7年前、謎の死を遂げたレベッカ・ザハウさん(写真:フジテレビ)

「私たちは妹が殺されたことを証明するために闘わなければなりませんでした。あの一族にとっては自殺のほうが都合良かったのかもしれません……」

2018年4月、アメリカのカリフォルニア州サンディエゴ郡裁判所で裁判に勝訴した1人の女性が、目に涙を浮かべていた。


遺体の両手両足は真っ赤なロープでくくられていた(写真:フジテレビ)

今から7年前、サンディエゴ郊外の高級住宅街でアメリカ犯罪史上まれに見る奇妙な遺体が発見された。豪邸の中庭に横たわった女性の全裸遺体、両手両足は真っ赤なロープで縛られ、首も窒息死の原因となった赤いロープでくくられていた。被害者の名はレベッカ・ザハウ、豪邸の持ち主である大手製薬会社社長の恋人だった。

セレブ一家に起きた相次ぐ不審死、呪われた豪邸から全米メディアが連日、猟奇殺人事件の可能性を生中継で報じた。しかし、地元保安官の判断はなぜか自殺、そして捜査は終了した。   

死亡したレベッカの姉・メアリーを単独取材

この結果に納得できなかったのが、被害女性の姉メアリー・ザハウ。謎の死を遂げた妹の無念を晴らすために独自に調査を続けて、愛する妹を殺害したと思われる疑惑の人物を7年かけて突き止めた。フジテレビ「世界法廷ミステリー10〜死者からのメッセージ〜」(10月27日(土)夜9時から放送)取材班は、日本のメディアで初めて彼女の単独インタビューに成功、華麗なる一族が抱えていた闇と謎に満ちた事件の真相に迫った。

メアリーとレベッカの姉妹はミャンマーからの移民だった。故郷での貧しい生活から抜け出すために家族と共にアメリカに移住、レベッカは病院で働き始めた。そこで彼女は運命の出会いを果たす。患者として通院していたジョナ・シャクナイ。大手製薬会社の社長で、前妻と離婚後、6歳の息子マックスと暮らしていた。

ジョナと交際を始めたレベッカは、彼の自宅で息子と3人で暮らすようになり、結婚に向けての準備も進めていたという。貧しい移民からのシンデレラストーリー、しかし姉のメアリーは言い知れない不安を感じていた。「彼はお金持ちすぎてお似合いには思えない、うまく行くわけがない……」

その日の朝、ジョナの弟で船乗りのアダム・シャクナイは、20世紀初頭に建てられた27部屋もある由緒ある邸宅の中庭で、戦慄の光景を目にしたという。兄の恋人レベッカが、彼女の寝室のバルコニーから全裸で首を吊っていた。赤いロープで両手を後ろ手に、両足も縛られていた。ベッドの脚から窓を越えて首にかけられたロープをナイフで切って彼女を庭におろし、必死に心臓マッサージをした。その時の様子は警察への通報音声に残されている。

そして駆けつけた保安官たちは寝室で、キッチンナイフやペンキのついた筆と共に、部屋の扉に不可解なメッセージを目にした。

「彼女は彼を救った。あなたは彼女を救えるか」

「彼女」とは? 「彼」とは? 「あなた」とは? そして、このメッセージは誰が一体何のために書いたものなのか?

当初、殺人事件として前日から泊まっていた第一発見者のアダムが疑われたが、嘘発見器にかけた結果、シロと判定された。

そして遺体発見から2カ月、地元の保安官が驚くべき会見を行った。

「レベッカの死は殺人だったのか、その答えは“ノー”です」


レベッカの姉、メアリー・ザハウ。フジテレビ「世界法廷ミステリー10〜死者からのメッセージ〜」は10月27日(土)夜9時から放送です(写真:フジテレビ)

捜査の結果は自殺。理由として、事件現場に残されたあらゆる証拠にレベッカ以外の指紋が検出されなかったことが挙げられた。後ろ手に縛られたことも、被害者自ら縛ることが可能だと実験で立証した。それでは自殺の理由は何なのか?

レベッカ死亡の2日前、恋人ジョナの息子マックスが自宅の階段から転落した。当時一緒にいたレベッカが救命措置を行い、マックスは一命をとりとめたが、事故の6日後に死亡した。彼女はその自責の念から、自らを縛り命を絶ったというのだ。

それでは謎のメッセージは何を意味するのか? その答えを出すことなく捜査は終了した。

姉の独自調査で見つかった「殴られた跡」

その結論にまったく納得いかなかったのがレベッカの姉のメアリーだった。彼女は「自力で調査する、闘い続ける」と宣言、独自で遺体の検死を再び行った。それは墓からの遺体の掘り起こしを伴う肉親にとって辛い作業だった。


現場に残された謎のメッセージ。「彼女は彼を救った。彼は彼女を救えるか?」と記されていた(写真:フジテレビ)

調査の結果、衝撃の事実が明らかになった。頭部に小さな鈍器によって殴られたと思われる傷跡が発見されたのだ。殺人につながる証拠が出てきた。メアリーは敏腕弁護士のキース・グリーアと真犯人を見つけるためにさらに調査を続けた。

浮上した疑惑の人物は3人。1人目はやはり第一発見者のアダム。2人目は恋人のジョナ、彼は恋人の死を悼むことより、自分にアリバイが存在することを主張し続けた。3人目はジョナの前妻ディナ、死亡した息子マックスの実の母親であるディナはマックスの転落事故にかなりの恨みを持ち、レベッカは生前「ティナに殺される」と繰り返し言っていた。

疑惑が浮上した華麗なるセレブ一族。メアリーは地道に証拠を積み重ね、ようやく1人の人物にたどり着いた。そして事件から7年後、刑事事件では裁けないその人物を訴える民事訴訟が始まった。

2018年2月、法廷の被告席に座るその人物を前に、グリーア弁護士はこう問いかけた。

「本当に重要な証拠は、発見されたDNAではなく、『何が発見されなかったか』ということです。すべての証拠に第三者の指紋がなかったんです。」

つまり本来、自殺のロープをナイフで断ち切り、彼女に心臓マッサージを行った人物の指紋が現場に残っていないとおかしいのだ。そう、あるべき証拠を消したと思われる男、アダムがレベッカを殺した人物として法廷で追及された。さらに、遺体の結び方は船乗り特有の縛り方だと判明、謎のメッセージもアダムの筆跡と酷似していると弁護士は主張した。

それではレベッカを殺害する動機はなんだったのか? 実は現場に残された謎のメッセージにアダムの犯行動機が隠されているという。

「彼女は彼を救った。あなたは彼女を救えるか」

この「彼女」とは、レベッカ。そしてレベッカが救った「彼」は、転落直後に救命措置を施して一命をとりとめた息子マックスのこと。それでは「あなた」は誰を指すのか。

アダムはレベッカに好意を持っていた

アダムは、法廷でレベッカに好意を持っていたと証言した。彼女の遺体からは性的暴行の痕跡も発見された。55歳で独身、収入が安定しない船乗りだったアダムは、幼い頃から優秀で大企業の社長となり豪邸に住む兄のジョナに嫉妬し続けていたという。


今回の事件で疑われた人物たち。左からアダムス、ジョナ、ジョナの前妻。フジテレビ「世界法廷ミステリー10〜死者からのメッセージ〜」は10月27日(土)夜9時から放送です(写真:フジテレビ)

「あなた」とは兄ジョナのこと、つまりこのメッセージは「兄貴、お前はレベッカを救えるか」と挑発する目的があったというのだ。レベッカに対する想い、兄に対する複雑なコンプレックスが沸点に達し、アダムは彼女を殺害したと弁護士は主張した。

1カ月半に及ぶ民事裁判の末、陪審員はアダムにレベッカの死に責任があると認め、賠償金500万ドル(約5億6000万円)の支払いを求めた。

ジョナは事件後、製薬会社を売却し26億ドル(約2900億円)を手にし、裁判でも彼女の自殺を主張して弟アダムを支え続けた。そして、裁判終了後も今に至るまで沈黙を続けている。

評決から半年、警察は関係者から事情を聴き始めている。姉メアリーの闘いは刑事事件で真犯人が裁きを受けるまで続いていく。