▲「北欧のキャッシュレス最新事情」も折り返し地点に。フィンランドの首都ヘルシンキの象徴ともいえるヘルシンキ大聖堂を望む
北欧キャッシュレス最新事情の3回目はフィンランドの首都ヘルシンキだ。
今回同所を訪れたのは11月3週目だったのだが、どうやらタイミング的には微妙な時期だったようで、筆者が早朝に現地を離れた24日のタイミングがクリスマスマーケット開催初日だったりと、市内が活気に溢れる雰囲気を味わうことなく取材を終えてしまった。北欧のこの時期は日照時間も短く、全体に曇天で、気温こそ0度前後ではあるものの体感温度はさらに低く底冷えする。そのため、同国で一番の都会でありながら、心なしか人通りも少なく感じられ、寂しい雰囲気が漂っている。
以前にモナコで取材しているときにバカンスで現地に来ていたフィンランド人と話したことがあるが、現地を離れて暖かい地中海の保養地に逃げたいという気持ちが改めてよくわかった気がする。
話は少々脱線したが、そんなヘルシンキのキャッシュレス最新事情をまとめてみた。過去の北欧レポート記事に興味ある方は、下記のリンクをたどって参照してほしい。
・デンマーク:コペンハーゲン編
・スウェーデン:ストックホルム編
キャッシュレスなマーケットを求めて
「北欧キャッシュレス最新事情」と銘打った本シリーズだが、実はフィンランドだけ少々毛色が異なっている。1つは他の北欧国家がすべてクローナという各国独自の通貨を発行しているのに対し、フィンランドのみがユーロに加入しており、特に欧州からの旅行者がキャッシュを持ち込むのが容易になっている。
バルト海を挟んでヘルシンキの対岸にあり、フェリーでの往来が盛んなエストニアのタリンだが、こちらの国でも比較的早期からユーロを採用しているなど、ユーロ経済が深く浸透している。
また、スウェーデンが「Swish」、デンマークが「MobilePay」、ノルウェーが「Vipps」という形でモバイル決済・送金サービスが国レベルで普及しているのに対し、フィンランドのみ決定的なモバイル決済サービスが存在していない。つまり、キャッシュレスという視点でいえば「クレジットカード(デビットカード)の利用率が高い西ヨーロッパの国」であり、そもそも「キャッシュレスの進んだ北欧」というカテゴリに含めていいのか判断に悩む国だ。
とはいえ、実際に街を回ってみるとわかるのは、どの店でも普通にクレジットカードやデビットカードが利用でき、しかもストックホルムと比較してもNFCによる非接触決済に対応している決済端末が充実している。これはストックホルムよりもカード決済インフラが整備されたのが後ということを示しているが、それだけに広く最新環境が普及していてApple Payなどの仕組みとの相性もいい。
あとは、コペンハーゲンやストックホルムの2都市のように市場や露店などを回り、実際にキャッシュが広く利用されていそうな場所であってもカード決済が行えるかを確認できればいいというわけだ。
実際に街を歩いていると、他都市にあったような青空市場のようなものはほとんど存在が確認できない。そこでいろいろ見ていくと、クリスマスマーケットの準備をしている場面に遭遇した。看板の案内によれば、筆者が現地に滞在していた11月22日(木曜日)と23日(金曜日)の直後、週末の24日(土曜日)からクリスマスマーケットが開催されるという。つまり多くの店が出て人が集まり、賑やかになる前にヘルシンキを離れなければいけないわけで、知らなかったとはいえ、これは大きな誤算だった。
▲ヘルシンキ大聖堂前のヘルシンキ元老院広場のクリスマスマーケットは絶賛建設中。オープンは訪問日翌日だが、突貫工事で立ち上がるらしい
▲カンピセンターと呼ばれる街の中心部のモール近くのクリスマスマーケットも準備中
▲このカンピセンター周辺のマーケットは11月24日から始まるらしい。ちょうど出発日で盛り上がる様子は見られなかった
だが調べていると、この時期でも開催されているらしいマーケットを発見した。
これはKauppatori(Market Square)と呼ばれるフェリーターミナル周辺のマーケットで、非常に歴史あるエリアだという。特にこのマーケットに隣接するVanha kauppahalli(Old Market Hall)というモールは1889年建設の建物で、同国で最古の取引市場として開設されたものであり、観光客にも人気のスポットだという。
実際に行ってみると、街がクリスマスで盛り上がる時期の直前ということもあってか、やはり人もまばらで寂しく、シャッターの降りている店もあったが、ようやくマーケットらしい場所を確認することができた。街中の他の店同様にクレジットカードやデビットカードのほか、Apple Payなどの非接触決済にも対応している。
またこれら店舗の特徴として、コペンハーゲンやストックホルムの市場では大量に確認できた「iZettle」のような簡易型決済端末ではなく「Verifone」や「Ingenico」のような比較的"しっかり"とした端末が鎮座していることが挙げられる。これは加盟店開拓を行っているのが大手銀行や関連の商店団体である可能性が高く、前出2都市の店舗が自主的にカード決済端末を導入しているのとは違う状況にあるのではと推察する。
▲まだこの時期でもやっているマーケットを探しに港までやってきた
▲Kauppatori(Market Square)と呼ばれるフェリーターミナル周辺のマーケット。こちらは期間限定のクリスマスマーケットとは異なり常設会場のようだ。ただし人は少ない
▲基本的にすべての店でクレジットカードが使える。決済端末もVerifoneやIngenicoのようなタイプで、コペンハーゲンやストックホルムのようなiZettle端末ではない
▲日が落ちかけて急に冷え込んできたのでカフェで休憩する
▲非接触にも対応しているのでApple Payで決済できる
▲Kauppatoriに隣接するVanha kauppahalli(Old Market Hall)は1889年建設のマーケット。当時はまだフィンランド独立前でロシア領時代だった
▲賑わうシーズンではなかったのか、人はまばらで少ない
▲アクセプタンスの一覧。NFCによる非接触決済のほか、JCBのマークも確認できる
フィンランドとモバイル決済
冒頭でも少し解説したが、フィンランドの特徴として他の北欧3ヶ国にあるような国レベルで普及しているスマートフォンを使ったモバイル決済・送金サービスが存在しないことが挙げられる。もともとデンマークでMobilePayをスタートしたDanske Bankは、国外支店のあるノルウェーとフィンランドでのMobilePay展開を進めていたが、ノルウェーではライバルにあたるサービスのVippsとの競争に負けて同国での事業を譲渡する形で撤退した。一方でフィンランドのビジネスは継続しているものの、広く普及しているというレベルには達していないのが現状だ。このMobilePayの利用状況を確認するために、少し市内をまわってみることにした。
▲公共交通を使って少し離れた場所に移動してみる
▲地下鉄駅入り口の電光掲示板でMobilePayの宣伝が出現していた
▲地下鉄駅構内にある自販機。Selectaは欧州のさまざまな駅で見かける。Nayaxの決済端末を使ったクレジットカードや非接触決済に対応するほか、MobilePayのアクセプタンスが確認できる
▲MobilePayのほかにmePayと呼ばれるスマートフォン決済サービスへの対応が確認できる
MobilePayのアクセプタンスはたまに街中で見かけるものの、実際に利用している場面に遭遇しなかったのはコペンハーゲンと同様だ。ただし、コペンハーゲンでは人々に話を聞くと「普段から利用している」という返事があるうえに、街のいろいろな店でアクセプタンスを発見できる。
ところがヘルシンキではそういったアクセプタンス自体が非常に少なく、そもそも普段から利用している気配がほとんどない。利用できる場所の顕著な例はMcDonald's店舗で、デンマーク同様に店舗の決済端末横にMobilePay決済用のBluetoothモジュールが設置されていたりするのだが、最終的に2日間の滞在で利用している場面には一度も遭遇できなかった。
▲初めての都市を訪れたらまずMcDonald'sに向かうのは基本
▲MobilePayのアクセプタンスマークが確認できる
▲カウンターでの決済端末の横にMobilePayの装置が確認できる。おそらくデンマークにおけるMobilePayと仕組みは同じで、Bluetooth BeaconとQRコードを使ってスマートフォンアプリ側で決済する仕組みと思われる
MobilePay関係の収穫はほとんどなかったヘルシンキ滞在だが、交通系ICカードを使った公共交通での市内移動は比較的便利で満喫することができた。ヘルシンキの場合、市内交通はICカードの利用が前提で、旅行者が1日券などを購入した場合でもNFCに対応したICカードが発券される。これはストックホルム同様に改札ゲートが存在するためで、その対策とみられる。
一方で、ヘルシンキ空港から市内への移動に使った近郊鉄道などについては、信用乗車方式の改札なしのシステムとなっている。空港駅のホームには券売機があり、ここで市内への料金分のチケットを購入して乗車すれば、そのままフランスやドイツのような検札機に乗車券を通して時刻を刻印しなくても問題ない。これを利用して、モバイルアプリ経由で乗車券の発券やオンライン購入が可能な仕組みが用意されている。
▲地下鉄やトラム、バスなどの公共交通での移動にはICカードの購入が必要。これは1日券
▲地下鉄はゲート入出場方式、トラムとバスは乗り込んですぐの場所にある改札にICカードをタッチする。この読み取り装置だが、NFCの電波を相当強力に噴いているようで、半径50cm程度の距離にiPhoneを近付けただけでApple Payが起動するほど。そのため、この近辺に立っているだけでiPhoneがまともに操作できない
▲今回購入したICカードは再チャージには対応していないが、通常の交通系ICカードであれば駅のキオスクや自動券売機で簡単に再チャージなどが行える
▲近郊鉄道であればモバイルチケットが用意されるようだ。HSLアプリをダウンロードして決済からモバイルチケットの発券が可能。近郊鉄道は信用改札システムなので、こうした仕組みが採用できたとみられる
▲蛇足だが、ヘルシンキ地下鉄の駅はものすごく深い位置にある。このほか、ヘルシンキ空港の鉄道駅も地下駅でものすごく深い位置まで潜っていく必要があったりするが、ロシアや北朝鮮など旧社会主義圏の国の地下鉄を彷彿とさせる深さだ。そのため、エスカレーターの距離も先が見えないくらい長く、移動速度が速い
バルト三国とフィンランドに感じた共通点
ヘルシンキを回って思ったのは、北欧の中でも一種独特の文化を持った街だという印象だ。歴史的にスウェーデンの影響下にあった時期に加え、近世まではロシア帝国に支配されていた背景がある。距離的な話だけでなく、ロシア対抗を背景にナチ党時代のドイツに協力して第二次世界大戦では枢軸国として敗戦したりと、つねにその背後にはロシアの影があった。また、同じくロシア(ソ連)による支配時代の長かったバルト三国に進出している企業も多く、少なからず文化にロシアの影響があるのではと考えている。
冬は日照時間が少ないうえに天気が優れず、娯楽や観光スポットが少ないといわれるヘルシンキだが、以前に訪問したリトアニアのヴィリニュスの雰囲気に近いものを感じた。逆に、こうした抑圧的な雰囲気がNokiaのような世界的な企業を生み出したり、あるいはLinuxのようなソフトウェアを排出したりと、ハイテク産業で身を立てる原動力となっているのかもしれない。
次回は、北欧4ヶ国ツアーでの最終地点となるノルウェーはオスロだ。最新キャッシュレス事情を巡る北欧ツアー自体はまだ続くが、本稿でもたびたび出てきたVippsを含め、オスロではどのようなキャッシュレス体験が待っているのだろうか。
▲ヘルシンキ中心部を歩く。クリスマスマーケット開催直前の金曜夜で比較的賑やかなはずなのだが、暗くなり始めた午後6-7時くらいが人出のピークで、すぐに閑散とした雰囲気になっていく
▲人出が思ったより少ないという印象だったヘルシンキだが、街を彩る電飾は非常に綺麗で見所は多い
▲娯楽が少ないのか、中央駅真ん前にカジノがあったりと、独特の雰囲気がある
▲Momo Tokuというラーメン屋に入ってみた。味噌ラーメンは思いのほか美味しかった
▲近くのモールにあった中華料理屋では支付宝(Alipay)のアクセプタンスマークを確認できた
▲Hesburgerというフィンランドのバーガーチェーンに入ってみた。バルト三国方面にチェーン展開しており、リトアニアでNFC決済取材を行ったときには非常にお世話になった
▲Hesburger入り口のアクセプタンス表示。非接触対応のほか、100ユーロの高額紙幣の受付は行わない旨の表示がある
▲フィンランドといえば......というキャラクターにようやく遭遇
▲夜明け前のフライトでノルウェーのオスロへ。次回の北欧キャッシュレス最新事情は「ノルウェー:オスロ編」で(次回掲出予定)