三木 聡監督は主演の配役を考え始めて、およそ7秒で「阿部サダヲしかいない」と結論に至ったという。その阿部は、20歳近く年下の千葉雄大を「面白くて、エロくて、かわいい」と称賛する。ふたりに共通するのは、シリアスからコメディまで、何でもこなす“全方位型”の役者であるということ。ふたつの才能が映画『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』でぶつかり合い、過激な化学変化を生んでいる。

撮影/川野結李歌 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.
スタイリング/チヨ(コラソン)【阿部】、寒河江 健(Yolken)【千葉】
ヘアメイク/中山知美【阿部】、堤 紗也香【千葉】
衣装協力/スーツ(KOTANCHY)【阿部】

「映画『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』」特集一覧

一字一句きっちりと。セリフに細かくつけられた演出

阿部さんが演じるのは、秘密の“声帯ドーピング”により驚異の歌声を手に入れるも、その喉は崩壊寸前にある世界的ロックスターのシン。本作は、彼の最後の歌声をめぐって大騒動が展開する物語です。最初にオファーが届いたときのお気持ちは?
阿部 三木さんの作品は、ずっと出たいと思ってたんです。三木さんが映画をやると聞いて、台本を開く前に「はい!」と言っちゃった感じでした(笑)。
阿部さんが、これまで三木監督の作品に出たことがなかったというのが意外な気もしますが…。
阿部 何か、出ててもおかしくないですよね?(笑)(大人計画の)松尾(スズキ)さんとか少路(勇介)くんとかがこれまでにも出てるし。正直、最初は主役ではないと思ってたんです。脇でチャカチャカ面白いことをやってる役かと思ってて…。
それが主演、しかも世界的人気を誇るロックスターという役どころで…。
阿部 ちょっと待て!と(笑)。これはふざけちゃいけないなと。三木さんの台本ももっとふざけた感じかと思ってたら、読むとストレートなメッセージがあり、ロックで。「ちゃんとやろう」と。いや、普段からちゃんとやってますけど(笑)。
千葉さんは、レコード会社で、シンの担当A&Rを務める坂口を演じられています。
千葉 正直、こういう“仕上がり”の人間が三木さんの作品に呼んでいただけるとは思ってなかったので、うれしかったですね。台本を読んで「どうなるんだ?」と思ってたら、本番前のリハーサルで(監督に)いろいろと教えていただいて。

自分が台本を読んだときのイメージとはどんどん違っていき、「え? ここ、こんなふうにやるの?」というシーンも多くて。熱量も上がっていく感じで、すごく楽しかったです。
過激なハイテンションシーンの連続ですが、セリフの言い回しなどについては、三木監督からかなりカッチリとした指示があったそうですね?
阿部 そうなんです。勝手に「みんな自由に演じていて面白そうだな」と思ってたら、じつはアドリブも一切なしで、一字一句きっちりという感じで。突拍子もないセリフがどんどん出てくるからアドリブと思われがちなんですけど、そうじゃないんです。

役者からしても「何だ? このセリフ?」っていうのがけっこうあるんですけど(笑)、それも含めて「これは、三木さんの世界にどっぷりと入ったほうがいいんだな」と思いました。
坂口は冒頭から、ナマズを抱えたり、シンからピザを頭にぶちまけられたり、かなり激しいシーンがあります。
千葉 ピザのシーンは一発本番だったんです。長回しで撮っていて、とても緊張したんですけど先輩(阿部さん)がスゴいので、一発で綺麗に決まってよかったです。
阿部 あれはよかったよね。じつはカメラに映ってないところの動きがかなり細かいんですよ。カメラから外れたら、すぐにスタッフからピザを受け取って叩きつけて…とか。
千葉 ADさんから血のりを受け取って、ピザを叩きつけたあとに吹いたり(笑)。
阿部 そこまでは全部一連で撮ってて、すごく手作り感があったよね。カメラマンの相馬(大輔)さんもアイデアマンで、今回一連で撮ってるシーンがけっこうあります。あとはナマズのシーンも…あそこは何度もやったよね? 千葉くんの動きは決まってるんだけど、ナマズがなかなか…(苦笑)。
千葉 段取りの段階では、目が描いてある魚のかたちをしたものを使っていて、かわいい感じだったんです。僕も「ナマズ、全然大丈夫ですよ」とか言ってたんですけど、いざ本物が顔のところに来ると「うぅー」って…(苦笑)。
阿部 助監督が千葉くんよりもナマズのケアをしてて「ちょっとナマズが勢いなくなってきたんで、休ませてください!」って。そっちかよって!(笑)

撮影の休憩中に、ふたりで卓球をしていました(笑)

三木作品は独特の笑いやユーモアが大きな特徴ですが、これまでさまざまなコメディ作品に出演されてきた阿部さんから見て、いかがでしたか?
阿部 さっきも言いましたけど演出はカチッとしてるんです。でも、セリフの強弱次第で笑わせることができて、そこはスゴいなぁと思いました。ツッコミもバーンと激しくやるのもあるけど、そうではない、ある意味で棒読みのツッコミもあるんです。

「おい」と言うのでも、三木さんのは温度の低い「おい」だったりして、たとえば宮藤(官九郎)さんの笑いとはまた違うんです。それが難しかったりもするんですけど。
千葉 松尾さん、ふせえりさん、田中哲司さんが順番に面白い感じになって、最後に「イヤイヤイヤ!」と(千葉さんが)ツッコミを入れるシーンがあったんですけど、それがすごく難しくて…(苦笑)。
おふたりの共演は、2016年の映画『殿、利息でござる!』に続いてですね。今回は、ミュージシャンと担当A&Rという非常に近い関係性でした。
千葉 前回はそこまで一緒のシーンがなかったんですけど、今回は近しい役柄でうれしかったです。僕が振り回される役だったので、阿部さんにいろんなことをやっていただいて、グッと気持ちが入りました!
千葉さんから見た、俳優・阿部サダヲの魅力とは?
千葉 いや、もう僕が勝手に大好きなんですけど(笑)。ただ、僕に限らずご一緒させていただくと、みんな阿部さんのことを好きになると思います。
今回、間近で阿部さんの演技を受け止められて、いかがでしたか?
千葉 坂口を演じながらも、すごくカッコいいなって思ってましたね。歌唱シーンはもちろんですが、普段の歌にかける気持ちとか、ギリギリのラインを攻める芝居を見て「あぁ、二枚目だな…」って。ドキッとしながら見てました。
阿部 (照れながら)二枚目? 二枚目?(笑)
千葉 シンが机の上に立って、光がワーッと降り注ぐシーンがあるじゃないですか? あそことか「カッコいいなぁ…」って。
阿部 いや、まあ「やれ」と言われてやっているだけなんですけど…(笑)。
こうした取材現場などでは、阿部さんはシャイな方でギャップを感じますが、撮影現場では…?
千葉 今回は、わりとお話をさせていただきました。あ、卓球しましたよね?
阿部 したね。
千葉 控室が体育館みたいなところで、卓球台があったんで、待っているあいだに。
「ちょっと卓球でもしようか?」と?
阿部 待てども待てどもなかなか呼ばれないんでね。
千葉 何試合かしましたよね。
阿部さんは今回、千葉さんやヒロインを演じた吉岡里帆さんら若いキャストとのシーンが多かったですが、主演として、先輩俳優として、「現場を引っ張る」という意識を持たれたりは?
阿部 そういうのはまったく意識してないというか、“主演”ということをあんまりわかってないんですよね。映画は監督のもの。今回で言うと三木さんのものだと思ってるので、あまり考えず。ただ芝居がしづらくなるのが一番イヤなので、思い切って芝居できる居心地のいい現場になるといいなとは思ってますが。
芝居についてキャスト同士で話されることは?
阿部 僕は普段からないですね。してないよね?
千葉 なかったですね。
阿部 「いま、どんな作品に入ってるの?」みたいな話はしますけど。

役のことを好きになれないと、思い切り演じられない

阿部さんから見て、千葉さんはどんな俳優ですか?
阿部 何でもできる人ですね。今回、哲司さんと裸で抱き合ってるシーンまであって、面白かったです。面白いし、エロいし、ちょっとかわいいところもあって…。
千葉さんは、いわゆる“イケメン王子”役の印象も強いですが、ここ最近、さまざまな役に挑戦されています。本作でもこれまでにない表情を見せられていますが…。
千葉 たしかに今回の作品は、普段はなかなかやらせてもらえないことができて楽しかったですね。正直、「これはいままでやったことがない」という不安があったりもするんですけど、そういうときに「何でもできる!」と自信を持って臨まないとできないと思うので、振り切って楽しんでました。

イメージからの“脱却”というと大げさですが、固定されたイメージが多少あるのは事実だと思います。でも、それがあるからこそ、今回のような役を面白がっていただけると感じるし、そういう意味で無駄なこと、マイナスなことは何もないんだなと。
阿部さんが今回のシン役で見せたような爆発力に憧れも?
千葉 それはありますね。先日、舞台も拝見したんですが、アクションもスゴいし、コミカルからシリアスなカッコいい役まで、阿部さんこそ何をやっても画になる俳優さんで、見入っちゃうんですよね。
阿部 ホント、いい子なんです(笑)。
この機会にぜひ、阿部さんが役を演じるうえで大切にされていることを教えていただけますか?
阿部 そうですね…。よくモノマネをする方々は「(本人を)大好きじゃないとできない」とおっしゃるじゃないですか。それと同じで、自分もその役を好きになれないと思い切りできないんですよね。

ただ、ありがたいことに、いままでの役は好きな人、好きな部分を探せる人ばかりで。もし「自分をやって」とか「(素の自分で)好きなことを10分しゃべってください」と言われたらできませんから(笑)。「役です」と言われてセリフがあるからできるんだと思います。
千葉 (小声で)なるほど…。
笑いに関してはいかがですか?
阿部 それもやっぱり好きなんですよね。小学生の頃からずっとお笑いを見てきて、“ひょうきん族世代”だし、漫才ブームもずっと見てきてるんで。だから、笑いのある芝居がとにかく好きなんです。
次回、また近しい関係で共演されるとしたら、どんな役柄がいいですか?
阿部 何だろうね?
千葉 恋愛ものとかどうですか? 僕らの愛を!
阿部 『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)的な?
千葉 (笑)。もしくは今回とは逆の関係で、僕がスターで…。
阿部 僕、マネージャー的な役はやったことないんで、やりたいな。ピザをぶつけてもらえたら(笑)。
千葉 それは緊張します!(笑)
阿部サダヲ(あべ・さだを)
1970年4月23日生まれ。千葉県出身。A型。1992年に「大人計画」に参加し、舞台『冬の皮』でデビュー。その後も、さまざまな舞台で活躍。TVドラマでは『医龍-Team Medical Dragon-』(フジテレビ系)、『マルモのおきて』(フジテレビ系)、『下剋上受験』(TBS系)、『anone』(日本テレビ系)などに出演。出演映画に『舞妓Haaaan!!!』、『なくもんか』、『夢売るふたり』、『謝罪の王様』、『彼女がその名を知らない鳥たち』など。2019年NHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』では主演を務める。12月18日から30日までスパイラルで開催の『30祭』に出演。詳細は大人計画HPにて。
    千葉雄大(ちば・ゆうだい)
    1989年3月9日生まれ。宮城県出身。O型。2010年の『天装戦隊ゴセイジャー』(テレビ朝日系)で俳優デビュー。NHK大河ドラマ『平清盛』、『水球ヤンキース』(フジテレビ系)、『きょうは会社休みます。』、『家売るオンナ』(ともに日本テレビ系)、NHK連続テレビ小説『わろてんか』などに出演。映画では『帝一の國』、『亜人』など。今年もドラマ『もみ消して冬〜わが家の問題なかったことに〜』、『高嶺の花』などへの出演が続き、10月からは『プリティが多すぎる』(すべて日本テレビ系)に主演。映画『スマホを落としただけなのに』が11月2日、『走れ!T校バスケット部』が11月3日に公開を控える。2019年1月からはドラマ『家売るオンナの逆襲』(日本テレビ系)に出演。

    「映画『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』」特集一覧

    出演作品

    映画『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』
    2018年10月12日(金)ロードショー
    http://onryoagero-tako.com/

    ©「音量を上げろタコ!」製作委員会
    配給・制作:アスミック・エース

    サイン入りポラプレゼント

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