高校生で作詞家デビューし、アンジュルム『乙女の逆襲』やカントリー・ガールズ『愛おしくってごめんね』などハロー!プロジェクトに多くの歌詞を提供する児玉雨子。

現在25歳の彼女は早くからファンのあいだで注目され、その才能はテレビアニメ『創聖のアクエリオン』『マクロスF』などの楽曲を手掛けた作曲家・菅野よう子も認めるほど。

彼女と話していると本当に気持ちが良い。言葉に嘘がないのだ。そして、スカッとするような喋りの端々に、知性と気高さを感じる。聞けば、作詞家という裏方の存在でありながら彼女の元には何通もファンレターが届くという。その送り主は全員女性なのだとか。

同性をも虜にする彼女の魅力とはいったい何なのだろうか。

撮影/玉井美世子 取材・文/荻原梓 撮影協力/壱參伍

就活のときに「私には作詞しかない」と思い知らされた

児玉さんの作詞家デビューは高校生とかなり早いですよね。どのような経緯で作詞をすることになったのでしょうか?
父親の知り合いがローカル局のプロデューサーをしていて、その方が新番組を立ち上げることになって。せっかくならオープニングテーマをタイアップではなくオリジナル曲で作りたいと思ったらしくて。

ちょうどその頃、私がとある文学賞の選考に引っかかったタイミングだったので、記念に作詞してみないかという話が来たんです。
いわゆる一般的な作詞家の辿る道筋とは違うルートですよね。
違いますね。音楽事務所に曲を持ち込んだり、コンペに応募したり…とか、もっと正規のルートが一般的だと思うんですけど。
それまでに作詞をされた経験は?
学校の授業で作詞作曲を習った程度です。メロディーと歌詞を考えたら先生がコードを付けてくれるっていう簡単なものなんですけど。なので、その頃から詞を書くのってなんか楽しいなという気持ちはありました。でも、それで生活するとか仕事にするとかはまったく考えてなかったですね。
ということは、最初は「作詞家になりたい」という強い意志があったわけではなく、偶然や縁に近い形だったんですね。
そうです。その頃は、作詞を続けたいというよりも、いつやめるかを考えてました。ハロー!プロジェクトの歌詞を書かせてもらう前くらいの話ですね。なので就職したらやめるはずだったんです。
作詞家一本でやっていこうと思ったタイミングはいつ頃ですか?
私、就活のときにまったく準備をしていなかったんですね。そしたらエントリーシートに書けることがなさすぎて。資格も持ってないし、作詞の経験が特に売りになるわけでもなかったので。

でも周りのみんなはちゃんと準備していて…案の定、私は全滅でした。あ、これダメだと思って。書く仕事しかやれることがないなって…。
唯一残された道みたいな。
本当にそんな感じです。それで、私は就職したくないんだと思い直したんです。いままでの私だったらそういう準備はそれとなくやってきてたはずなので。
学生生活を送りながら、心のどこかでは作詞家への道を考えていたのかもしれないですね。
かもしれないです。でも、当時の私はそれを認めたくなかったんでしょうね。何の準備もせずに就活を始めてしまいました。その後、初めてメジャー流通の楽曲(アンジュルム『乙女の逆襲』)の詞を書かせていただく機会があって。

アニソンは、すぐに理解できない不思議なものを許容してくれる

まさにご自身にとっても“逆襲”だったと。普段はどのように作詞されてますか?
喫茶店とか電車や駅前で見かけた人が、巡り巡って私が書いた詞を聴いたときにどんなものだったら刺さるだろうと想像するんです。
まず聴き手をイメージするんですね?
はい。聴き手さえ決まったらその人のための詞を書こうと思っていて。その人の生活を想像して、その人の心に響くように書きます。

でも、それをやりすぎるとたくさんの人に届くような広がりのあるものにはならないから、少し“行間”や“余白”を残します。そうしないと、もし私が聴く側だったら、説明的でベッタリ書かれてる歌詞ではもう一度聴くことはしないと思うので。
『アイドルタイムプリパラ』や『キラッとプリ☆チャン』など、アニメソングの作詞もされていますが、作詞するにあたって違いはありますか?
アニソンの場合は主人公の設定や世界観作りをアニメ制作側がすでにやってくれているので、私が主題歌なり挿入歌でやるべきことはその後のことだと思ってます。

あと子ども向けアニメだと、子どもの頃は歌ってると楽しいなくらいだった歌詞が、大人になったときにその良さに改めて気付くことがありますよね。なので最初は意味なんてわからなくて良いと思うんです。

昔聴いた曲で頭に残ってるフレーズが、よくよく考えてみると良い歌詞だったよねって20年後に思ってくれたらいいなと思って書いてます。
昨年亡くなった漫画家のさくらももこさんが作詞した『おどるポンポコリン』も、今になって読んでみると妙に深いですよね。歌い出しの“なんでもかんでも みんな〜”なんてものすごく風刺的で。
たしかに! 私、『夢のクレヨン王国』というアニメが好きだったんですけど、その主題歌の『ン・パカ マーチ』という曲に“問題はどこかあててみよう”というフレーズがあって、なぜかそこがすごく楽しかった記憶が残ってるんです。

それで最近、その部分を口ずさんでたら急に元気が出てきたことがあって、そうだ、歌詞の本質はこれだ!と思う瞬間があったり。アニソンってそういう、すぐには理解できない不思議なものをそのまま許容してくれる分野だと思います。
アニソンといえば、声優の斉藤壮馬さんにも歌詞を提供されていましたよね。
『夜明けはまだ』ですね。たまたま作詞を手掛けた楽曲を聴いてくださったみたいで、直接メールでオファーをもらいました。斉藤さんからは、最初に歌詞の方向性についていろいろ教えていただいたのですが、あまりリテイクもなくわりとすんなりと書けました。

他にもキャラソン(キャラクターソング)でご一緒することがなぜか多くて、毎回斉藤さんが歌ってるのを想像しながら楽しく書いてます。
昨年リリースされたアンジュルムの『46億年LOVE』はファンの間では大絶賛の曲となりましたね。
実は最初は『マジヤバティックLOVE』というタイトルだったんです。「まじヤバい」という言葉の微妙に古い感じがいいなと思って。これ以上古くなる前に私が曲名にしちゃおうと思ったんです(笑)。

でも「もうちょっと出ない?」ってたいせいさん(制作ディレクター)に言われて、たしかにこのままだとパッパラパーすぎるなと(笑)。

それであるとき、デモ音源の最後のところが本当に気持ちいいメロディーだなあと思ってたら、突然“46億年〜”って聞こえてきたんですよ。オカルトみたいな話ですけど、本当にこういうことあるんだって思いました。それで、“46億年LOVE”でいいじゃん!って。

男性アイドルの楽曲はもっと自由になっていいと思う

以前、児玉さんが「阿久悠は“女”ではなく“女性”の歌詞を書き出した先駆けですが、私はまだまだ“男性”の曲さえ、この時代に足りていないのではないかと思います」と発言されてる記事を見て非常に興味深い指摘だと思いました。
阿久悠は「作詞家憲法」(『生きっぱなしの記』日本経済新聞社)のなかで、それまでの歌謡曲では女性像が“メス”のまま客体化されていたことを指摘して、そうじゃないんだ、これからの時代はもっと“社会的な女性”を描いていくべきと書いたのだと、私は解釈しています。あの時代にそれを書いたのはスゴいですよね。

そのおかげなのかいまは、女の人の曲を書くときに「愛したい」と「愛されたい」のどちらを書いてもいいんです。どちらでも曲としては格好が付くんですよね。でもその一方で、いまだに男の人が「愛されたい」と声高に叫ぶ曲は少ないと思うんです。
歌として歌われる女性像は発展してきたのに“男性”の曲はあまり進歩してない。
男の人をテーマにした曲の場合は、いまだに“男性”と“オス”がごちゃごちゃになったまま放置されている気がします。「ボクが愛するキミを守り続けるよ」ばかりで。

たとえば「オレ全然オマエを守れてないけど、好きで好きで死にそう」って歌う男性アイドルが、もうちょっとヒットチャート上位にいてもよくない? って。
男の人の曲のほうこそ“強い男性像”に縛られているのではないかと。
はい。どんどん縛られていってる。これから男性アイドルはもっと自由になっていいと思うんですよ。バンド音楽とかはまた違うんでしょうけど、作家音楽の世界では、なぜいまだにこれをやっているんだろうと単純に疑問で。

まるで女の子は「スカートを履かなきゃダメ」「髪は絶対ロング」と思い込んでいた時代みたいな。逆に男の人のほうが全然自由じゃないと思います。
確かに。こと男性アイドルの曲に関しては歌われる男性像が一様な気はしますね。
ですよね。女性アイドルは激しく入れ替わる分、歌われる女性像の方は多様化してます。男性アイドルももっと色んなタイプがいてほしいと思うんです。
その話を聞いて今思い浮かんだのがシャ乱Qです。日本の歌謡史を見渡してもシャ乱Qはかなり特殊ですよね。
そう! シャ乱Qの曲に出てくる男の人は、大阪の道頓堀でひとりずぶ濡れで、金はない、女にはフラれた…みたいなイメージ(笑)。だからシャ乱Qは本当にすごくて。

情けない男のイメージを打ち出してもあんなに売れてる。しかも本人たちもそれが本気でカッコいいと思ってやってる、その潔さたるや! 本当にカッコいいですよね。

「音楽は売れないから」と何もしないのは大人の無責任

児玉さんは作詞活動をするなかで落ち込むことはありますか?
しょっちゅうありますよ! 才能ないなって。私なんかダメだ…と。いまはもう大丈夫なんですけど。

22〜23歳くらいのときに一度自信を完全になくした頃は、日本語の歌詞の曲を聴くとダメになるから洋楽を聴き、次に洋楽を聴くのもダメになって、結局アコーディオン奏者のアルバムばかり聴いていた時期がありました(笑)。
とにかく歌詞の世界から遠ざかりたかったんですね(笑)。
ハロプロの曲も聴けない時期がありました。自分の歌詞が選ばれなかった曲だ…と落ち込んでしまうほど、歌手のことじゃなく、自分のことしか考えられなくなって。
いまはもうそんなことはないですか?
はい。昨年、ミュージシャンの近田春夫さんと菅野よう子さんとご一緒する機会があって、そのときにものすごく視野が狭くなってたと気付かされました。なんというか、おふたりには技術じゃない部分で教えられたんです。技術は本とかネットとか調べればいまはたくさん出てきますけど、根っこの部分は誰も教えてくれません。

アーケードゲーム『星と翼のパラドクス』の主題歌でご一緒した菅野さんには「あなたもっと書けるでしょ!」って言われたり、「そうじゃなかったはずじゃない!」なんて言われて…初めて会ったのに(笑)。
昔から付き合いがあったかのような(笑)。
あと、なんだっけ…「歌詞に潤いがない」みたいなことも言われたんです。私びっくりして。初めて会った人にすべて見透かされた!って胸にグサッと刺さっちゃって。

高校生の頃は、誰かに聴かれることを想定したり計算したりとかはまったく気にせずに書いていて、でもそれでも自由に楽しく書いてたことを思い出したんです。そうだそうだ、それで良かったんだと。近田さんは近田さんで来たもの全部OK出すんです。「好きにやりゃあいいんだよ」って(笑)。
それでなのか、近田さんのアルバム『超冗談だから』に児玉さんが提供した6曲の歌詞はのびのびしていて本当に素晴らしかったです。個人的には『0発100中』の歌詞が好きで。
ありがとうございます。近田さんは丸投げに近いくらい私のことを信頼してくださってたので、逆に“責任”を感じました。

ある意味、ハロプロの子たちには結果で返さなきゃという強い責任を勝手に背負っていて。若手作家の練習みたいな期間に、あの子たちの大事な一生を預かって付き合わせてしまったんじゃないかなって。

だからその分、私が売れる曲を作ってお返ししなきゃいけないと思ってるんです。その意味で近田さんに感じた“責任”は、逆にそういうことは考えちゃダメってことなんだと。それ一辺倒になってはいけないんだと言外に教えてもらった気がするんです。
ハロプロの子たちには結果でお返ししたいんですね。
はい。ヒット曲って“仕組む”ことはできないけど、“仕込む”ことはできると思うんです。種をまいて、水やりすることはできるんです。

でも、たまたま日当たりが悪くて芽が出ないだけで。それを「いま音楽は売れないから」という理由で何もしないのは、自分を含めた大人の無責任だと思っています。

なるべく良い環境を探して、良い肥料を与えるまでは全部やりたい。いろいろ試してヒットした要因のひとつとして、「歌詞が良かったから」と言われるようになれたらうれしいです。
児玉雨子(こだま・あめこ)
1993年12月21日生まれ。神奈川県出身。A型。
高校在学中の2011年に作詞家デビューし、ハロー!プロジェクトをはじめとしたアイドルグループや、斉藤壮馬、羽多野渉等の声優、テレビアニメ『アイドルタイムプリパラ』『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』やゲーム『星と翼のパラドクス』『KING OF PRISM プリズムラッシュ!LIVE』主題歌や挿入歌に作詞提供。雑誌『月刊Newtype』(KADOKAWA)で「模像系彼女しーちゃんとX人の彼」を連載中。

サイン入りポラプレゼント

今回インタビューをさせていただいた、児玉雨子さんのサイン入りポラを抽選で3名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
ライブドアニュースのTwitterアカウント(@livedoornews)をフォロー&以下のツイートをRT
受付期間
2019年3月14日(木)18:00〜3月20日(水)18:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/3月22日(金)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから3月22日(金)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき3月25日(月)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
キャンペーン規約
  • 複数回応募されても当選確率は上がりません。
  • 賞品発送先は日本国内のみです。
  • 応募にかかる通信料・通話料などはお客様のご負担となります。
  • 応募内容、方法に虚偽の記載がある場合や、当方が不正と判断した場合、応募資格を取り消します。
  • 当選結果に関してのお問い合わせにはお答えすることができません。
  • 賞品の指定はできません。
  • 賞品の不具合・破損に関する責任は一切負いかねます。
  • 本キャンペーン当選賞品を、インターネットオークションなどで第三者に転売・譲渡することは禁止しております。
  • 個人情報の利用に関しましてはこちらをご覧ください。
ライブドアニュースのインタビュー特集では、役者・アーティスト・声優・YouTuberなど、さまざまなジャンルで活躍されている方々を取り上げています。
記事への感想・ご意見、お問い合わせなどは こちら までご連絡ください。