働き方改革」で、これまでの働き方を変えなければならない50代にとって、家族から理解を得るためにはどうしたらいいでしょうか?(写真:polkadot/PIXTA)

女性の育児や仕事など、女性の問題ばかりが取り上げられるこのご時世。しかし、男だって「男ならでは」の問題を抱えて生きづらさを感じています。男が悩むのは“女々しい”!? そんなことはありません。男性学研究の精鋭、田中俊之先生がお答えします。

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■今回の相談

メーカーに勤める50代会社員です。妻と子ども2人の4人家族。妻は1人目の子どもができたときに退社し、現在はパート勤めをしています。長男はこの4月から社会人となり、次男は現在大学2年生です。私は結婚したての頃はあまり家庭も顧みず猛烈に働いていました。

最近、会社では「働き方改革」の一貫としていくつかの施策が制度化されました。どれも一見いいのですが、いま一つ私の家庭にはフィットしていません。どのように対処すればよいでしょうか?

「フレッシュアップデー」
週に2日あります。早く帰ると妻には、もう帰ってきたの? 子どもたちには、お父さん仕事ないの? とか言われます。これでも退社するのはフロアで最後だったりするのですが。そのため本屋でぶらぶらして時間を潰したり、Skype英会話のレッスンを入れたりしています。

「カジュアルデー」
週に2日、カジュアルな服装で行ってよい日があります。夏ならTシャツ、ジーンズもOKですが、着ていく服に困ります。

「テレワーク推進」
週に3日、月に10日まで自宅または近隣の事業所で働くことが認められています。部署のメンバーには推奨していますが、自分の家庭には向きません。家で仕事していると妻に、なんで家にいるの? 会社に行けば?と言われてしまいます。会社のリズムを家に持ち込むのがとても不評なようです。ちなみに妻は優しくてとてもよい女性です。

父親と母親が果たしてきた役割の違い

まずは落ちついてください。


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毎年のことではありますが、6月16日(日)の父の日は、母の日と比べると盛り上がりに欠けました。どうしてなのでしょうか。その理由は、現代の日本でも相談者さんの場合と同じように、「男は仕事、女は家庭」という性別役割分業をする夫婦が少なくないからだと考えられます。

こうしたスタイルの家庭では、子どもにとって母親は自分たちを直接的にお世話してくれる存在です。加えて、日常的に家で会話をしているため、母の日にどのようなプレゼントを贈ると喜ばれるかも、子どもたちはわかっているはずです。

それに対して父親は、一家の大黒柱として間接的に家族を支えているため、子どもたちはお世話をしてもらっているという実感を持ちづらくなります。さらに、問題なのは、仕事ばかりの毎日で家族と会話をする時間が持てないことです。父の日に何を贈っていいかわからないし、そもそも父親がどのような人なのか知らないかもしれません。

高度成長期以降、会社に雇われて働くことが一般的になり、男性は進学、就活、そして、社内の出世レースとつねに競争へとあおられてきました。仕事の領域で優位に立つために使えるポイントカードがあるとすれば、「進学校」に合格で100ポイント、「難関大学」に入学で200ポイント、「一流企業」に就職で300ポイントといった具合に、ポイントが加算されていく仕組みなわけです。

重要なことは、このポイントカードはあくまで仕事用であるという点です。会社で懸命に働けば確かにポイントは貯まりますが、一方で、家庭用のポイントカードは0ポイントということになりかねません。

仕事用のポイントカードにポイントがたくさんあるから、家庭での居場所は確保されているはずだと思うのは、ヤマダ電機でビックカメラのポイントカードを出して、「いっぱいポイントが貯まっているから買い物させろ」と主張する客と同じぐらい理不尽だと言えます。

平日に早く帰宅できる、せっかくのフレッシュアップデーを、相談者さんにとっても家族にとっても有意義なものにするためには、家庭用のポイントカードにポイントを貯める必要があります。かつては家庭を顧みずに働いていたそうなので、そもそもポイントカードを持っているかどうか、というところから確認する必要があります。

奥様と2人の息子さんにはどんな趣味がありますか。わからないのならポイントカードの再発行です。早く帰宅した日に、さりげなく家族に何が趣味なのかを尋ねてみてください。お父さんって自分に関心があるんだなと思ってくれるようになれば、家族も相談者さんといろいろ話してみようという気持ちになるかもしれません。そうするうち、だんだんとお父さんが長く家にいても違和感を感じなくなっていくはずです。

スーツ以外の服装、私服について

サラリーマンの定番であるスーツにネクタイというスタイルは、ほかに選択肢がない点でとても効率的です。さらに、どこに行っても「失礼」はないことから便利な服装でもあります。「カジュアルデー」がカジュアルな服装で行ってもいい日でしたら、このままスーツで押し通すのも1つの手ではあります。

ただ、定年も見えてきた50代という年齢を考えると、これをきっかけに私服に興味を持つことをお勧めします。

私服と言われると困ってしまうのは、そもそもスーツ以外の服をあまり持っていないからではないでしょうか。そして、どうして私服がないのかと言えば、友だちがあまりおらず、無趣味なために着て出かける機会がないからだと推測されます。間違っていたら申し訳ないです。

当たり前のことですが、定年後は仕事がなくなるのですから、時間を持て余すという意味ではフレッシュアップデーの比ではありません。

基本的に会社の同僚は近所に住んでいないので、退職後には頻繁に会えなくなります。そのため、それまでに家庭用のポイントカードにポイントを貯めておくことは重要ですが、それに加えて、地域でも居場所を作っておくことが大切です。その第1歩として、この週末に私服を買いに行ってみるのもいいと思います。

定年後の居場所を探すつもりで

奥様が優しくてとてもよい女性であることは相談を読んでいればよくわかるわけですが、現状では単に「家にいること」に違和感を持たれてしまっているようですから、これも定年後を見据えると、「テレワーク推進」を理由にして、家にいる時間を増やしておいたほうがいいでしょう。

家で仕事をする際に注意すべき点があります。どうせ作るんだから昼ごはんは自分の分も作ってくれだとか、どうせ洗うんだから自分の分の食器も洗ってくれだとか言って、奥様に家事を押しつけないことです。

要するに「ついでに」という一言で気軽にお願いをしてはいけません。自分のペースで働いているのに、上司や部下が「ついでに」と仕事を頼んできたらいい気はしないはずです。それと同じだと考えてください。

1日中家にいるとお互いに息がつまるようでしたら、近隣のカフェなどで仕事をするのもいいでしょう。これまでは会社と家庭の往復で、自分の住んでいる地域のこともよく知らなかったかもしれませんが、そうした中で、定年後に1人でゆっくり過ごすための居場所が見つかる可能性もあります。

20年も30年も仕事中心の生活を送ってきた男性にとって、一連の働き方改革は「やらされている」印象があるかと思います。長年モーレツに働いてきた男性など、相談者さんのように戸惑い、悩んでしまう男性も少なくありません。

それなのに「どうあるべきか」という理想ばかりが声高に主張され、それに乗れない人を「時代遅れ」と切り捨てるような風潮には、個人的にも疑問を感じています。

ただ、生涯という視点から見れば、仕事がその一部でしかないことは紛れもない事実です。急激に生活のリズムを変える必要はありません。会社に導入された施策をきっかけに、ぜひ家庭でも地域でもいいので、仕事用以外に自分が欲しいな、必要だなと思えるポイントカードを探してみてください。