新人王に輝いた藤井聡太七段(写真:共同通信)

史上最年少プロ棋士の藤井聡太七段(16)は10月17日、新人王戦優勝最年少記録を31年ぶりに塗り替える歴史的快挙を果たした。昨年4月から今年3月にかけて、当時中学3年の藤井聡太さんを担任教師として1年間見てきた名古屋大学教育学部附属中・高校(愛知)の大羽徹教諭が、その素顔を明かす。

名古屋大学教育学部附属中・高等学校は、名古屋大学教育学部の附属学校であり、国立学校では唯一の併設型中高一貫校です。中学校は1学年2クラスの80名、高等学校は1学年3クラスの120名です。

生徒は県内以外に岐阜県、三重県から通っています。中学生にとって、クラスの生徒の出身地区は違います。さまざまな分野で特技を持つ生徒が互いを尊重し、認め合う雰囲気を感じます。

私はこの学校で教師として働いています。そして、昨年4月、中学3年のクラスを受け持つことになりました。そのクラスには藤井聡太君がいました。

クラスメートから祝福を受けてはにかむ藤井君

藤井君はこだわりが強く、自分が納得できないときには、納得いくまでこだわり抜くタイプでした。私が担任になったばかりの昨年4月のことです。藤井君から「なぜ宿題をやる必要があるのか」と聞かれました。藤井君と私は、宿題の意義について30分間話し合いました。

「なぜ、やらないといけないのでしょうか」「宿題も授業のうちに入るのではないでしょうか」と聞く藤井君に、私は「授業の中では理解が十分ではないところもあるので、十分になるように宿題を出している」と説明しました。藤井君は「理解を助ける上で必要」と、宿題の意義を理解してくれました。

藤井君は授業中、最初から最後まで集中していました。謙虚で礼儀正しく、普段の落ち着いた雰囲気が対局にも表れていると感じています。また、鉄道好きで、学校での休み時間は、友人と電車の話題が中心でした。

藤井君の担任をした当初、将棋のことを話したほうがいいのか迷いがありました。しかし、藤井君はそれを望んでいないことを感じました。「校内では対局を忘れ、学校生活を充実してほしい」と思い、クラス全体の一人として接しました。

クラスの生徒も藤井君の気持ちを察し、将棋の話題を控えました。ただ、藤井君が対局で学校を欠席しているとき、クラスの話題の一つは将棋でした。

対局前日に声を掛けると、「ありがとうございます。頑張ります」と笑顔で返してくれました。勝った日の翌日に、クラスメートから「おめでとう!」と言われると、はにかんでいました。至って普通の中学生の反応でした。

藤井君が29連勝して注目されていた中、登校した藤井君が教室に入ると、クラスの生徒全員から「おめでとう!」と拍手が送られました。藤井君は「ありがとう」と照れたような顔でお礼を言っていたのが印象的でした。そして、連勝が途切れたとき、藤井君が教室に入るとクラス全員の生徒から「お疲れさま!」と声が掛けられました。

昨年8月、藤井君がプロ棋士になってからの初めての夏休みとなりました。夏休みは将棋に集中できる期間であったと思います。しかし、夏休みが明け、友人と過ごす中でリフレッシュする大切さを感じたのではないかと思いました。9月3日の第67回NHK杯トーナメント、森内俊之九段との対局における藤井君の表情を見て、そう思いました。

藤井君は中学3年生の総合的な学習の時間である「総合人間科」にとても興味を持っていました。昨年11月には研究旅行で広島を訪問し、「国際理解と平和」をテーマに平和学習を行いました。藤井君も事前学習を行い、研究旅行でフィールドワークを実施しました。対局時と同様に、前のめりになって授業を受けていたのが印象的でした。

研究旅行では、行く先々で藤井君が声を掛けられていました。その中で、学習の場であることに気を使っていただいた方も見えました。広島市から忠海駅に向かうバスの中では、途中、JR呉線と並走し、鉄道の話題で藤井君のグループが盛り上がっていました。

切磋琢磨して目標に向かってほしい

今年3月の中学修了式、中学生最後の日になりました。解散後、クラスの生徒が藤井君との写真撮影を頼んでいました。日頃は、藤井君をクラスメートの一人として接してきたクラスの生徒が、その瞬間だけは藤井君を特別な存在として接していました。

昨年度、学年の生徒の中には、短期留学して視野を広げた生徒もいました。また、全国の研究発表会で上位賞を受賞した生徒もいました。そして、藤井君はプロ棋士としてタイトルを目指しています。一人ひとりがそれぞれの夢を持ち、夢に向かって努力しています。

今年4月から高校生になった藤井君。これまでの仲間や新たな仲間と、切磋琢磨して目標に向かってほしいです。