フィリピンの中でも、短期留学先として人気のあるのがセブ島だ(写真:りーふ/PIXTA)

一般社団法人海外留学協議会(JAOS)が発表した最新の日本人留学生数調査によると、フィリピンへの語学留学生の数が、イギリスを抜きアメリカ、オーストラリア、カナダに次ぐ4位となりました。アメリカ、オーストラリアへの留学生が大きく減少したのに対し、フィリピンへ留学する人の数は増加。2016年の3918人から6238人と、約1.6倍に膨らみました。

筆者は10年前からフィリピンのセブ島でオンライン英会話も展開する英会話学校を経営しています。セブ島では年間5000人の留学生を受け入れ、オンライン英会話では2万人が勉強しています。なぜ、フィリピン留学だけが急成長しているのか、フィリピン留学の経験とオンライン英会話の数字から探ってみました。

フィリピン留学3つの特徴

フィリピンの留学が伸びているのには、3つの理由があります。1つは日本から4〜5時間で行ける英語が公用語の国で、なおかつ日本から直行便が多く飛んでいるという立地的な理由です。2つ目は、アメリカ、オーストラリア、カナダの留学と比べると、生活費まで含めて半額以下の料金で留学できるというコストの安さ。

そして3つ目は、ほかの留学先と比べて人件費が安いため、レベルや目的に合わせたオーダーメイドの授業をマンツーマンレッスンで学べるという点です。

フィリピンに来る留学生のうち7〜8割がセブ島に来ています。フィリピンというと治安の悪いイメージがありますが、世界的なリゾート地であるセブ島はきれいなビーチがあり、治安が比較的安定しているからです。また、フィリピン第2の都市であるセブ島はインフラが整い、セブ・マクタン国際空港は国内線で30都市、国際線で37都市へ就航しています。

筆者がセブ島留学を始めた頃は、英語の「特訓」ができる場所として人気でした。グループレッスン中心の欧米留学と比べるとマンツーマンレッスンなので効率よく学べるからです。例えば10名ほどのグループレッスンだと自分が話せる時間は1時間のレッスンで数分しかありませんが、マンツーマンだとレッスンを通じてずっと英語を話すことができます。

当時は、欧米に行くより近く、安く、効率よく学べるというので、日本からの留学生は学生が中心でした。中には社会人もいましたが少数派で、英語を覚えて就職を有利にしたい、海外の大学に行きたいという学生がほとんどでした。

ところが最近は、セブ島に留学をする社会人目的が大きく変わってきています。実際、現在セブ島のQQEnglishに留学に来ている生徒と、過去に来ていた人の学習目的を比べると、2012年は試験対策が58%と最も多く、実用英会話力の向上はわずか13%だったのに対し、2018年には試験対策は41%にまで減った一方、実用英会話力の向上は31%に増えています。ちなみに、ビジネス利用と答えた人の水準は約3割でほぼ変化がありません。

QQEnglishでは、オンラインでも同様の学習傾向を見ることができます。2016年と比較して、2018年は試験対策のカリキュラム利用が減り、会話力向上のカリキュラム利用が増えています。セブ島留学とオンライン英会話の両方で、社会人の英語学習の目的が変化していると言えます。

インバウンド数拡大に伴い留学生も増加

オンライン英会話には、英語の基礎力を付けるカリキュラムもあり、文法、リスニング、スピーキング、リーディング、ライティングなどが学べますが、こういった基礎学習者の割合には変化がありませんでした。つまり、基礎を学んだ後の、目的を絞った学習者が、英検やTOEICなどの試験対策よりも、外国人とのやり取りが学べる実用本位の英会話を選ぶようになってきていると言えます。

こうした学習目的の変化の背景にあるのは、多くの外国人が観光などで日本を訪れるようになったことがあります。2010年には861万人しかいなかったインバウンドの観光客が去年は3110万人に。来年は東京オリンピックがあるので、さらに多い4000万人にするとの目標を政府は掲げています。

インバウンドの来日観光客数と、QQEnglishへ来たセブ島留学の生徒数を比べて見ると、これを裏付ける結果となりました。東京オリンピックの開催が決まった頃からこの傾向はとくに顕著になっています。実際に、昨年から「オリンピックのボランティアで英語を使いたい」「オリンピックに刺激されて英語の勉強を始めた」という留学生が増えていると感じます。


(出所)日本政府観光局 (JNTO) 発表統計よりQQ English作成。留学生数はQQ English統計情報。(いずれも2019年は予測)

これまでは、英語学習は学生のときだけ必要でした。社会人になると、海外赴任や、海外の取引先があるという場合や、海外旅行に行くことがなければ、ほとんどの人にとって必要ないものだったのです。しかし、現在は日本にいても英語が確実に必要になってきたと言えます。

こうした中、セブ島に留学してくる人も少しずつ変わってきています。少し前までは、海外出張やビジネスで使う英会話だけでなく、会社でTOEICの点数が必要になったとか、海外留学に必要なIELTSの学習のために来る人が多くいました。

しかし、最近は日本国内で英語を使うためにセブ島に留学する人が増えています。また、「海外からくるクライアントに英語でプレゼンをしたい」とか、「外国人の友達ができたので趣味の話をしたい」といった感じに留学目標も具体的です。

接客業の女性にも人気

オフィスワーカーの社会人だけではありません。現在は飲食店で働いている人の留学も増えています。ホールで働いている方はもとより、キッチンの中で働くシェフも英語を学びにきています。話を聞くと、外国人のお客さんが増えて英語が必要になったり、外国人のシェフが入ってきたので話をしたいというニーズがあります。

さらに、接客業をしている女性の留学生も増えました。六本木や銀座などの東京だけでなく、地方都市の接待業で働く女性もたくさんきています。お客様に外国人が増えているのではないでしょうか。リゾートのイメージがあるセブ島は接客業に限らず女性の留学生が多いのが特徴です。

アメリカ、オーストラリアへの留学が減る一方、フィリピン留学だけが急成長している理由はアカデミックに使う英語から、実際に外国人と話せる英語の学習に目的が変化しているからだと推定されます。

JAOSの調査レポートを見ると短期留学が多くなってきているのもわかります。学生の海外留学というと半年、あるいは1年くらい長期間行くのが通常でしたが、フィリピン留学は圧倒的に3カ月未満です。調査リポートには出ていませんが、私が経営する学校の統計だと、半数以上の留学生は1週間、2週間といった超短期留学になっています。

日本から近いという利点と、マンツーマンでレッスンができるという特徴に目を付けた社会人が、超短期間セブ島を訪れる――。大学進学などではまったく注目されなかったフィリピンへの語学留学の人気は、インバウンドが増える中、より実用的な英語を話す力が必要になっていることを表していると言えます。2020年東京オリンピックに向けてセブ島留学の人気がますます高まるのではないでしょうか。