チンピラ芸人ペンギンズが大都会・新宿の夜の住人たちをインタビューしていく街レポ企画第3弾。

今回ふたりが訪れたのは、女装パフォーマー・ライターのブルボンヌさんがプロデュースする「Campy!bar」。LGBTへの関心が社会的に高まる昨今、日本最大のゲイタウン・新宿二丁目の様子も変化しつつあるという。ブルボンヌさんからは、この街で実際に起きた、感動的なエピソードの数々も聞くことができた。
出演/ペンギンズ
撮影/水上俊介
文・構成/飯田直人(livedoorニュース)
デザイン/桜庭侑紀
「新宿 夜の生きもの図鑑」一覧
え! アニキ、「新宿二丁目」行ったことないの?
あんまり大声で言うんじゃねえよ。世間知らずみたいで示しがつかなくなるだろ、全国是1万人の子分どもに。
虚言鼻デカしゃくれのアニキー!
そのトーンで盛大にディスるんじゃねぇよ。
二丁目には俺っちも詳しくはないけど、初心者でも入りやすい店があるらしいっす! とりあえず行ってみましょう!
この連載の前回までで歌舞伎町にはくわしくなってきたペンギンズだが、新宿二丁目にはガチの初心者。通り沿いの店を何軒かのぞいて、明るくにぎやかな様子の店「Campy! bar」に入ることにした。店内ではブルボンヌさんがふたりを出迎えてくれた。
ブルボンヌ
1971年、岐阜県生まれ。女装パフォーマー、ライターとしてLGBTイベントや講演、連載などで活動する傍ら、「Campy! bar」グループをプロデュース。テレビ神奈川『TiARY TV』MCやYBSラジオ『キックス』金曜パーソナリティなどレギュラー番組も放送中。
きゃあ〜、いらっしゃあい! 外から怖い人がのぞいててヤダぁ〜って思ってたら、あなたたちだったのねえ。しかも近くで見たら、意外と若くてカワイイじゃない♡
カワイくなんかねえよ! やんのかてめぇ!
あら元気ね。あたしはヤってもいいけど? 裏行く?
いかがわしい話にすんな!
怒ってんのもなおさらカワイイ!
ノブオ、あんた肌キレイよね。女装映えすると思うんだけど、今いくつ? まだいけるわよ。路線変更してもいいんじゃない?
しねぇよ! もうちょっとチンピラで頑張らせてくれ!
ところでブルボンヌさんよお、俺は二丁目に来たの今日が初めてなんだけど、この辺の店ってどんなサービスがあるんすかね? なんとなくだけど、エロい何かがありそうなイメージはあるんだが。
それはお店によるわよ。ここはガラス張りの路面店であけすけな感じだから、エロ的なものを求めてくる人はいないわね。ウチの店はセクシュアリティーに関係なく誰にでも来てほしいから「ミックスバー」って言い方をしてるけど、完全に男性限定のお店とかもあるし、ホントいろいろね。
最近の傾向としては、テレビでもオネエキャラブームみたいになって以降、「その世界のことはよくわからないけどLGBTの当事者に会ってみたい」って言って来店する人が多いわ。ウチみたいな路面店は、そういう「観光」って呼ばれるお客さんのお相手もしてるところが多いの。だからあんたたちみたいなウブなのも、大歓迎よ〜(ノブオにすり寄る)!
…。(無言で遠ざかる)
二丁目でも観光客向けの店が増えてるんだなあ。
全体的な流れとしてはそうね。ドアを開けたらふんどし一丁でガチのゲイのアニキが立ってるような店は今でもあるけど、二丁目の存在が有名になってきたことで変化もあるみたい。
それこそウン十年も前には、「マドラーサービスです」とか言って、“肉棒”でカクテルをかき混ぜたりするようなアンダーグラウンドな営業もあったって伝説もあるわよ(笑)。でも今はいつ何がSNSに流れるかわかんないじゃない? だからそういう過激なサービスはしにくいそうよ。
見てみたい気もするけど、偶然入ったのがそういう店だったら、かなりびっくりしそうだな。
観光向けじゃない店かどうかは、入口の雰囲気でだいたい分かるわよ。逆に言えば、人からの紹介でもない限り、情報のない店の扉はいきなり開けないほうがいいかも〜。
ウチみたいに誰でもウエルカムっていう店が増えてるけど、そうじゃないお店は、立地的にも建物の造り的にも、まったく別物なのよ。
少し真面目な質問をするけどよ、ここ10年くらい、マツコデラックスさんやミッツ・マングローブさんをはじめ、テレビで活躍する“二丁目出身”の人はぐっと増えてるわけだけど、「偏見」って減ってきてるのか? 俺たちは見た目だけで判断されて、ロケに行くと「子どもに近寄らないで!」って怒られたり、学校付近での撮影がNG になったりすることがたまにあるんだけどよ…。
チンピラがNGなのは、偏見とは少し違うわよね(笑)。
LGBTに関して言えば、あたしたちが若かった頃よりは確実に状況は良くなってるわよ。あたしは今年48歳になるんだけど、高校時代は岐阜で過ごして、当時は「男だけど男が好きだ」なんて言える気がしなかった。確実に気味悪がられるから。でも今の高校生たちは全然そんなこともないみたい。「学校でも素のキャラ出してるよー」って子もけっこういる。そういう子たちに会うと、ホント時代が変わったなあって思うよね。
そりゃいいことだな。
あたしの感触としては、10代20代は7割8割、こういう人の存在を自然に認めてくれてると思う。本気で自殺を考えたことのある性的少数者の数は約6割減ったとか、そんな調査結果もあるわ。
でも、上の世代になればなるほど、感覚を変えるのは難しいわね。もちろん「生理的に受け付けない」という人がいるのも、それはそれで当然だとも思うけど。それにほら、よく知らないものってそれだけで怖いじゃない? だからこういう世界に触れる機会を作ることってすごく大事。二丁目に来て、実際に話してみて、「悪い人たちじゃないんだな」って思ってもらえたらいいわよね。
ねえ、アニキは今日が初めてでしょ? あたし怖くない? 大丈夫?
おいアニキをなめんなよ!
なめてなんかないわよ! ナメたいけど。
なんでも下ネタに変換すんな!
まあ、二丁目には私みたいな悪い女もいるから気を付けないとダメよね。 
取材途中、「Campy!Bar」の社長がブルボンヌさんの髪の乱れを優しくクシで直す場面が何度かあった。「仲が良いんですね」と聞くと、ブルボンヌさんは「掘ったかいがあったわ〜」と笑みをほころばせた。誰が誰の何を掘ったのか。詳しくは、聞かないでおいた。

▲笑顔が素敵な社長・家弓隆史さん

ブルボンヌさんって、テレビ、ラジオ、雑誌、いろんなメディアに出てますけど、気を付けてることとかあるんですか? オネエキャラならではの注意点とか。
そうねえ…。バラエティー番組に出るときは特に、「仲間を売る」みたいな事態にならないように気を付けてるわ。番組サイドの人って「ゲイにはどういう人が多いのか」とか、個人的な話をよく聞きたがるんだけど、そこであたしが詳しく傾向を言うとさ、その条件に照らし合わせて、自分はそうだって公言してない人も「お前条件にピッタリだけどそうなの?」って聞かれちゃうかもしれないじゃない? そうすると結果的にブルボンヌが仲間を苦しめたっていう展開になっちゃう。だから、ゲイに関する話でも、自分と、自分の身近でネタにしてOKっていう人以外のプライバシーに関わる話はしないようには意識してるわね。
仲間を売るのはどの世界でもご法度だな!
それと、バラエティー番組が企画でやりたがる「この男に襲いかかってください」みたいな展開も、悩みどころね。正直、あたしは本当に“スキモノ”だし、「食え」と言われたら大体のものは喜んで食べるわよー。昭和の世代は残さず食べろって教えられたの!(笑) でも、あんまりノリでサービスしすぎると「ゲイっていうのはみんなスキモノなんだ」って思われちゃう。
あー、そういうバラエティーの展開って最近減った気がするけど、たしかに前はよく見たよな。
当たり前だけど、ゲイ全員があたしみたいに男にグワっていくわけじゃないからね。 ここ20年くらいセックスはご無沙汰みたいな淡白な人もいる。誰もがちゃんと「いろんな人がいる」ってわきまえてくれていれば問題ないけど、現実はそうじゃないのよねえ。
それは芸人さんと少し違う部分かもね。たとえば男性の芸人さんの誰かひとりが何かをやらかしたとしても、「男の芸人はみんなそうだ」とは思われないじゃない? 男の中のそういうタイプの人なんだなってなる。だけどあたしたちの場合はまとめて判断されちゃう。まだ世の中に見えている母数が足りないのねきっと。
いやーしかし、やっぱりものスゴい頭使ってるんすね…。収録のときに毎回何の準備もしてこない、ポンコツ野郎のウチのアニキに言ってやりたいっすよ!
ここにいるよ。
あとはオネエだからということではないけど、テレビにはテレビの法則ってあるから、そこは意識するわよね。二丁目の“性”に対する感覚って世間とちょっとズレてるから、テレビの人にとっては「使えないよ」っていう話を当たり前にしちゃったりするの。たとえばさ、ウチの社長は経験人数が●●人超えてるの。ね、社長♡
聞いたことないほど大人数だが、社長は屈託のない、輝くような笑顔で「そうだよ♡」と即答した。
え! ぜひアニキを★★人目の記念にしてください!
勝手に推薦すんな! しかしすげえな!
驚くわよね。これはね、女性がブレーキをかけがちな男女関係と違って、「できたらとっととヤリたい側」な男同士だと、本人がヤリたければ経験人数はがんがん増えちゃうってことなのよ。実際にニコニコしゃべってる社長本人を前にして話を聞けば、なんだかポップで笑えちゃうんだけど、●●人っていう数字だけ聞くと心底に嫌がる人がいるのも当然ね。
ま、あたしはそこまでじゃないけど、多分▲▲人は超えてる。そういう話でほんとにシーーンとしちゃう場面が今まで何回もあったし、メディアでは「世間が納得のいくような感覚の話をしないといけないな」っていうのは考えてる。
なるほどなあ。
面白いのは、そこに気を付けていたら結果的に割と真面目な話をすることが多くなってきたのね。そうしたら、下ネタOKなバラエティー番組ばかりじゃなく、Eテレ(NHK)の番組にもだんだん呼ばれるようになってきたの。振れ幅が極端よねえ。
へえー。俺たちもキャラクター芸人だから、モードの使い分けみたいなのはかなり悩むんだけど、ブルボンヌさんはそこをうまくやってるんだな。
アニキは「踊る! さんま御殿!!」(日本テレビ系)に出たとき、さんまさんの前でまるで新人みたいに背筋伸ばしてペコペコしやがって…。
アニキらしさのかけらも無かったと、反省してるよ。
ふたりとも、アタシの前では無理しなくていいのよ…。
してねえよ! 勝手に手を握んなし!
大丈夫よ、強がらなくて。あたしもメイク落とすと気弱で暗いオジさんになっちゃうの。
そうなの? なんだ、急に親近感が…。
あたしはね、「ベースは真面目でたまにユーモアを出す」っていうバランスが自分には合ってるなと思ってる。IKKOさんみたいな怒涛の勢いでは攻め込めないのよねぇ。これは生まれ持った器が違うんだと思う。あたしなんかがやると、見た目は派手なのに、オドオドしてるのが透けて見えちゃう。向いてないのよね。ペンギンズはどういうふうにやってくつもりなの?
そうだな…。物事にはTPOってのがあるからな、一概には言えねえな。
要するに決まってないのね(笑)。まあそれは誰しもが悩むところで、いろんな答えがあるわ。IKKOさんの暴走ぎみに見えるキャラは本職の確かな技術に裏打ちされてるし、マツコさんは全て分かった上でギリギリの発言を狙える天才だし、ミッツさんもキツく見えるかもしれないけど実は繊細な姐御肌。って、こんなことあたしが言ってるって知ったらミッツ怒ると思うけど(笑)。
めちゃくちゃ分析してる…。しかもすげえ的確な感じだよなぁ…。
それホントに思ってんの〜、ノブオ〜?
思ってますよ! 僕らも、少しマトモな発言しなくちゃいけないときとか、このキャラクターのままいくと番組が成立しなくなるような場面ってたまにあるから、そういう場面でどうするかが本当に難しいんだ。いつも迷う。
まあ、そうよねえ…。
コメントの振れ幅の大きさにしても、説得力が要るってことでも、ブルボンヌさんのキャラって難易度トップクラスって感じ。純粋にスゴいことだなって思うぜ。ホントに尊敬するわ。
あらやだ。あたし、あんたたちのチンピラ衣装とあたしの女装が同じものに見えてきちゃった…。お互い「武装」みたいなもんよね?
そうそうそう! そうなんですよ!
一緒よ。「派手に着替えて強気を出そう」みたいな。「別の自分になるんだ!」って感じよね。
キャラを通してなら普段言えないことも言えるみたいなとこありますよね! でもそれをするとすり減る心というか…。
みんな無理して頑張ってんのよね。女装したり、ワルぶってチンピラのふりしたり…。ノブオ、あんたも頑張ってんのよね。あたしわかるわ! あんた頑張ってるわよ!
社長ちょっと…強めのお酒ください!(涙目)
いい話の流れになってるから、時代の変化が感じられるウチのお客さんのステキなエピソードも紹介しちゃおうかしら。
お、気になるな。
じゃ、まずは63歳の老紳士の話ね。その方は、テレビにオネエがよく出るようになって「ずっと自分が抱いてた違和感の理由がはっきりしてきたんです」って言ってご来店されたわけ。結婚して、子供も成人まで育てて送り出したんだけど、来店のちょっと前に離婚。理由を聞いたら、奥さんに正直に話したんだっていうの。「本当は自分は女性として生きたい人間だった」って。
うおー勇気あるな!
63歳ってなかなかの遅咲きねと思ったんだけど、「どれくらいあるか分かんないけど、せめて残りは自分らしい人生を楽しんじゃって!」って応援したのよ。そうしたら三ヶ月後、どこまでオペしたのか、そんなにくわしくは聞かなかったからわからないけど、すごく上品な美人マダムになってまたお店に現れたの。そのときの表情がもう、憑(つ)き物が落ちたような晴れやかな顔でね、幸せそうだった。
そしてさらに1年後、今度は「めいっ子にもカミングアウトしたんだ」って言って一緒に来られて。母娘みたいに仲良さそうにしててさ。還暦越えてから本当の自分の生き方が見つかったっていう、そんなお客さんがいたのよ。
そうか…。そんな人もいるんだな…。
アニキも実は…?
ちげーよ…とも言い切れねぇか…。ねぇ、ノブオちゃん♡?
キャラ渋滞! やめよう!
もう一つ興味深かったのは、50歳前後ぐらいのパッ見、女性同士のカップルの話ね。最初はベテランのレズビアンだと思って接客していたんだけど、よくよく聞いたらそのふたりは男女のご夫婦で、旦那さんが女装をしてたの。しかも旦那さんは元自衛官!

その旦那さんも、離婚覚悟で奥さんにカミングアウトしたんだって。「実は正直、ずっと女性として生きたかったんだ。こんな自分とは離婚してくれて構わない」って。そしたら奥さんがこう言ったんだって。「わたしはあなたが男だから好きになったんじゃなくて、あなたという人間が好きで結婚をしたの。だから、あなたが格好を変えたいなら、わたしはそれを手伝うわ」って。フトコロ深め〜!
かっこいい奥さんだな!
それから、彼女は旦那にメイクを教えてあげて、女性同士の見た目でお出掛けするようになったんだって。メイクが上達したら、最終的には奥さんより旦那さんのほうがキレイになっちゃったんだけど(笑)。
そんなこと言ったら奥さんがかわいそうだろ! この記事読んだらどうすんだ!
いいのよ、本人にも「もうあんたの負けね」って言ってるから(笑)。うるさい!って怒られてるけど(笑)。
二丁目でしか起こり得ない、素敵な展開だな。いやー、いい話だ。
あたしが見知っている分には、こんな感じで周りの人に正直に話した結果、前より良い関係を築けたって人たちも結構多いわね。

でも、もちろん「それは無理だ」っていうリアクションもあると思う。だから、無闇に人の事情に口を出そうとは思わないけど、本当なら正直に言いたいって人はまだまだたくさんいると思うわ。
あたしたちが二丁目でやっていることやメディアで話していることで、慣れてくれたり知識を得た人たちが、周りの人にカミングアウトされても、さらりと受け止められるようになったら嬉しいわね♡
【次回予告】新宿二丁目には強烈な個性のママたちがいる。次回は深夜食堂「クイン」とディスコ「ニューサザエ」を取材し、色街の歴史と、この土地のドライでビターな人間ドラマについて話を聞いてきた。(4/2公開予定)
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