剛球右腕ストリックランドと「ライブBP」で7球対決

 マリナーズイチロー外野手が17日(日本時間18日)、米アリゾナ州ピオリアで「ライブBP」と呼ばれる実戦形式の打撃練習に参加した。昨年5月2日以来、約9か月ぶりにメジャー投手を相手に打席に立ち、7球を体感。1球だけスイングし、結果は一塁側へのファウルだった。

 キャンプ2日目、野手組の練習メニューに実戦形式の打撃練習が盛り込まれた。マウンドには、昨季ジャイアンツで14セーブを挙げた191センチの剛球右腕、ハンター・ストリックランドがいた。ただ、投手の調整具合を測るのが目的で、実際の「対決」にはほど遠いのがこのメニュー。イチローは1回スイングし、全7球で目慣らししたが、収穫らしきものはこれといってないという。

「別にどうということはないですよ。元々、僕はこれ(ライブBP)が嫌いですからね。今年も嫌いです。別にマイナスとは言わないですけど、特別にプラスというわけではないです」

 約9か月ぶりに体感するメジャー投手の生きた球。会長付特別補佐に役割を変えた昨年5月3日からは、全体練習でのフリー打撃に加え、試合中は屋内ケージで打ち込む孤独な練習を繰り返してきた。それだけに、生きた球が見られるだけでも収穫と捉えても良さそうなものだが、イチローはそんな思い込みを斥ける。なぜか―。

 その考えに触れる好例がある。

「実戦感覚は実戦でしか補えませんから」と語る理由は…

 昨年の8月21日のことだった。前年2017年に右肩手術を受けてリハビリに専念していた岩隈久志投手(現巨人)が実戦復帰を目指した調整を進める中で、待ち望んでいた打者相手の投球練習を行った日である。その相手を買って出たのが、イチローだった。イチローは第1打席で快音を響かせ、セーフコフィールド(現T-モバイルパーク)の右中間フェンスをワンバウンドで越える鋭い打球を放っている。

 それから4日後、イチローにその一打について聞くと、こんな答えが返ってきた。

「実戦感覚は実戦でしか補えませんから」

 リハビリ調整ということを差し引いても、捕手と呼吸を合わせ、カーブ、スライダー、フォークを織り交ぜた岩隈との21球の駆け引きを味わえたことは1つの収穫と見ても大過ないと感じたが、イチローはそれを断じた。

 アドレナリンの分泌も少ない味方相手の練習が、さして効果的なものにはならないというのが、イチローの一貫した考拠である。

 この日も周囲の「思い込み」を一蹴するように、イチローは言葉を継いだ。

「そら思ったらいいんじゃないの。俺に振らないでほしいね」

 約300日ぶりに裸眼で追った剛球も、イチローにとって「生きた球」ではなかった。(木崎英夫 / Hideo Kizaki)