「僕は、あくまで職業作曲家なので。アーティストではないんです」

ゲーム『アイドルマスター』シリーズをはじめ、テレビアニメ『弱虫ペダル』や『刀剣乱舞-花丸-』など、多数の人気作品にいくつもの楽曲を提供してきた、作曲家の睦月周平。

ただ、睦月の楽曲は、およそ共通点を見出しにくい。ジャンルはバラバラだし、お決まりのメロディラインもない。共通するのは、どれも評価が高いこと。

ファンは、睦月の楽曲を「同じ人が作っているとは思えない」「全然違うジャンルの曲なのに安定して良い曲を作る」…そう評する。ジャンルやテイストは違えども、常に安定した評価を得ている。

アニメやゲームといった作品のファン、そしてクライアント、さらにはまだ見ぬリスナーたちの要望をリサーチして、聞いて、とにかく応え続けてきた睦月。これまでの作曲家としてのキャリアを考えると、年齢は意外にも若い。現在27歳、彼はどんな職業作曲家を志すのか。

撮影/林直幸 取材・文/鈴木梢

試行錯誤できる回数が多ければ、うまくいく数も多くなる

14歳で楽器を触りはじめた睦月は、趣味でバンド活動を始めた。中学の頃からロックバンドのGRAPEVINEが好きで、いまでも何度聴いても曲の展開に驚いてしまう、という。自身の音楽活動に大きな影響を与えた、とても重要な存在だと話す。
バンド活動や作曲活動を中学、高校と続け、音楽系の専門学校に入学。バンド活動時には深く考えていなかった作曲の勉強に、少しずつ興味を持ちはじめた。
「バンドって、まずやりたいことが明確にあって形にしていくと思うんですけど、僕にはそれがなかったんです。だからいま、作曲家をやっているんだろうなと思っていて。自分のやりたいこと以前にまず、提示されたお題があって、それに応える。そういったほうが、僕は好きなんです」
バンドでやっていくのは難しそうだけど、音楽とともにずっとアニメとゲームも愛してきた。そんな自分が進むなら楽曲を作る道、そしてそれがアニメやゲームで流れたらなんて幸せなことだろう。そう考えて進学した。
同じ学科では、現在もタッグを組むことの多い作詞家・ミズノゲンキとの出会いもあった。
「(ミズノゲンキは)同い年で、友達で、曲作りがやりやすいです。とくに、趣味は違っても近しい文化を通ってきているから、共通言語が多いのはとても大きい。作品に対する理解についても、補い合えることが多いなと。ずっと一緒にやってきて良かったと思う場面は多々あります
専門学校卒業後は作曲家として活動をしつつ、その頃からミズノとコンビを組むことも多かった。現在はふたりとも同じ事務所に所属をしている。ふたりはセットでファンたちから評価されることもかなり多い。
事務所の門は自分でたたいた。尊敬する作曲家が多く所属する現在の事務所に応募した。個人での活動の頃と比べて、働き方は劇的に変化した。最初はスピード感になかなかついていけなかった。しかし睦月にとって、それこそが求めていたものだったという。
「事務所に入ってからは、忙しい状況に身を置かせてもらっているのがありがたいんです。単純な話ですけど、仕事が多ければ多いほど、試行錯誤できる回数も増えて、その中で『これはうまく形にできたな』と思う回数も増えるわけじゃないですか。それが楽しいんです」

自分に求められているのは、要望に対して期待以上で応える力

睦月の作曲は、土台となる調査と提案力が非常に優れている。すでに活動をしているアーティストや既存作品関連の発注であれば、まずその関連曲をほぼ全部聴くのはもちろんのこと、人気要素や人気曲の共通点を分析し、そのファン層の評判も調べる。
既存作品でなければ、ストーリーやキャラクター設定などの情報から想定されるファン像を考え、リスナーに喜んでもらえるよう、その要素をエッセンスとして抽出し生かして楽曲を制作する。
調査を基にまずはワンコーラス作って提案し、クライアントの要望を引き出し切るまで提案を続け、要望がまとまってきたら完成まで制作を一気に進めていく。楽曲にもよるが、依頼から納品までで、大体1ヶ月程度の仕事となる。
「そのアーティストや作品の人気曲のコピーになってしまったら意味がないので、あくまで人気曲に共通するエッセンスをベースに、クライアントの要望をヒアリングして提案して…というのを繰り返しながら、『自分ならどうするか』を反映させていきます
たとえば、ゲーム『アイドルマスター シンデレラガールズ』内のアイドルユニット・インディヴィジュアルズに『∀NSWER』という楽曲がある。当初の依頼は「エレクトロニカやエモ、ポストハードコア寄りのメタル」だったが、睦月が提案したのは、その要望に「ジェント」の方向性も加えることだった。
「インディヴィジュアルズの初の楽曲ということもあったし、その後の楽曲の幅やユニットとしての展開を考えたときに、その方向性(ジェント)に持って行ったらファンの方も新鮮味を感じていただけるのではないかと思ったんです。

作品やストーリー、キャラクター設定などがすでにあるものは、絶対にその世界観が音でわかるような楽曲にしたい。それでいて、クライアントやファンの方々から奇想天外に思ってもらえるような提案をしたいんですよね」
ほかにも、『アイドルマスター ミリオンライブ!』内の楽曲『Cut. Cut. Cut.』は、1990年代に流行した音楽ジャンルである渋谷系を、睦月が現代風にアレンジしたものだ。あらゆるジャンルを操る睦月だからこそ、要望に合わせつつも独自のアプローチを実現することができる。
「アイマス(アイドルマスター)シリーズはとくに、ユニットやキャラクターの色がしっかりしていて個性豊かでありながら、その中で楽曲を作るときの自由度が高いんです。

だからこそ、『こういう曲は聞いたことがあるな』とファンの方々から思われてしまったら、もったいないですし、その中で挑戦するのが楽しいんですよね。作ってから長く聴いてくれる人が多いのもアイマスシリーズですし、僕にとって大きな存在です」
曲を世に送り出したあとも、自身が手掛けた楽曲名をネットで検索をする。自身の曲においても、「ここがいいよね」とファンが共通して言及しているポイントは、以降の楽曲制作に生かしていく。
だが、メロディのストックをしなければ、思い付いたものをメモしておくこともあまりしない。自分に求められているのは、要望に対して期待以上で応える力。そう自覚して、コンテンツに合わせてあらゆる手を尽くして打ち返していく。

コミュニケーションが密になれば、音の質は上がる

睦月は、(K)NoW_NAME(ノウネイム)のメンバーとしても活動をしている。アニメ作品の音楽(主題歌、挿入歌、BGMなど)を総合的に手掛ける音楽クリエイティブ・ユニットだ。
ボーカリストが3人、ミュージッククリエイターが6人、イラストレーターが1人の10人で構成されている。2016年1月にテレビアニメ『灰と幻想のグリムガル』の音楽をプロデュースするとともに結成された。
(K)NoW_NAMEでも作曲家として参加をしているが、普段の作曲活動とは異なる部分があるという。
「考え方自体はそんなに変わらないのですが、作曲って、誰が作詞をするのかわからない状態で進めるケースがあるんですよね。わかっている状態で作曲するときは作詞家の方とやりとりすることもありますが、そうではないときは作詞家の方にお任せしていて。

それに対して、(K)NoW_NAMEの場合は作詞家もメンバーなので、密にやりとりできて、楽曲作りはしやすいです」
ボーカリストたちは、それぞれに色が違い、軸となるアニメの世界観が決まっている状態で楽曲を制作する。たしかにそれだけ聞くと、普段、睦月が作曲を行う際の条件に比べて情報がそろっているため、制作はしやすいだろうと思う。ただ、制作のしやすさはそれだけが理由ではないらしい。
「2月の2ndライブに来てくれた方はわかるかもしれないですが、2017年の1stライブのときよりもメンバー間のコミュニケーションが密になっていて。コミュニケーションがどれだけ取れているかによって音の質ってまったく変わるので、今回はそれが音にも出ていたんじゃないかと思います」
クライアントからの要望を引き出すために提案をしてコミュニケーションを多く取る印象の強い睦月だが、共に楽曲を作るミュージシャンやエンジニアとのコミュニケーションにも非常に重きを置いている。

どんな状況でも、期待を裏切っていけるのがやりがい

あらゆる要望に対し、自身の中にある引き出しから知識と技術と手法を取り出し、かなりのハイペースで日々打ち返していく睦月。疲弊し切ってしまうことや、アウトプットが枯渇してしまうことはないのだろうか。
「楽曲制作が立て込んでいるから流れ作業になるとか、型にはまってしまう、とかもなくて、その中でも良い意味で期待を裏切っていけることがやりがいになってますね」
息抜きをするのは下手だ。たとえば散歩をしていても、作業部屋で集中しているときと同じように楽曲制作のことで頭がいっぱいになってしまう。

「息抜きをしてるときにふとメロディを思い付くとか、うらやましいんですけどね。うまくいかない」と笑う。
「音楽はもともと趣味でやってきたことなので、今でも趣味の延長のように感じています。苦になることはないです。もちろん、しんどいと思うことがないわけじゃないですけど。

自分は作曲以外で食べていけるとも考えていませんし、苦しいとか感じている場合じゃないよな、と思っちゃうんですよね」
仕事ぶりはストイックに見えるが、生活自体は基本マイペースだ。昼までに起きて、食事を取り、しばらくしてからエンジンが掛かる。そこからは集中して夜遅くまで作業をし続けることもあるが、徹夜はしない。
「事務所に入ったばかりの頃は、作業のスピード感に追い付くために徹夜することもありましたけど、今はやらないように心掛けています。徹夜自体は体に良くないですし。なるべく一般的な生活リズムを保つように心掛けてはいますが、少しでも余裕があるときは、寝たいときに寝て、起きたいときに起きます」

楽曲に引っかかるものがなければ、アニメだって見てもらえない

作曲家としてはオリジナリティーが求められることもあるのかと思ったが、睦月は作曲の際にわかりやすい形でオリジナリティーを入れ込むことはない。彼はあくまで職業作曲家としての立ち位置を崩さない。
「職業として作曲家をやっているので、あらゆるジャンルの楽曲を作れないとダメだと思っていて、『どんなジャンルでも僕ならこれを入れる』みたいなものはあえてやらないようにしています。

ただ、どんなジャンルでもメロディーはキャッチーに。むしろ、キャッチーなメロディーが浮かぶまでは本格的な作曲作業に取り掛からないようにしています」
楽曲に引っかかる、引きつけられるものがなければ、アニメだって見てもらえなくなるかもしれない。睦月はそう話す。

あくまでクライアントや楽曲を提供するアニメやゲームなどの作品、そしてリスナーたちを第一に考え、できるだけみんなの要望を満たして喜んでもらえる楽曲を作る。それが睦月の主義だ。
職業作曲家としてのスタンスを保つ睦月は、自身が今後この仕事を続けていく未来をどう見ているのだろうか。
「いろんなジャンルの楽曲を作ることができて、『へー、あんなこともこんなこともできるんだ!』と思ってもらえたら、この世界できっと長生きできるのかなと思っています。

そもそも幅広く作ることが好きですし、ずっと『この人いいなあ』と思ってもらえるのが続いたら、うれしいですね」
睦月は自身を「アーティストではない」と話す。たしかにひとつの方向性にこだわり突き進むわけではないのかもしれないが、誰よりも貪欲に音楽の世界を開拓し、できるだけ多くの人のために考え抜いて、最高の音楽を打ち返す。
それは「アーティスト」なのではないだろうか。睦月は「芸術家」の意味合いで話したのかもしれないが、「アーティスト」という言葉は「達人」の意味も持つ。職業作曲家もアーティストだ。
「今はアニメやゲームの楽曲が多いですが、それ以外の楽曲にも、もちろん挑戦していきたいです。世界が違うと、見えるものも変わるので」
睦月周平(むつき・しゅうへい)
1992年1月18日生まれ。埼玉県出身。B型。
14歳から楽器に触れるようになり、バンド結成と同時に作曲をはじめる。ジャンルに合わせたキャッチーなメロディーメークを得意とし、アーティスト・作品の世界観を生かす楽曲作りには定評がある。アレンジにおいては得意とするギター演奏を生かしたロックテイストをはじめ、ポップス・メタルから打ち込み系まで幅広く対応できる。

サイン入りギターピックプレゼント

今回インタビューをさせていただいた、睦月周平さんのサイン入りギターピックを抽選で3名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
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受付期間
2019年4月1日(月)18:00〜4月7日(日)18:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/4月8日(月)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから4月8日(月)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき4月11日(木)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
キャンペーン規約
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