「いつか映画を撮りたい。いちばんやりたい映画だけ、手が届かなくて」。ライブドアニュース編集部が2016年に取材したとき、今後やりたいことは?という質問に津田健次郎はそう答えていた。

小さい頃から映画が好きで、役者を志し、舞台で活躍しながら声優の仕事も始めるようになった。現在は声優として多くの代表作に恵まれ、なかでも、一筋縄ではいかないニヒルな男を演じたら随一の存在だ。

そんなアウトローな持ち味と素顔のギャップも津田の魅力だ。「ネタバレできなくてごめんなさいね」「こういうことかな?」と、常に相手を気遣いながらトークを進める。念願の映画初監督についても、『AD-LIVE』はあくまで鈴村健一のもの、という謙虚な姿勢を崩さない。

そして何よりも、ジャンルを問わず「良い表現」との出会いを求める姿勢は、ずっと変わらない。

撮影/増田 慶 取材・文/千葉玲子 制作/アンファン
スタイリング/小野知晃(YKP) ヘアメイク/仲田須加
衣装協力/MiDiom(tel. 03-6447-0871)、BJ CLASSIC COLLECTION(Eye's Press:tel. 03-6884-0123)

『AD-LIVE』を続けて10年。鈴村健一こそがドラマティック!

映画初監督おめでとうございます。津田さんが映像作品を手掛けるのは『MATSU-LIVE(マツリブ)』(※)に続いて2度目です。映画『ドキュメンターテイメント AD-LIVE』は2017年公演のバックステージを追いかけたドキュメントということですが、映像化にあたってどこがキモになると思いましたか?
※編注:『AD-LIVE』2016年公演の舞台裏に密着したドキュメンタリー。TOKYO MX、MBS、BS11などでスペシャル番組として放送された。
鈴くんです。鈴くんこそがドラマティック。この映画は、『AD-LIVE』という舞台を10年間作り上げてきた“鈴村健一の物語”なんです。僕が監督させていただく映画ですが、僕の作家性ではなく、一番に、鈴くんの『AD-LIVE』という看板やブランドを大事にしたいという思いで作っています。

2016年に初めて『AD-LIVE』の映像を撮ることになったとき、「メイキング」ならやらないほうがいいと思ったんです。舞台裏でカメラを回して、キャストのインタビューがあって、スタッフの様子があって。それを並べたメイキング映像なら、DVDにつければいい。メイキングには文脈がないんです。
メイキングは羅列、ということでしょうか?
そう、羅列だとひとつの作品にならないんじゃないかと。やっぱりドキュメントに、ドラマにしていきたい。弾が発射されて、準備段階はずっと低空飛行で、本番間際になってバーンと上昇気流に乗って最終的に着地するまでの、『AD-LIVE』というドラマ。その文脈の中心にいるのが鈴くんなんです。
鈴村さんの尊敬するところは?
(とても優しそうな笑顔で)明るいんですよ。

もちろん、本当は暗い部分もいろいろあると思いますよ? でも、彼の視線はいつもエンターテインメントのほうを向いている。そこが鈴くんの強みというか、面白みであり、魅力だなと。僕はそうではないので。
そうなのですか?
エンタメ、好きなんですけど、僕自身はエンタメじゃない部分も、良くも悪くも山ほど持ってしまっていて。鈴くんはすごくエンタメだし、ずーっと「陽」の空気をまとっているといいますか。

けっこう大変なはずなんですよね。声優として、アーティストとして、ラジオのパーソナリティとして、あれだけの仕事をしながら『AD-LIVE』を続けている。企画、キャスティング、プロット作り、深夜までミーティングして、事前の準備をほとんどやって。

今回の映画でもそういう姿に密着していますが、カメラを回していると、「あ、今ちょっとキツイのかな」って瞬間もあるんです。

それでも明るい。そこが鈴くんらしいなあ、って。そのパワーが、多くのキャストやスタッフを巻き込んでいくんですよね。

今回の映画は、いかに“エンターテインメント”できるかが勝負

ほかに、密着していて印象的だった姿は?
2017年の『AD-LIVE』は、鈴くん自ら「公演ごとにすべて世界観・シナリオが違う」というハードルの上げ方をしていたので、構成台本を1本ずつ作っていくのが大変そうでしたね。

すごく手が込んでいるなと思ったのが、構成台本を事前に実験していたんです。本番のキャストではなく、“彩−LIVE”(イロドリブ)と呼ばれる本番公演にも出演しているサポートキャストなどが集まって、鈴くんや演出部の川尻(恵太)さん、浅沼(晋太郎)くんも含めていろいろと試して、プロットを練り直す作業をしていました。
演劇公演を作るような準備を?
演劇よりも怖いだろうと思います。『AD-LIVE』は、本番でどこに向かっていくかわからないので。

鈴くんは、「せっかくお声がけして出演していただくからには、声優さんに火傷をさせてはいけない」という思いが強い。

だから、いかにセーフティネットを張っておくか。演劇なら直径1m圏内にポーンと着地するんですが、『AD-LIVE』では、「せめて直径10m以内には着地できるようにしておこう」みたいな。もし本番でそこから大きく外れたとしても、それはそれで面白いよね、と楽しめるように。そういうところに、かなり神経を注いでいると思います。
本番で、アドリブワードを物語のオチにするキャストさんもいらっしゃいますが……。
あれは勇者です(笑)。
(笑)。津田さんはやらないですか?
ふふ。やらないですね。もちろん、「これはアドリブワードで締めたほうがいい流れだな」って場合もありますけどね。引いたワードがどっちに転んでも成立するケースで。でも基本的に、最後の最後でアドリブワードを引く人は、勇者です。
津田さんご自身は、『AD-LIVE』に限らず、事前にしっかり準備して臨むタイプですか?
いや、本来は勢いでやりたいタイプです(笑)。なかなかそういうチャンスってないですが。
撮影した素材の中で、印象的だったシーンはありますか?
映画については劇場でのお楽しみにしたいのですが、『MATSU-LIVE』のときはフックになる場面がうまく見つかって、それがすごく明るいシーンでしたね。
どんなシーンでしょうか?
2016年公演の大千秋楽のあとに、最終日の出演者だった浅沼くん、下野(紘)くん、鈴くんの3人が楽屋打ち上げをしていたんですよ。そこで、最後にアドリブワードを引いてもらったんです。

そうしたら、「ピーヒャラドンドン」というワードが出て(笑)。鈴くんが引いたワードでしたね。で、3人がスゴいテンションで「ピーヒャラドンドン、ピーヒャラドンドン」って盛り上がってるから、「これはエンディングに使える画が撮れたな!」って。

タイトルの『MATSU-LIVE』はそこからきました。「そうか、『AD-LIVE』はお祭りなんだな!」と。本番でうまくいくかどうかはわからないけど、みんなでワッショイワッショイやっていこうぜ!っていう。
今回の映画のタイトル“ドキュメンターテイメント”は津田さんが考えたのですか?
はい。世の中にはさまざまなドキュメントがありますが、今回はいかにエンターテインメントできるかが勝負だなと思って。アート作品ではなく。

それと、『AD-LIVE』そのものを表現しているタイトルでもあります。『AD-LIVE』の劇構造自体がドキュメントを生み出しますよね。アドリブワードを引く瞬間もそうですし、予想外のハプニングが起こった瞬間もそうですし。同時に、アドリブワードからたくさんの笑いが生まれるエンターテインメントでもある。

本来の映画好きの僕だったらこういうテイストにするだろうな、っていうぜんぜん別のベクトルもあるんですけど、今回の映画に関しては、その引き出しは閉じてあります。

思春期に感じた居場所のなさ。でも映画館は居心地が良かった

その津田さんご自身の“映画観”も伺っていきたいのですが……。
そうですね……好きな映画とか影響を受けた映画って、お答えするのがすごく難しいんです。たくさんありますし、タイミングによって変わってきたりしますしね。

僕は本当にノンジャンルです。サスペンスだったらこれ、コメディだったらこれ、ってどれも甲乙付けがたくて。「ホラーはあまり観ないんです」と言いながら、キューブリックの『シャイニング』はすごく好きだったり。『シャイニング』はホラーというのか人間ドラマというのか難しいですけれども。
映画の存在があったから、役者への道を進んだんですよね?
そうです。
そもそも、なぜ映画少年になったのでしょうか?
僕、幼稚園くらいの頃にインドネシアにいたんです。兄はプール、僕は映画館によく行っていた。その頃から、なぜか映画を観たがったんです。たまに日本のヒーロー映画なんかも上映されていたんですよ。
日本に帰ってきたのはいつ頃ですか?
小学3年生くらいでした。家が大阪の難波の近くだったので、映画館が近かったことと、叔父のおかげで株主優待の映画チケットがよく手に入ったんです。子どもからすれば、やったー!って感じですよね(笑)。日本でもよく映画館に行っていました。

学生時代だったかな、名画座(旧作をメインに上映する映画館の総称)というものに目覚めまして。当時、戎橋のたもとにあった名画座が好きでしたね。あと梅田にも名画座がありました。

「チャップリン特集」や「オードリー・ヘプバーン特集」とか、『エデンの東』(1955年公開のアメリカ映画)とか、古い映画をたくさん観るようになって。なぜだか心地良かったんです。
そうだったんですね。
その後、ようやく大阪にミニシアターが登場しまして。名画座とはまた違った、ヨーロッパやアメリカの前衛的な映画に傾倒しました。

当時は、ジム・ジャームッシュやスパイク・リーなんかがセンセーショナルなデビューをした頃だったんです。そうですね、作品名を挙げるとすれば、ジム・ジャームッシュの『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1984年製作のアメリカ映画)。

今でもとても好きな映画です。大事件もドラマも、何も起きないんですよ。ふたりの男の元に従姉妹が遊びに来て、3人でただフラフラしているだけ。モノクロの、淡々とした日常のスケッチ。でも、あまりにも強いインパクトがあって。「これ、めっちゃカッコいい……」と衝撃を受けました。なんだ、この人たちは?って。

『田舎の日曜日』(1984年製作のフランス映画)なんかも、「え、これで終わり?」っていう内容なんですけど、フランスの田舎の美しい風景が脳裏に焼き付いていて。誰も死なないし、誰も喧嘩しないし、でも、すごくいい映画。ほかにも、かなりぶっ飛んでいる作品がいろいろとありましたね。
そういった映画が津田さんにフィットしたのは、なぜだったのでしょうか?
とくに思春期の頃なんか、世の中が「いい」と言うものが、周囲で流行っているものが、なぜ自分はいいと思えないんだろう、と感じることがあって。

でもそういう感覚も、映画館に行くと落ち着くといいますか。映画館では、自分よりはるかに吹っ切れた感性を堂々と世の中に投げている人たちがいる。「こういう人たちもいるんだな」と思うと、救われるといいますか、勇気が湧くといいますか。
そういう体験が今に繋がっていますか?
そうですね、自分と世の中のリンクが難しかった時期に、映画が自分と世界の橋渡しをしてくれた。じゃあ僕らの言語は何かっていうと、やっぱり、「表現が言語になっていく」という感覚が今もあるんです。

お芝居に限らず、僕らの表現が誰かの橋渡しになっていくように、世の中とリンクしていけるように、アニメでも、映画でも、舞台でも、全力を尽くして表現していきたいなと思います。なんだか、曖昧でごめんなさい。
いえ、今もそう感じていらっしゃるんですね。
僕の肉体と感性を通してさらに面白くして、観てくださるみなさまにお伝えしていけたらと思います。
最後に、かつての津田さんのように思春期にある10代の方に、映画をオススメするならば?
10代の方たちに? それは責任が重いですね。……うーん、僕も19歳くらいのときに観たのかな? 『台風クラブ』(1985年公開)という相米慎二監督の映画があるんです。先ほどのヨーロッパ映画のように一見して理解しがたい内容ですが、そこに、中学生が抱えている不安定さみたいなものが色濃く出ていて。その感覚がすごくリアル。

あと、チャップリン! チャップリン、とてもいいですよ。喜劇王といわれるのがよくわかりますし、チャップリンは踏んでおいて損はないと思います。『街の灯』か『モダン・タイムス』あたり、どうでしょうか。モノクロでセリフがないからとっつきにくいと感じるかもしれませんが、だまされたと思ってぜひ観てほしいですね。
津田健次郎(つだ・けんじろう)
6月11日生まれ。大阪府出身。O型。主な出演作に、『遊☆戯☆王デュエルモンスターズ』(海馬瀬人)、『テニスの王子様』シリーズ(乾 貞治)、『ACCA13区監察課』(ニーノ)、『ルパン三世 PART5』(アルベール・ダンドレジー)、『ゴールデンカムイ』(尾形百之助)、『スター・ウォーズ』シリーズ(カイロ・レン)、『ブラックパンサー』(エリック・キルモンガー)ほか。

出演作品

映画『ドキュメンターテイメント AD-LIVE』
2019年2月2日(土)より劇場公開
https://ad-live-project.com/documentertainment/
監督・脚本:津田健次郎
主演:鈴村健一
出演:てらそままさき、鳥海浩輔、中村悠一、関 智一、羽多野 渉、豊永利行、
森久保祥太郎、高垣彩陽、津田健次郎、蒼井翔太、浅沼晋太郎、ほか。
主題歌:鈴村健一『たのしいのうた』(ランティス)
制作プロダクション:祭
製作:AD-LIVE Project
©AD-LIVE Project

サイン入りポラプレゼント

今回インタビューをさせていただいた、津田健次郎さんのサイン入りポラを抽選で3名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
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受付期間
2019年1月30日(水)12:00〜2月5日(火)12:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/2月6日(水)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから2月6日(水)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき2月9日(土)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
キャンペーン規約
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  • 賞品発送先は日本国内のみです。
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