いま「若者の旅行観」に大きな変化が起こりつつあります。長年、若者の消費動向を追いかけているサイバーエージェント次世代研究所・所長の原田曜平さんは「若者は旅離れをしているのではなく、昔とは旅の動機が変わっている。新しい目的は『インスタ映え』だ」といいます――。(全3回、第2回)
小豆島オリーブ公園での写真作例。ほうきに乗って、空を飛んでいるような写真が撮れる。(画像提供=道の駅 小豆島オリーブ公園)

■女子旅の8割は「インスタに写真を上げる」が目的

 サイバーエージェント次世代研究所・所長の原田曜平さんは、現役の高校生・大学生たちと日常的にコミュニケーションをとり、共同作業をすることで、若者の価値観やトレンド、それらの時代ごとの微細な変化を、15年以上にわたって定点観測してきました。
 原田さんは、ここ数年で、最近の若者、特に大学生の「旅行観」に大きな変化が見られるようになっていると指摘します。それらを明らかにすべく、「旅行には行くほう」だという9人の現役大学生に集まってもらい、若者の旅行観について議論しました。
 現代の若者は旅行に何を求め、旅でどんな消費活動を行っているのでしょうか。座談会の模様を3回にわけてお届けします。第2回は「旅の動機」についてです。

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<座談会の参加メンバー>
正田郁仁 法政大学 経営学部 2年
神谷菜月 明治大学 経営学部 3年
須田孝徳 早稲田大学大学院 商学研究科 修士1年
牧之段直也 早稲田大学 政治経済学部 3年
小野里奈々 法政大学 社会学部 2年
高貫遥 明治大学 経営学部 3年
今野花音 上智大学 文学部 3年
佐藤美梨 慶應義塾大学 文学部 2年
浅見悦子 青山学院大学 地球社会共生学部 3年

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「若者と旅」座談会に参加した大学生たち。(撮影=プレジデントオンライン編集部)

【原田】いまどきの若者は「インスタ映えしそうな場所に旅行に行く」と言われているけど、これは真実?

【小野里】女子同士の旅は、旅の動機の8割がインスタ映えだと思います。

【原田】8割も! もう綺麗な写真を見ていたら、行かなくていいじゃん。

【小野里】ただインスタで「いいね!」の数を稼ぎたいというよりは、自分のインスタの完成度を上げたいんです。

【原田】「いいね!」による承認欲求も必要だけど、もっと純粋な自己満足を写真に求めているんだ。

【神谷】私はそこまでインスタに旅行写真を上げないタイプです。

【正田】僕は3割くらいがインスタ目的です。

【小野里】昨日までサークルの人たちと千葉の館山に行ってきたんですが、各々が撮った「イイ写(いい写真)」をLINEグループの共有アルバムに入れていったら、アルバムの上限1000枚をオーバーしちゃいました。

【原田】1000枚で足りないんだ! 館山に1000枚も写真を撮る場所があるなんて。ちなみにその写真、1個のアルバムに入れると、誰が撮った写真なのかわからなくならない?

【小野里】誰が撮った写真を誰がインスタに上げてもいいんです。自分が撮ったすごくいい写真を、友達がインスタに先に上げていても、全然構いません。

■実写版の映画『魔女の宅急便』のロケ地

【原田】写真はグループの共有物みたいな感覚なんだ。じゃあ、最近熱いインスタ映えスポットはどこ? 沖縄とか石垣島あたりは皆行っているみたいだから定番だとして、それ以外だと?

【須田】福岡の糸島は、海岸にヤシの木で作ったブランコがあって人気ですね。

【牧之段】愛知県・佐久島のアートモニュメントとか。

【原田】島とアートなら、瀬戸内の直島(香川)も人気だよね。ベネッセのアートミュージアムがある。

【須田】瀬戸内なら、実写版の映画『魔女の宅急便』のロケ地にもなった「道の駅 小豆島オリーブ公園」が人気ですね。海と丘と風車があって、ホウキにまたがってジャンプした瞬間に撮ると、飛んでるように見える。

『魔女の宅急便』をイメージした写真作例。(画像提供=道の駅 小豆島オリーブ公園)

【女性陣】(みんなで写真を見る)めっちゃかわいい!

【正田】ホウキを無料レンタルしてるんですね。

【原田】(写真を見て)なるほど。海、丘、抜けた青空に風車か。そういえば、糸島も佐久島も直島も全部「海の横にモニュメント、青い空」だね。これらはインスタ映えする重要な要素なのかな。

【高貫】かもしれないですね。長崎県諫早市にある「フルーツのバス停」も、バックが海で手前にメロンやイチゴのバス停が映るようにみんな写真を撮ってます。

長崎県諫早市小長井町にある「フルーツバス停」。(画像=ながさき旅ネットより)

【全員】(みんなで写真を見る)おおーっ!

【女性陣】かわいい!

【原田】それにしても、写真を撮りに行くために小豆島やら長崎やらまで行くんだね……。若者は旅離れしているんじゃなくて、昔とは旅の動機が変わってきているだけなんだね。

■壁面の「羽」は顔を出したくない人には都合がいい

【須田】あと、インスタ映えでは「レトロ」もポイントですね。

【原田】確かにこの前みんなで埼玉の秩父に行った時、秩父の街にあるレトロなモノの写真を撮りまくってたもんね。昭和の「オロナミンC」の広告ポスターや古い建物、右から左に文字が書かれた看板とか。

【小野里】千葉県鋸南町にある「道の駅 保田(ほた)小学校」は廃校になった小学校をリノベーションしてるんですが、人気スポットです。

道の駅 保田小学校の様子。顔ハメパネル(左)と給食風の食事メニュー(右)。(写真提供=「若者と旅」座談会メンバー)

【牧之段】あと「江戸東京たてもの園」(東京都小金井市)はめっちゃ人気ですよ。

【原田】『千と千尋の神隠し』の建物のモデルがあるんだ。「海の横のモニュメント」「レトロ」、他には?

【正田】壁画とか。

【小野里】「羽」は以前から定番ですね。壁に大きな羽が描いてあって、その前で撮ると自分から羽が生えてるように見える。有名どころだと、横浜の赤レンガ倉庫の近くにある「MARINE & WALK YOKOHAMA」にあります。

【原田】壁画の羽はアメリカが発祥なんだよね。結構世界中いろんなところにある。

【小野里】観光地によくあるような顔ハメパネルは真正面からしか撮れないけど、壁画の羽は後ろ向きでも撮れるので、むやみに顔をSNSに出したくない人は都合がいいんですよ。

【神谷】ユニバ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)にあるハートの壁も人気ですね。「ハローキティのリボン・コレクション」の壁が一面ピンクで、壁にハートがあしらってあるんです。通常は子供向けのエリアなんですけど、あえて中高生や大学生の女の子たちがその壁目的で行って、ハートを挟んで二人で写真を撮って楽しんでいるのをよくインスタでみかけます。

USJの「ハローキティのリボン・コレクション」の壁。インスタ映えで人気だという。(写真提供=「若者と旅」座談会メンバー)

■おいしいかどうかは、問題ではない

【今野】私は普段食べ物ばかり撮ってインスタに載せているんですけど、日本にない「映(ば)え」を求めて海外にも行きますよ。日本だと、アイシングクッキーが乗っているだけのものとか、ありきたりのものばかりなので、つまらない。食べ物に関しては、最近は日本発の「映(ば)え」がありません。

【原田】日本の食べ物は本当に若者たちには魅力がないと感じられるようになっているよね。平均的な味は間違いなく世界一だけど、映えの観点では全くダメ。ここ数年、東京の若者たちが飛びつく食べ物は、アメリカか韓国か台湾の食べ物ばかり。コンビニに置いてあるマスプロダクトも、そもそもコンビニユーザーの平均年齢が日本人の平均年齢と同じ50歳くらいになってきていることもあって、映える商品がほとんどない、という嘆きをよく若者たちから聞く。

2025年には人口ボリュームの多い団塊世代が後期高齢者になり、コンビニにはあまり行けなくなるだろうし、初代インスタ映え世代は既に20代後半になっており、企業は今から映えプロダクトを本気で考えないといけないはずなのに。ちなみに、いま人気な食べ物は?

【今野】レインボーのトースト、ラメドリンク、宝石みたいなケーキ、わたあめの中にアイスを包んだやつ……。レインボーのトーストを除くと、いずれも日本にはまだ入ってきていません(※)。

※編註:座談会を収録した2018年9月時点にはなかったが、その後18年11月に京都の店がラメドリンクの提供を始めている。

ロサンゼルス郊外にある「THE LOOP」のチュロスとラメドリンク。

【原田】(写真を見て)どれも、超すごい見た目だね! これっておいしいの? せっかく旅行に行くんだから、地元の名産品を食べたほうがいいんじゃない?

【今野】大体おいしいんですけど、仮においしくなくても、見た目がかわいければ気分が上がるので。もちろん地元のご飯を食べるのもいいんですけど、旅行ならではの非日常を極めたいんですよ。

【原田】地元の名産品は十分非日常だと思うけど、見た目での非日常がとにかく重要になってきているんだね。

■温泉はリラックスであって「チル」じゃない

【原田】インスタ映え以外に、旅行の目的は?

【小野里】「チル(※)」、かな。海岸にパラソルを立てて、その下で1時間とか2時間とかすごすんです。手元には瓶がおしゃれな海外のビール、奥に海が広がっているので、写真映えもします。

※編集部注:英語の「Chill out」が語源の若者言葉。「まったりする」「くつろぐ」といった意味合いで、「これからカフェでチルってくる」「さっきまでネフリ(ネットフリックス)でチルってた」などと使用する。

「若者と旅」座談会に参加した大学生たち。(撮影=プレジデントオンライン編集部)

【浅見】私、海の家も行きますよ。

【原田】江ノ島とか?

【小野里】私、江ノ島は汚いから行きません。行くなら海外とか沖縄のきれいな海ですね。

【原田】若者の海離れは以前からよく言われていたけど、ここ数年でかなり回復してるみたいだね。海岸の治安が悪くなりすぎたのを、地元の努力で戻した結果。あまり大音量で音楽をかけさせないとか、ゴミを厳しく取り締まるとか。でも、まだ江ノ島はマイルドヤンキーが騒ぐイメージが残ってるのかな。

【小野里】海に行くと女子は水着が面倒ですからね。男子は海から上がってそのまま海パンをはいていられるけど、女子はいちいち着替えが面倒。水着は宿で洗っておかなきゃいけないとか、手間がかかります。

【原田】温泉もチル?

【牧之段】いえ。僕の場合、温泉はリラックスであって、チルじゃないです。チルはもう少し、他の人に見てもらうことを前提とした陶酔感込みのライフスタイル。「自分の暮らしに余裕がある」感じを人に見せつけるというか。たとえば、シーシャ(水タバコ)を吸っているのをインスタのストーリー(動画)に投稿するのはチル。海外のビールを海外のポテチと一緒に写真に撮ってインスタに上げるのも、けっこう陶酔感があるので、チル。それがふつうのビールだと、チルじゃない(笑)。

シーシャ(水たばこ)を提供するカフェの様子。(画像提供=Book _ Shisha いわしくらぶ東京店)

■旅行の目的における「映え」と「チル」の割合

【原田】たしかにシーシャもカッコいい瓶もインスタ上でよく見るね。しかし、日本の缶ビールはインスタ映えしないからインスタにあまり載せないけど、海外のクラフトビールは載せるってシュールだなぁ。

【牧之段】ただ、インスタ映えとチルは若干違うんですよ。

【浅見】そうですね。「映え」だと「いいね!」の数が増えるけど、チルの場合はただビールを写してるだけなので「いいね!」はあまり押されません。「映え」は積極的なアピールだけど、チルは牧之段くんも言っているようにライフスタイルのアピールなので。

【牧之段】インスタ映えは普通の投稿に多くて、チルはインスタのストーリーに多いですね。

【原田】なるほど。映えは「いいね!」をもらう目的の普通の投稿。チルはストーリーなんだ。これならおじさんも覚えやすい。

【高貫】ちょっといいホテルに泊まった時、部屋とかバブルバスをストーリーで投稿するのはチルです。

【牧之段】とはいえ、旅行の目的における「映え」と「チル」の割合は、やっぱり「映え」のほうが大きいでしょうね。

【原田】映え7割、チル3割くらいの過ごし方ができる旅先が、国内外問わず、若者に支持されていくようになっていきそうだね。

■現地スーパーで食材を買って料理

【原田】「写真を撮る」「チル」以外に旅先ですることは?

【小野里】ご飯を食べて、写真を撮りながら歩いて……。

【牧之段】友達と料理を作ることもあります。エアビー(民泊サイトのAirbnb/エアビーアンドビー)だとキッチン付きの部屋が人気なんですよ。そこで友達と料理を作ると家族感が出て、一体感が強まりますからね。前に見たことがあるんですけど、女子ふたりがヨーロッパ旅でアパートを借りて、現地のスーパーで食材を買って料理しているのをストーリーに上げていました。単なる観光じゃなくて、現地の生活になじもうとしてるよ、という感じが他の人との差別化になるんです。

【原田】「食べる」の一歩先、「作る」だ。しかし、君らは常に周りにアピールし続けなくちゃいけなくて、本当に大変だね。

「若者と旅」座談会に参加した大学生たち。(撮影=プレジデントオンライン編集部)

【牧之段】海外製のビールと海外製のポテトチップスを買って、海外の人たちの「日常」を自分たちが体験している感じで、陶酔感に浸れるんです。

【原田】それも一種のチルなんだろう。インバウンドで日本に来る海外の人が、ホテルじゃなくて昔ながらの民家に泊まりたがるのと似ているのかもね。

女子2人のヨーロッパ旅行で、料理を手作りする様子。(写真提供=「若者と旅」座談会メンバー)

【浅見】私は海外も国内も、パワースポットによく行きます。神戸に行った時には、恋愛成就で有名な生田神社の水みくじをやりました。水に浸すと文字が浮かび上がってくるものです。神社でパワスポって言うと、御朱印を集めている女性が結構いるらしいですけど、そういうのじゃない。

生田神社の水みくじ。境内の池におみくじを浸すと、運勢が浮き上がる仕組み。((写真提供=「若者と旅」座談会メンバー))

【原田】御朱印女子は今でもいるよ。ハマっているのは君たちよりもうちょっと年上の中年女性が中心なのかな。

【浅見】海外のパワスポだと、イスラム圏のモスクが思い出に残っています。モスクではかぶりものをしなければいけないんですけど、そういう、ただ見るだけじゃない体験型の旅行はいいですね。

■ボウリングは「どこでもできるから、やらない」

【原田】「かぶりものをする」というのは、超非日常な体験ではないけど、絶対写真を撮るし、要は映える前提の体験ということなんだろうね。ちなみに、昔のおじさんたちは、国内の旅先でカラオケとか卓球、温泉街のボウリングに行っていたんだけど、そういうのはするの?

【牧之段】カラオケですか……。車で行く時に移動中の車中でスマホで曲流して皆で歌うことはありますけど……。

【小野里】卓球は温泉っぽい気持ちになり、盛り上がるのでやりますけど、ボウリングは……。どこでもできることは、やらないです(笑)。

【原田】お土産は買う?

【小野里】とりあえず、歴史上の人物のイラストがパッケージに印刷されてるような食べ物は買わないです(笑)。純粋においしいものを買いたい。イラストのプリントものは「ネタ枠」かなって思っちゃいます。

【原田】国内の旅先の多くのお菓子はネタって思われちゃうんだね。きちんと各地域が映えて美味しいお土産を作っていかないとね。ご当地プリクラは?

【高貫】もう大学生なので年齢的に撮らないですけど、撮るにしてもご当地プリクラは機械が古いから画質は悪いし、盛れないし、フレームもダサいので、ちょっと……。

【小野里】ご当地プリクラを撮るくらいだったら、駅前の証明写真機にみんなで入って撮りますよ。

【浅見】むしろ顔ハメパネルだったら、サークル旅行の「ネタ」として、インスタのストーリーに載せるかな。電車を待っている間によっぽど時間があれば、ですけど(笑)。(次回に続く)

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原田曜平(はらだ・ようへい)
サイバーエージェント次世代生活研究所 所長
1977年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂に入社。ストラテジックプランニング局、博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー。2018年12月よりサイバーエージェント次世代生活研究所・所長。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。著書に『さとり世代』『ヤンキー経済』『これからの中国の話をしよう』などがある。2019年1月より渡辺プロダクションに所属し、現在、TBS「ひるおび」、フジテレビ「新週刊フジテレビ批評」、日本テレビ「バンキシャ」レギュラーとして出演中。

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(サイバーエージェント次世代生活研究所 所長 原田 曜平 構成=稲田豊史)