手荷物受取所のターンテーブルで流れてくるのは、荷物だけではありません。その地方ならではの遊び心がたっぷり詰まった「名物オブジェ」が流れてくることも。全国の空港に広まる妙な「習慣」は、どうして始まったのでしょうか。

桃太郎もベルトコンベアをどんぶらこ

 飛行機で旅先の空港に着くと、まず手荷物受取所に向かうという人もいるでしょう。そこで出発時に預けた荷物を受け取るためしばらく待機していると、ターンテーブルに乗って荷物が流れてきます。このとき荷物の先頭に「変なもの」を見たことがある人もいるかもしれません。

 近年、日本では地方空港を中心に、乗客を歓迎したり、地域の特産などをアピールしたりする目的で、ターンテーブルを流れる荷物の先頭や合間に、特産品などをかたどったオブジェなどを流すところが増えているのです。


手荷物受取のターンテーブルにマグロとエビの寿司が流れてくる大分空港(画像:大分空港)。

 たとえば、岡山空港ではきびだんごを持った桃太郎が桃に乗って、どんぶらこ、どんぶらこと流れてきます。岡山といえば桃太郎の舞台とされる地域のひとつ。空港の愛称も「岡山桃太郎空港」なので、それに合わせた形です。一方、瀬戸内海を隔てた香川県の高松空港では、名物であるうどんの模型が流れてくることがあります。

 鳥取県境港市の美保飛行場(米子空港)は、同市が『ゲゲゲの鬼太郎』の作者・水木しげる氏の出身地であることから「米子鬼太郎空港」の愛称がついていますが、この空港のターンテーブルでは『ゲゲゲの鬼太郎』に登場する「目玉おやじ」が流れてきます。おなじみの「お椀風呂」でくつろぐ姿ではなく、スーツケースから飛び出すような、ここならではの演出も。

 ほかにも、長崎空港では特産のイチゴやビワ、宮崎空港ではマンゴーや宮崎牛、旭川空港では旭山動物園のアザラシやペンギンなど。それぞれの空港で多種多様のオブジェが存在するのです。ただし、発着便によって変わるので、その空港に行けば必ず見られるというわけではありません。

始まりは「回転寿司

 手荷物ターンテーブルにオブジェを流すことは、海外の空港でも行われていますが、日本ではどこからどう広がったのでしょうか。

 その先駆けは、2007(平成19)年から実施されている大分空港の「寿司ネタ」といわれています。ターンテーブルを回転寿司に見立たもので、近海の海産物をアピールしたいという意図から、地元の観光振興団体であるツーリズムおおいた(旧大分県観光協会)が始めました。

 旅のスタートとなる空港で観光PRをして旅行客に印象づけ、口コミで県の良さを広げてもらう狙いですが、アイデアのきっかけは、メンバーの雑談だったとか。エビのにぎりやウニ軍艦などのオブジェはウレタン樹脂製で、製作費は1種類につき約20万円だったそうです。


岡山空港では桃太郎が流れてくる(画像:岡山空港)。

 大分空港に触発され、先述の高松空港や米子空港が2011(平成23)年に開始。宮崎空港は2012(平成24)年です。また、同年末に大分空港と同じ「寿司ネタ」を流し始めたのが富山空港。富山湾で獲れる地魚の寿司を模したネタが載った寿司下駄が流れてきます。こちらは大分空港とは違い、小ぶりなネタ10貫ですが、最近破損してしまい、2018(平成30)年9月24日現在でまだ修理中とのこと。直り次第また流される予定です。

 各空港のこうした細かい遊び心はインターネットのSNSなどで拡散され、たびたび話題になっています。地方の空港に行くときは、自分の荷物だけではなく、待ち時間や荷物と荷物の間に流れてくる「小ネタ」に注目してみるのもいいかもしれません。

記事制作協力:風来堂