に宮嶋君の安打から四死球などもあって作った満塁で相手失策によって得た2点を藤原君が丁寧な投球で守り切った。

 高野監督は試合中には、絶えず選手たちに話しかけている。いや、話しかけているというよりも喋り続けている。そして、その言葉を聞いて選手たちがどういう理解をしていくのか、そうしながらさりげなく伝えたいことを伝えていくというスタイルを取っている。

 「いつコツが掴めるなんか、分からないんだから、一生懸命やっとこうよ。最後の一週間でそれがわかるんだよ」 「分かるだろうじゃなくて、きちんと分かるまでやろうよ。そうやって体験しながら上手くなっていくんだよ」 「最後のところで野球の神様はどこへ打球が飛んでいくのか、決めていますよ。だから、みんな準備しとかなきゃ、準備していないところに(打球は)行くよ」

 こんな言葉をどんどんベンチから発している。こうした言葉を浴びながら、選手たちは日々鍛錬されていくのである。

 泣いても笑っても、あと2週間ほどで夏本番がやってくる。「今」の一つひとつが、悔いのない夏となるための糧となっていって欲しいと思っている。

(取材・写真=手束 仁)