by Melissa Askew

レーザーを照射することで従来の縫合や接着剤の使用よりも素早くかつ強固に傷をふさぐことが可能となる技術が誕生しました。この技術はアリゾナ州立大学のコーシャル・リージ氏らが開発中のもので、シルクタンパク質と金のナノ粒子を含む素材を、レーザーで傷部分と結合させるというもので、従来よりもはるかに効率的に傷口をふさぐことが可能というものです。

Rapid Soft Tissue Approximation and Repair Using Laser‐Activated Silk Nanosealants - Urie - 2018 - Advanced Functional Materials - Wiley Online Library

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/pdf/10.1002/adfm.201802874

Star Trek-like Tech Seals Wounds with a Laser - IEEE Spectrum

https://spectrum.ieee.org/the-human-os/biomedical/devices/star-treklike-tech-seals-wounds-with-a-laser

リージ氏らによるレーザーを用いた傷口をふさぐ技術は、記事作成時点ではあくまで概念実証の段階にあるものの、驚くべき効果を発揮しています。実験では「豚の腸」および「マウスの皮膚」にある軟組織創傷を素早くふさぐことに成功しており、例えば豚の腸の場合、従来の縫合よりもレーザーを用いた縫合の方が約7倍も強力に傷をふさぐことが可能で、さらにふさいだ部位は傷を負っていない部位と同じように機能することも明らかになっています。

以下の図は左から「従来の針を用いた傷の縫合」「従来の接着剤を用いた傷の接合」「レーザーを用いた傷をふさぐ方法」による、傷をふさいだ跡の写真および、術後の2日後の写真です。画像の通り、傷をふさいだ際の見た目は接着剤や縫合と同じくらい目立たず、それでいて傷をつなぎ合わせる力は約7倍も強いとのこと。



公表された論文の共同著者であるディーパンジャン・ゴーシュ氏は、「我々は切開部をより早く閉じ、早期に治癒したいと考えています」と語っています。

レーザーを用いて傷をふさぐには、まずカイコの繭(まゆ)から精製したシルクタンパク質を原材料とする母材を用意します。「フィブロイン」と呼ばれるシルクタンパク質には、ヒトの皮膚細胞を保持するタンパク質の一種であるコラーゲンと結合する性質があるため、傷をふさぐために使用されているわけ。このフィブロインに金のナノ粒子を埋め込んだもので傷を覆い、ここに近赤外線レーザーを照射します。すると、フィブロインの中にある金のナノ粒子が発熱し、フィブロインと肌を活性化させて結合させることができるとのこと。つまり、金ナノ粒子とフィブロインで作った素材を傷の密封剤とし、レーザーでこれを傷部分と結合させるわけです。なお、傷口に照射する近赤外線レーザーは約800ナノメートルほどの波長のものでOKなため、皮膚を損傷する心配はなく、それでいてフィブロイン中の金ナノ粒子を加熱するには十分に強力なものとなります。

次に、研究チームはフィブロインと金ナノ粒子を用いて水溶性の密封剤を作り、マウスの皮膚で実験を行いました。実験では1cmの切開部にこの密封剤を塗布したそうで、その結果、塗布から2日後まで縫合または皮膚用接着剤よりも高い強度を示したそうです。加えて、レーザーを用いた施術自体はわずか4分ほどしか必要としないため、素早く適切な処置が簡単に行えるという利点も明らかになっています。さらに、実験でレーザー治療した豚の腸は、傷を負っていない他の部位と同じように正常に機能したそうです。



by Josh Riemer

レーザーとして用いる近赤外線光は体組織の深くまで浸透するため、研究チームは体の奥にあり修復に時間がかかる血管や神経組織の結合および修復にこのレーザーを用いた傷をふさぐ技術を活用できるのではと考えているそうです。また、「神経や血管といったサイズの縫合は、十分に訓練された外科医にとっても大変な労力を要する作業です」とゴーシュ氏が語る通り、熟練の医師であっても体の深部にある小さな傷を縫合するのは難しいため、レーザーを用いた傷をふさぐ技術は医療界に大きな恩恵をもたらす可能性があります。

また、ゴーシュ氏によるとフィブロインと金ナノ粒子を用いた密封剤のコストは法外に高価なものにはならないとのことで、メディカルセンターにとって許容できる範囲内に収めることが可能だそうです。

なお、研究チームは生きたマウスにレーザーを用いた傷をふさぐ技術を施し、経過を観察しているとのこと。この実験がうまくいけば、次は豚を対象に実験が行われ、最終的にヒトでの臨床試験まで到達することとなります。