「東大生の頭の良さは、本の読み方によってつくられている」。現役東大生ライターの西岡壱誠さんはそう言う。難しい参考書を使うのではなく、基本の教科書を何度も読み込む。そのとき「面白く読む方法」を工夫することで、「思考力」を鍛えるのだ。偏差値35から読書習慣の改善で東大に合格した西岡さんが、自身の体験談と周囲の声を紹介する――。

※本稿は、西岡壱誠『東大生の本棚』(日本能率協会マネジメントセンター)の一部を再編集したものです。

東大に合格するような若者たちは、「地頭を良くする」ような読書週間を身につけている(写真=iStock.com/wnmkm)

■東大生のユニークな読書習慣

「東大生の読書習慣って、やっぱり特殊だ!」。そう気がついたのは、元偏差値35の僕が東大に合格し、東大の書評誌『ひろば』の編集長として活動し始めてからです。ある日、一緒に本の書評を書く読書家の東大生5人程度に、「みんなどうやって本を読んでいるの?」と聞いてみました。そこで出てきた回答が、どれも特殊でおもしろかったのです。たとえば……

「5回くらい読み直すのはザラだよね」
「やっぱり感想か書評を書かないと読んだ気にならないよね」
「同時並行で何冊か読むかな」

などなど、どの東大生の読書習慣もとてもユニーク。そのうえ、すごく納得感がある読書でした。

はじめは「なんでそんな読み方を?」と感じた習慣も、よく聞くと「たしかにそれはいいな」と思わされるような部分が多かったのです。そして、「僕も、昔はそんな読み方してなかったけど、今はそういう読み方しているな」と感じるような読書法が非常に多くありました。

僕は元々偏差値が35しかなくて、どんなに勉強しても成績が上がらないと嘆いていた人間です。そんな僕が東大に合格できたのは、本の読み方や文章の読解を徹底的に改善させたから。読んでも自分の知識にならず、成績が上がらないような読書をしていた自分が、読んだ内容をきちんと自分のものにして自分の頭で考える思考力を鍛える読書をするようになって、東大に合格することが可能になったのです。

そんな、「ダメな読書」から「効果のある読書」に変えた経験がある自分だからこそ、東大生の読書習慣には効果的な読書のためのポイントが多く含まれていることに気がつきました。

「東大生の読書習慣を、つまり『東大生の本棚』を、徹底的に分析して1冊の本にまとめたら、誰もが自分の頭が良くなる読書ができるようになるんじゃないか?」。そう考えた僕は、東大生の読書習慣の調査を始めました。

■読書の効果は、やはり絶大

調査の中でわかったのは、「東大生の頭の良さは、本の読み方によってつくられている」ということでした。「そんなバカな、本を読まない東大生だっているんじゃないのか?」と思う人もいるかもしれませんが、違うんです。本は本でも、教科書の読み方からして全然違うんです。

あまり知られていないことですが、東大は「入学試験では、教科書に書いてある以上の知識は出さないよ」と表明しています。ですので、入試には重箱の隅をつつくような問題は一切出されません。教科書に書いてある内容を、いかに噛み砕いて説明するかを問うなど「教科書をしっかり読み込めば答えられるような問題」が出されています。つまり、「1冊の教科書から、どれくらい多くのことを学んだか」で東大の合否が決まるのです。

そのうえ、東大生は読書法の工夫で「思考力」も鍛えています。「自分の頭で考えて、自分の地頭を鍛えるような読書」をしている。ただ受動的に「へーなるほどー」と読むのではなく、能動的に「これってどうしてなんだろう?」「この内容って、あの本で言っていたことと同じかな?」などと、さまざまなことを考えながら読む。しかもそれを、小さい頃から実践しているのです。

■「もっと楽しく読む」ために工夫する

「東大生は、生まれた時から頭がいい」「凡人は絶対に東大に入れない」そう考えている人、多いのではないでしょうか。でも、ここではっきり否定させていただきます。そんなことはないです。だって元偏差値35でどんなに勉強しても成績が上がらなかった僕でも、本の読み方を改善することで東大に合格できたのですから。

「東大生の読書ってハードルの高いものなのでは……」と不安に思う方もいるかもしれません。そういう方には、東大生が本を読む時に一番大切にしていることをご紹介させてください。

それは、「楽しむこと」です。

東大生は何も、「頭が良くなりたい!」と思って本を読むわけではありません。「この本おもしろそうだな」「この本をもっとおもしろくするために、ここを意識して読んでみよう」と、楽しみたいから読書をして、楽しみたいから読書に一手間加えるのです。そこからスタートしているからこそ、読書を続けられるのです。

東大式「読んで終わり」にしない本の読み方

「東大生はどうして読んだ内容を忘れずに活用できるのか?」

僕にとって、ずっとこのことが疑問でした。

読んだ内容を覚えていて、活用できるようにし続けるというのは、なかなかできることではありません。みなさんの中にも、「せっかく読んだ本も、すぐに内容を忘れてしまう」とお悩みの方がいらっしゃるのではないでしょうか?

結論から言うと、東大生の読書にはある法則があります。小さい頃から「それ」をしており、だから東大生は読んだ内容を忘れにくく、また本から得た知識を活用できるのです。

「それ」は何かと言うと――「感想」です。東大生は、本を読んだ後、「感想」をアウトプットするから忘れないのです。

東大生は、めちゃくちゃ感想が好きです。授業で「読んできた本の感想と考察を言い合う」なんてものがあるくらい、感想を共有するのが好きですし、読んだ本の解釈を他人と共有したり、ディスカッションしたりするのが非常に楽しいと考える学生はとても多いです。

移動中だろうが合コンだろうが、どんな状況でも本の解釈で盛り上がるのです。たとえば、僕は最近だと、友人と宮部みゆきの『火車』のラストの解釈で大変盛り上がりました。

映画でもドラマでもなんでも、他人と感想を共有したものをよく覚えているという経験、みなさんにもありませんか? 本においても同じことが言えるのです。自分の言葉で自分の感想を表現し、それに対して他人から意見をもらったり、他人の感想も聞いてみたりする。そうやって読んで得た情報を形にして外に出してみる――つまり、「インプット」した内容を「アウトプット」するという過程があると忘れにくいのです。

■アウトプットすると記憶に残りやすい

感想などの「アウトプット」には、ふたつの効果があります。

まずは、「感情がはっきりする」という効果です。私は東大生への取材から、「感情を動かされた本の内容は覚えている」ことに気づきましたが、一方で、「感情が大きく動かされないと本の内容を忘れてしまう」ということにもなりかねません。それを防いでくれるのが「感想」です。

どんな本でも、内容が理解できていればなんらかの感情が発生しているはずです。重要なのは、その感情を自分の中で言語化するという行為です。「どう感情が動いたのかを言葉にしよう」とすると、自分がその本に対してどう感じたのかが理解できるようになります。「ああ、言葉にしてはじめてわかったけれど、自分はこの本に対してこう考えていたのか」と発見することも可能になります。そうなれば、記憶として定着することにつながるのです。

■「感想」は受け身から脱け出す第一歩

「感想」をはじめとしたアウトプットのもうひとつの効果は、「受け身からの脱却」です。

西岡壱誠(著)『東大生の本棚 「読解力」と「思考力」を鍛える本の読み方・選び方』(日本能率協会マネジメントセンター)

本を読んでいると、どうしても「受動的」になってしまいがちです。書いてある内容をそのまま呑み込み、疑うこともなく淡々と読み進めてしまう。“事実らしきもの”として書かれていることを「へえ、そういうこともあるのか」と、なんとなく情報としてしか処理しないことが多いわけです。

でも、残念ながら、それはあまり効果的な読み方とは言えません。受け身の読み方では、記憶に残らないからです。

淡々と読み進めるのではなく、「これって本当なのか?」「たしかにそうだ!」「これはすごいな!」など、内容を自分の中で噛み砕いて、「情報」を「知識」に変換することをしなければ、受け身の読書から脱け出すことはできません。

そんな受け身から脱却する一歩となるのが「感想」なのです。

本に対して思ったこと、考えたことを言葉にして、他人に言える状態にするというのは、内容を自分で噛み砕く「能動的な」行為です。「後から感想を言おう」と考えるだけで、「もっとちゃんと読まなければ!」と受動的な読書から脱却することにつながります。

■本の感想を言う「場」をつくろう

「感想」を他人と共有し合うことには多大な効果があります。他人と感想を言い合うことが前提にあると、読みながらこんなことを思うのではないでしょうか。

このシーンについて、ぜひ解釈や感想を言い合いたい!
ここについて、あの人はどんな感想を抱くんだろう?

本を読む時に気になる点が多く現れてくるようになるのは、受け身の読書から記憶に残りやすい能動的な読書へと移行した証です。また、「口に出して誰かに聞いてもらう」「それに対してフィードバックしてもらえる」というのは、なかなか楽しい経験です。「感想」を言い合うこと自体が楽しい行為だからこそ、記憶にも残りやすいわけです。

僕がオススメしたいのは、本をコミュニケーションの題材のひとつにすること。友だちや家族と、感想を共有し合えるような本をみんなで読んで、その本について語り合ってみてはいかがでしょうか?

多くの東大生が、そういう「本の感想を言い合う場」が中高時代にあって本当に良かったと語っていました。みなさんもぜひ、本を題材に家族や友だちと語り合ってみてください!

----------

西岡壱誠(にしおか いっせい)
現役東大生ライター
1996年生まれ。歴代東大合格者ゼロの無名校から東大受験を決意。2浪が決まった崖っぷちの状況で「『読む力』と『地頭力』を身につける読み方」を実践。東大模試全国第4位を獲得し、東大にも無事に合格した。現在は家庭教師として教え子に読み方をレクチャーする傍ら、学内書評誌「ひろば」の編集長を務める。著書に『現役東大生が教える「ゲーム式」暗記術』『読むだけで点数が上がる!東大生が教えるずるいテスト術』など。

----------

(現役東大生ライター 西岡 壱誠 写真=iStock.com)