訪日外国人が目当てにするお店のひとつです(撮影:今井 康一)

日本にやってくる外国人旅行者は2017年に2869万人を超えた。そして「その大半が」ドン・キホーテにやってきて買い物をする。なぜ、日本にやって来た外国人は、ドンキを目指すのか? そこで買い物をしたがるのか? その意外な理由を『ドン・キホーテだけが、なぜ強いのか?』の著者、坂口孝則が明かす。

地道な努力で実現したインバウンドの成功

観光地に近いドン・キホーテに入れば、店内放送の「バラエティの豊かさ」に驚きます。日本語、英語はもちろん、中国語、韓国語、そしてタイ語まで流れています。

さて、外国人訪問客が手に取る商品は一体何でしょうか?

観察していると、観光地名の大きく入ったお菓子や、あるいは蒟蒻ゼリーだとか、または日本のキャラクターグッズだとかを物色している光景が見えます。しかし、さらに観察していると、日本人が購入している商品を、外国人も購入しています。

おそらくSNSなどの宣伝効果があるからでしょう。お土産の場合、自分のためではないとはいえ、彼ら・彼女らは、「日本」を消費しているようです。

以前、ドン・キホーテの担当者に「観光客相手にも販売しているドン・キホーテが、なぜ外国語表記のPB商品を作らないのですか? 仕入れないのですか?」と質問したことがあります。答えは、「むしろ外国語表記のものは売れません」でした。あくまでも日本の商品がほしくてやってきているのに、母国語が書かれていたら興ざめだ、というわけですね。

数年前から、小売店はインバウンド(訪日外国人旅行)頼みの状況が続いています。

日本にやってくる外国人旅行者は、きっと日本の文化のひとつとして、ドン・キホーテを”消費”しているはずです。

このインバウンド、国別ではどこが多いでしょうか。ドン・キホーテの客数でいえば、韓国、中国、台湾がトップ3です。面白いのは、売上高で見ると中国、韓国、台湾、とトップが入れ替わっています。

日本といえば製造業=ものづくり、のイメージがあり、自動車や電化製品を思い浮かべます。ただ、ドン・キホーテで売れているものは、圧倒的に日用雑貨です。次に、時計・ファッションと続きます。このなかには、むしろ、中国で生産されているものもあるくらいで、興味深い現象です。

ドン・キホーテの店舗で、免税品の売上構成率が第1位の(つまり外国人観光客の購入が最も多い)大阪の道頓堀御堂筋店を見てみると、比較的、ドン・キホーテのなかでは王道のつくりです。

ただ、やはり外国人対応のため、POPは英語、韓国語、中国語が目立ちます。家電のコーナーには、各国の電気プラグ対応表まで掲示されています。

1階には、キットカットなど、日本のお土産として鉄板のお菓子が並びます。18禁ののれんからは、意味がわからず入ってしまった外国人女性が赤面して出てくるなど、微笑ましい光景も見られます。

しかし、日本人のお客を笑わせる努力もなされています。たとえば、エスカレーターを昇ると、「赤字覚悟」という四字熟語(?)の隣に、「焼肉定食」という四字熟語(?)が無意味に表示されていました。外国人旅行者にとっては記号にしか見えないはずで、半ばギャグでしかけたものでしょう。

いまでは、外国人観光客の名所となったドン・キホーテですが、そのインバウンド獲得の取り組みは、一朝一夕ではありません。地道な広報活動を繰り返していた努力の企業でもあります。毎年のように着々と宣伝活動をやっているし、多言語化への取り組みも怠っていません。また、2005年に安田奨学財団を設立し就学支援なども行っています。

アジアの旅行代理店に出向いては、銀聯(ぎんれん)カードが使えたり、免税店を持っていたりする利点を伝え、必死に売り込む活動を続けています。また、「ようこそ!カード」を業界他社に先んじて作りました。訪日外国人客が、カード加盟店でポイントを貯めたり、あるいは現金化できたりする仕組みです。

さらには多通貨での支払いを可能としています。すべての店舗で免税手続きが可能なほか、Wi-Fiも利用可能です。また、ドン・キホーテは訪日客のために、一部の店舗で空港まで配送するサービスを展開しています。

この点はさすがです。買いやすさが売り上げアップにつながると理解しているのです。

外国人旅行者の買い物の特徴は?

先ほど、外国人旅行者も、日本人と同じようなものを買うと述べました。ただ、やはり外国人旅行者の特徴はあります。

そこに目を付けたドン・キホーテは外国人旅行者に訴求する化粧品や医薬品を充実させています。日本人にはなかなか理解できませんが、たとえば中国では農村部で病院が不足しています。都会の総合病院は並ぶのに時間がかかります。さらに治療に多額な費用がかかるとあって、医薬品の需要が高いわけです。くわえて「日本の薬は安全で、さらによく効く」とみなされています。

医薬品以外でも、私が取材した際には、渋谷本店では、外国人が買いたくなるお土産を徹底的に調査しており、蒟蒻ゼリーを大々的に展開していました。くわえて、免税の買い物を事前に予約できるサービスまで展開しています。


さらにドン・キホーテは、最後の最後までお客の心をくすぐります。ひとつのエンターテイメント場としても機能しているドンキは、旅行中にあまった小銭を使わせるUFOキャッチャーを設置するなど、細部までぬかりがありません。

日本を訪れる外国人旅行者の「大半がドン・キホーテにやってくる」。

これは多種多様な商品を、店内にぎっしり詰め込み、あの独特の雰囲気を作り出しているドンキが、物珍しいからだけではありません。

彼らが、インバウンド獲得のためにあらゆる手を打った努力の結果なのです。