糖尿病の治療に用いられるインスリンはその性質上、普通の錠剤のように口から飲んでも十分な効果が得られないため、注射器で直接体内に投与する必要がありました。そんなインスリンを「飲むだけで投与できる」という新型カプセル「S.O.M.A.」が、マサチューセッツ工科大学(MIT)やハーバード大学の研究者らによって開発されました。

An ingestible self-orienting system for oral delivery of macromolecules | Science

http://science.sciencemag.org/content/363/6427/611

New pill can deliver insulin | MIT News

http://news.mit.edu/2019/pill-deliver-insulin-orally-0207

インスリンはすい臓から分泌されるホルモンで、血中のグルコース濃度を下げる働きがあります。このインスリンの分泌機能が低下したり、インスリンの効きが悪くなると、高血糖によってさまざまな合併症を引き起こす糖尿病になってしまいます。そのため、糖尿病の症状や進行具合によっては、定期的にインスリンを体外から投与する必要があります。

インスリンはたんぱく質の一種であり、仮に経口投与を行っても消化器で速やかに分解されてしまって効果を得ることができないため、皮下注射で投与されるのが一般的となっています。しかし、インスリンや注射器は適切な管理が必要な上に、人前で注射をせざるを得ない状況をいやがる患者もいるため、より患者に負担の少ないインスリン投与法の開発が続けられています。

そこで、MITとハーバード大学医学部、ブリガム・アンド・ウィメンズ病院と製薬会社であるノボ・ノルディスクの共同研究チームがインスリンの経口投与を可能にするカプセルを開発しました。実際のカプセルはこんな感じ。

飲むだけでインスリンを投与できる画期的なカプセルとはどんなものなのか。以下のムービーを見るとよくわかります。

A self-orienting millimeter-scale applicator (SOMA) for oral delivery of insulin and other biologics - YouTube

開発されたのは「Self-Orienting Millimeter-Scale Actuator(自己志向ミリメートル単位作動装置、S.O.M.A.)」と呼ばれるカプセルです。

S.O.M.A.は飲み込まれるとそのまま胃の中を転がり……

胃壁の最上層にインスリンを注入します。

上部がとがっていて底部が平らな形状は、ヒョウモンガメを参考にしているそうです。この形状にすることで、胃が動いてS.O.M.A.が転がってしまっても重力によって必ず上下が正しい向きとなり、S.O.M.A.に内蔵されている針が下を向くとのこと。

凍結乾燥したインスリンで作られた針が、生分解性のバネと共にカプセル内に収納されています。針は糖で作られたストッパーによって固定されていますが、胃の中の水分によってストッパーが溶解すると針が飛び出し、胃壁にインスリンを注入するという仕組み。胃壁そのものには痛覚受容体が存在しないため、針で刺されても痛くないそうです。

S.O.M.A.は飲み込んでから1秒で胃に到着し、1分で注射針が飛び出し、1時間ですべてのインスリンが血流に完全放出されるように設計されています。

S.O.M.A.1粒は非常に小さく、直径19.05mmの1セント硬貨と並べるとそのサイズがよくわかります。もちろん投与後のカプセルはそのまま腸から排出されます。

既にブタを対象にS.O.M.A.の投与実験が行われていて、300マイクログラムのインスリン投与に成功しているそうです。インスリンの投与用量は5ミリグラムまで増やすことができ、これは2型糖尿病の患者に投与される量にも匹敵するため、十分実用が期待できるとのこと。また、血中インスリン濃度と血中グルコース濃度の変化を見ると、S.O.M.A.で投与した場合も皮下注射で投与した場合と同程度にインスリンの効果が確認できたとのことでした。

研究チームは、S.O.M.A.を利用することでインスリン以外にもワクチンやDNA製剤、酵素、ホルモン剤、免疫抗体などさまざまな医薬品を簡単に経口投与できるとしています。