今シーズンのプロ野球では、”高卒ドラ1位ルーキー”である広島の小園海斗、中日の根尾昂に注目が集まっている。高校時代に甲子園を沸かせた逸材が、今後どんなショートに成長していくかを楽しみにしている野球ファンも多いだろう。

 そこで、現役時代に球史に残る名ショートとして活躍し、現在は解説者として活動しながら侍ジャパンで内野守備走塁コーチと強化本部の編成戦略担当を担う井端弘和氏に、ゴールデンルーキーたちの評価を直撃。井端氏はその可能性に言及しながら、日本球界の未来を担うショートとして、巨人・吉川尚輝の名を挙げた。


巨人ではセカンドを守る吉川だが・・・

――広島の高卒ルーキー・小園海斗選手の第一印象は?

「『体が大きいな』と思いました。大卒の選手のような厚みがありましたね。能力としては、走攻守すべてにおいてレベルが高いです。私もプロ野球の世界に入ってから約20年、『スーパールーキー』『即戦力に間違いなし』と言われた高卒の内野手をたくさん見てきましたが、彼はその中でも”稀に見る逸材”ではないでしょうか」

――とくに高く評価する点はありますか?

「守備が注目されることが多いですが、私が驚いたのはスイングの強さです。セ・リーグ4連覇を目指すチームの、一軍レベルの打者と比べても遜色ありませんでした。広島の前監督で、現役時代にトリプルスリーを達成した野村謙二郎さんのような、名球会に入るくらいの選手になってもらいたいですね。選手を”じっくり育てる”イメージが強い広島が開幕一軍のメンバーに加えたわけですから、それだけ球団の期待も大きいということでしょう」

――巨人との開幕3連戦の終了を待たずに、3月31日に二軍降格になったことについては?

「広島は一軍の二遊間が鉄壁ですから、二軍で試合を重ねて技術を磨いていくことが今の彼にとってはベストだと思います。プロで活躍するためには、高いレベルを維持して1年間プレーができる肉体的な強さ、体力が不可欠。そこを目指す上で、短期間でも一軍の空気を感じられたことが必ず生きるはずです」

――現役時代に名ショートとして活躍した井端さんから見た、小園選手の守備の課題は?

「体の使い方もそうですし……細かく言うとかなり時間がかかってしまいます(笑)。しかし今の広島は、私も中日時代にお世話になった山田(和利)さんが一軍の守備走塁コーチをされていますから、さまざまなことを学べたでしょう。二軍でもコーチのアドバイスをしっかり聞いて成長していってもらいたいです」

――同じく高卒ドラ1ルーキーとして注目される、中日の根尾昂選手についてはいかがですか?

「根尾は高校時代、投手や外野でも起用されていたので、ショートとしてのキャリアは実質1年もないくらいだと思います。経験はなくてもセンスはあるので伸びしろは大きいでしょうが、プロに入ってすぐに『スイッチ打者に転向しろ』と言われるのと同じくらい難しいことにチャレンジしている状況です。小園とは場数が違いますし、そこで比較してはかわいそうですね」

――それでも根尾選手は、『ショート一本で』と球団に直訴したそうですが。

「そうであれば、数年間はショートの守備を極めることに集中してもらいたいです。精一杯やった上でダメだと判断したら、他のポジションに挑戦してもいい。プロはよくも悪くもそういった”融通がきく”世界ですから」

――開幕を二軍で迎えた根尾選手が、今やるべきことは?

「これは小園や他の若い選手にも言えることですが、プロで長くプレーするための”基本”を習得することです。捕球、スローイングの感覚は選手によって違うので、『こうやればいい』という正解はありません。あくまで、自分に合った基本の形を作るということ。打球への反応などは年齢を重ねるごとに変化していきますが、若いうちに基本を身につけておけば、その変化にも対処しやすくなります」

――井端さんがその基本を身につけるために、現役時代に行なっていたことはありますか?

「私が現役のときは、チームメイトや相手チームの選手の動きを観察し、それが自分に合うかどうかを試していました。たとえば、立浪(和義)さん(元中日)や久慈(照嘉)さん(現阪神一軍の内野守備走塁コーチ)などの守備を参考に、『捕球はこの選手、スローイングはこの選手の動きを取り入れてみよう』と試行錯誤を繰り返したんです。

 実際に一連の動きにして打球をさばいてみると、『捕球まではいいけど、スローイングに移るまでの動きがしっくりこないな』といったことが多々あります。そういった違和感をなくしていく過程で、”基本”を身につけることができたんだと思います」

――現在の中日二軍の内野守備走塁コーチは、井端さんとの”アライバ”コンビで活躍した荒木雅博さんが担っていますね。

「そうですね。荒木が根尾をうまく導いてくれるでしょう。中日は根尾を将来の”ミスタードラゴンズ”としてチームの中心に据えることを考えていると思いますし、それだけの能力もある選手ですから、私も期待しています」

――そんな2人の高卒ルーキー以外で、井端さんが『日本球界の未来を担うショート』として注目している選手はいますか?

「巨人の吉川尚輝です。直接指導をしていた昨年であれば『手前味噌』と言われるでしょうけど(笑)。今年の侍ジャパンのメンバー選考の際も、稲葉(篤紀)監督に私から推薦しました。『ショートとセカンドの両方を、もっとも高いレベルで守れる選手』という考えは監督も同じだったようで、真っ先に内野手のメンバーに決まりました。DeNAの大和も近い能力がありますが、年齢的なことを考えると、やはり吉川が第一候補でしたね」

――そこまで高く評価する吉川選手の魅力を教えてください。

「一番の魅力はスピードです。先ほど話した小園、根尾には申し訳ないのですが、次元が違いますね。しかし巨人に入団してから昨年までの2年間は、とくに守備において、持っている能力を3割程度しか出せていなかったように感じます。今はチーム事情でセカンドを守ることが多いですが、彼の持ち味がより生かせるのはショートだと思っています」

――その理由は?

「守備におけるスピードは、広島の菊池(涼介)と同等のトップクラスですが、残念ながらそれを送球に生かしきれていません。セカンドとファーストは距離が近いためか、勢い余ってしまうというか、捕球から送球に移る際のボディバランスを欠くことがあるように感じます。その課題は克服すべきですが、彼の場合は、ショートのほうが勢いを保ちながら送球につなげることができるのではないかと見ています」

――今の吉川選手にアドバイスをするとしたら、何を伝えたいですか?

「私は内野手を指導する際に”ボールを捕る”ことを最優先するように伝えています。それは吉川がセカンドを守るときの課題にもつながるのですが、すべての打球を全力で捕りにいくとバランスを崩してしまい、体勢を整えるために無駄なステップを踏んでしまうことがある。そういった選手には『1、2歩いらないステップをする分、(その間に)打者はファーストベースに近づいてしまう』と言い聞かせています。

 送球より速く走ることができる選手はいませんから、いかにスムーズに送球動作に入れるかが大事です。打球の速さ、グラウンドコンディション、打者の走力を考え、『この打球なら80%、60%で捕りにいってもアウトにできる』『あの打球なら待って捕っても間に合う』という感覚をつかめれば、安定感が増すでしょう」

――吉川選手が成長すれば、今シーズン中にもショートを担う可能性はあるでしょうか。

「すぐに坂本(勇人)と代わることは考えにくいですが、準備はしておいてほしいですね。昨年も坂本がケガで離脱した際にショートを任されていましたが、いつ同じような状況になってもいいように意識して練習をしてもらいたい。それが吉川本人、巨人の将来にとっても大きなプラスになるはずです」