アメリカ各州やカナダマリファナ大麻)合法化に伴い、マリファナ料理番組が続々とスタート。人気を集めている。

例えば、TVネットワークVicelandの『Bong Appetit』は、この手の内容で人気No.1を誇る番組。昨年、料理界で最も権威のあるジェームズ・ビアード財団賞にもノミネートされた。第1、第2シーズンで描かれるのは、地元の食材を調達する夢のようなひとときや、マリファナ風味の香りを油脂に閉じ込めるためのワンポイントアドバイス。そして毎回必ず最後には、節度を知らない愛好家たちが集う陽気なディナーパーティで幕を閉じる(筆者も去年の夏に放送されたエピソードに出演し、身をもって体験した)。

「ハイになっても、TV的にはウケるのよ」というのは、番組の司会を務めるマリファナ・ショコラティエこと、ヴァネッサ・ラヴォラート。彼女はこの夏、『Bong Appetit』の収録が始まる前に、オンエア中にハイになっても大丈夫なようにと少しずつ食用マリファナの免疫をつけていったという。だが結局、そんな努力もすべて水の泡となった。「ごまかせっこないのよ。本気でカメラの前でハイになっちゃうんだから。視聴者が面白がってくれればいいけど」

番組は年明けに第3シーズンを迎える。新シーズンではバトル形式に生まれ変わるほか、新メンバーとしてサイプレス・ヒルのB・リアルと、マリファナ使いの鉄人シェフ、ミゲル・トリニダードが加入する。彼が提供するフィリピン風ハッパ入りディナーは、ニューヨーカー誌でも特集された。

流れに乗り遅れまいと、Netflixもこの夏オリジナルのマリファナ料理番組を立ち上げた。題して『クッキング・ハイ: マリファナ料理対決』。2人のシェフが互いに腕をふるって魅惑の大麻メニューをこしらえ、審査員が勝敗を判定する。合間に、マリファナを愛する人気コメディアンNgaio Bealumのワンポイント豆知識が挿入される。批評家からの反応はいまひとつだが、番組に出演したシェフや有名人の中には、スターダムへの足掛かりを見つけた者もいる。中でも際立っているのが、アンドレア・ドラマー。彼女はほっぺたが落ちそうなタラのサンドイッチで、第1話の勝者に輝いた。コルドンブルーで修業を積み、麻薬予防カウンセラーとして働いた後、5年前からマリファナ料理に目覚めたというユニークな経歴の持ち主だ。

それでもマリファナシェフを求める世間の声は、マリファナそのものの需要と同じように、意思決定における保守的な考え方の2歩も3歩も先を行ってしまっているらしい。大手Food Networkや他の大手TVネットワークは、連邦法では違法とみなされる薬物の料理を扱う番組には今のところ手を出していない。したがって、マリファナ料理界のレイチェル・レイ的カリスマシェフの到来は、従来のTV以外の場所で起きる可能性が高い。カリフォルニアの新規プラットフォームProhbtd Mediaでは、『Pot Pie』と題したマリファナ専用料理のWEBシリーズを製作している。司会を務めるのは魅力的なブランディン・ラシェイ。「デジタルメディアを持ってるってことが最近のトレンドなのよ」と言う彼女は、次のシーズンで特製料理を披露する予定。「大手ネットワークではありえない自由が、ここにはあるの」

駆け出しのマリファナ料理人にとって、多くのケーブル局から門前払いを食らうことは不満のタネだ。

「たいていTVの人間は、取ってつけたようにこう言うんだ。『あなたのことは気に入ったわ、コンセプトもいいと思う。ただ、うちでは早すぎるの』」と言うレザー・ストーズ。オレゴン州ポートランドでNoble Rotというレストランを経営する彼は、旅行メインのマリファナ料理番組をやりたいと考えている。言ってみれば、アンソニー・ボーデンの番組『No Reservation』のマリファナ版だ。「人々の芽は国内に向いているみたいだけど、沿岸地域に住んでると見方が違うんだよね」。放送が始まったばかりの『Bong Appetit』に出演したことのあるストーズは、次の第3シーズンにも出演する予定。だが、WEB番組やお蔵入りになったパイロット版にも何度となく出演してきた。彼の遊び心あふれる野菜中心のマリファナ・コースは、タイのトムカーガイ・スープでスタート。子ども用シリアルに似せた盛り付けで、ハート型に切り抜いたラディッシュに、紫キャベツでできたダイヤモンドが、ココナッツミルクベースのスープに浮かんでいる。

もしトランプ大統領から学べることがあるとしたら、TVのリアリティ番組で魅力的に見えたものが必ずしも実生活でもそうだとは限らない、ということだ。本格マリファナ・フルコースを提供するレストランは、合法化されている州でも見当たらない。マリファナ風味のレアチーズを作るテクニックは、家庭の主婦、それもパンを焼く前に自分がやけどしてしまうような素人シェフには手が込み過ぎている。さらに言えば、マリファナディナー・パーティで1人当たりの服用量を守ることなどほぼ不可能。1回のディナーで使用するマリファナは、いつもの10〜20倍もの量になる。おそらくだからこそ、実際に作って食べるよりも、マリファナ・フルコースの行程をTV番組で見るほうが面白いのだろう。「番組じゃなかったら、ハイになるのにこんな方法は選ばないわよ」とラヴォラートも言う。「ハッパは吸うに限るわ」