“多様性”が叫ばれる現代だからこそ、人は人生の岐路で悩み、迷い、時に涙しながら、歯を食いしばって、たくさんの選択肢の中から自分の歩むべき未来を選んでいく。映画『食べる女』は、おいしいごはんとそれがもたらす人のつながりで、悩める者たちの背中をそっと押してくれる。

しなやかで美しく聡明な大人の女。壇蜜から受ける印象である。あわせて、ミステリアスな発言やドキッとするような言葉選びで、気づけば彼女のとりこになってしまう。彼女自身は女として生きていることに自覚を持っているように見える。仕事、恋愛、結婚など、女性の人生に訪れるさまざまな転機を、アラフォーになった彼女はどう考えているのか。

撮影/川野結李歌 取材・文/馬場英美 制作/iD inc.

「映画『食べる女』」特集一覧

何でもできる完璧な母の存在が、プレッシャーでもあった

映画『食べる女』は、雑文筆家で古本屋を営む“トン子”こと餅月敦子(小泉今日子)や、ごはん屋の女将(鈴木京香)、20代の書籍編集者、料理のできない主婦(シャーロット・ケイト・フォックス)など、世代も考え方も異なる女性たちが登場します。壇蜜さんが演じられたツヤコは、2児を育てるシングルマザーでもありますね。
たぶん彼女は、妻としても、母親としても、働くキャリアウーマンとしても、つねに完璧な女性でありたかったんだと思います。でも、そうやって完璧を求める彼女と一緒にいることに、元旦那さんは息苦しさを感じてしまったのではないでしょうか。
離婚したあとも、元旦那への思いを断ち切れずにいるツヤコをどう感じましたか?
元旦那が家を出ていってしまってからは、彼のことをあきらめようと必死で仕事をしていたんでしょうね。子どももいるし、自分が何とかしなきゃと思いながら、どうしたら帰ってきてくれるんだろうと、自問自答する日々を過ごしていたのではないでしょうか。その気持ちを思うと、せつないですね。
ツヤコが子どもたちと元旦那の家を訪れ、約束もないのに突然「いいお天気だからピクニックに行きましょう」と誘うシーンは、ツヤコの“怖さ”も感じて印象的でした。
ツヤコにとっては、勝負だったんでしょうね。だって、彼が次に選んだのは、自分とまったく違うタイプの女性だったんですから。あのシーンで、ツヤコがどこかおかしいと感じていただけたのならば、演じる側としてはうまくいったのかなと思います。
壇蜜さんいわく、ツヤコは完璧主義。そうとしか生きられなかった彼女のことを同性としてどう思いますか?
すごくわかります。それこそ、私の母がツヤコのように、全方位、死角なしでいたい人でしたから。母であり、よき妻であり、仕事ができるキャリアウーマン。それでいて、自分の母親を支えるよき娘でもある。母はそのすべてを完璧にできる人だったので。
それは娘としては大変なプレッシャーですね。
母のように完璧にできる人は、相手に求めるものも厳しいですからね。でも、同じことを求められても困るし、それをみんなができるかといえば、そうじゃない。だから、母の存在はプレッシャーでした。加えて、教育熱心で過保護なところがあったので、私は甘い人間に育ってしまいました。
壇蜜さんのご活躍を拝見していると、とても甘い人間には思いませんが。
母からは、「どこか世間知らずで、人に甘いところが出ている」と、よく言われます。

自分の手に負えないものが、モチベーションにつながる

本作は女性の生き方がテーマになっています。壇蜜さんが芸能界に入られたのは29歳のとき。芸能生活を始めて、自分の生き方や考え方に変化はありましたか?
外に出たときに帽子をかぶったほうがいいな、と思ったぐらいですかね。帽子をかぶったほうが世のため、人のためだなと(笑)。どうしても顔を出す仕事をしていると、あれこれ言われがちですからね。あとは、ほんの少しだけ金銭感覚に変化があったと思います。
どのような変化が?
以前は絶対に無理だと思っていた、ペットに対する情熱のタガが外れてしまってますね。たとえば、「この蛇は48万円します」と言われても、お給料で何とかまかなえるかもとか、分割にしたら何とかなるかもと考えている自分がいます。
バッグや靴、ジュエリーにお金を費やす女性は多いと思いますが、それが生きものに向かったんですね。
自分がテレビを見ていて、いいなと思っていた生きものが、今では手に入る環境にいることに気がついているんでしょうね。これ以上いかないように食い止めるのが、自分の生涯をかけての仕事だと思います。
女性の転機はたびたび訪れるものですが、その中でも結婚、出産が転機になる人も多いと思います。
私の場合、結婚とか出産に関しては、今は考えていない状態。たとえば、好きな人がいても、それが結婚につながるかどうかはわかりませんから。そういう意味では、私が生きものを飼い始めたのは、自分以外に大事なものとか、自分がどうにかしないといけないものを手に入れたいと思ったのかもしれません。
たしかにペットが頼れるのは、飼い主しかいないですもんね。
朝起きて、小鳥が鳴いているから「小鳥、小鳥」と気にしていると、猫がご飯を催促しにやってくる。それで振り返ったら、蛇がおしっこをしていて、「ああ、蛇、蛇」となる。毎朝、本当に忙しいです(笑)。もちろん、私の周りには、仕事を支えてくれるスタッフや家族がいて、みんな大切な存在ではあるんですけど、彼らは大人だし、放っておいても大丈夫じゃないですか。
でも、生きもののように手に負えないものの場合は、私がしっかりしなきゃと思うし、自分の生きるモチベーションとか、仕事に対するモチベーションにつながるんですよね。そう考えると、私は手に負えないものを手に入れることによって、自分で転機を作ってしまったのかなと。もう病気ですね(笑)。

「おばさんだから…」は、使い勝手のいい魔法の言葉

壇蜜さんは現在37歳ですが、女性は30代に入ると「結婚は?」と突っ込まれることが多くなると思います。壇蜜さんも言われることは?
毎日のように「結婚願望は?」と聞かれてますね(笑)。だから、結婚してない女性芸能人が「結婚したいんです!」とウソでも言っているのが、正当防衛なことがよくわかりました。
とりあえず「結婚したい」と言っておかないとダメ?
「私、結婚は別に…」と言うと、「強がって」とか「不倫してるんでしょ」、「何か副業をやってるんでしょ」と言われますから。だから、とりあえず「結婚したい」と言っているほうが(敵の攻撃を避けるのに役立つ)正しい擬態なんだと思います。
それが、女性がアラフォーになってくると、結婚の話題に触れてはいけない、アンタッチャブルな空気になるのが気になります。
それでいいと思います。触れないほうが楽ですから。そうすると、聞きたいけど聞けないという遠慮が距離感につながるかもしれませんが、その距離感は別のもので埋めればいいんです。
面白い考え方ですね。
「結婚しないの?」と言われ続けていたのが、突然言われなくなる。そこからが勝負な気がするんですよね。新しい距離感ができて、新しい関係になるチャンスなわけですから。私は本当にそう思うんですけど、これがなかなか伝わらないんですよね(笑)。
妙齢なのに「結婚してない、結婚できないんだ」と思われることを恐れる女性が多いのかもしれませんね。
私、よく言うんですけど、「おばさんだから」は魔法の言葉だと思います。「おばさんだから、もう飲めない」、「おばさんだから、夜が早い」とか。「おばさんだから」と言うと、大抵のことがかわせます。
もし自分でおばさんと言うのがイヤなときは、「おばはん」と言うのも手です。「おばはん、困っちゃうな」と言うと、だいたい手を引っ込めてくれますからね。

好きなことを仕事にしている人なんて、本当はいない

この先、年齢を重ねていくうえで自分の意識は変わっていくと思いますか?
変わると思います。まず体力的にも落ちてくると感じますし。私は休養時間のことを“ダウンタイム”と呼んでいるんですけど、年齢を重ねていくと、どうしてもダウンタイムからの復活に時間がかかります。だから、時間がかかる人生を過ごすものだと、自覚して生きていったほうがいい。ただ、よく「時間がない」と言っている人がいますが、私は時間がない焦りよりも、「時間がかかるのよ」という焦りのほうが有意義な気がします。
これは勝手なイメージですが、壇蜜さんならひとりでも生きていけそうに見えます。男性からそう言われたことはありませんか?
ありますね(笑)。そういうときは、ひざの裏に静脈が浮いているところがあるんですけど、そこを見せて、「これが破裂したら死んじゃうから、ひとりでは生きていけないんです」と言います。
実際に見せるんですか?
はい。みんな、引き気味で「ああ、そうなんだ…」と言っていました(笑)。ただ、女性は誰でもひとりで生きていく強さを持っていると思います。私も「ひとりで生きていけそう」と認定されるのはうれしいですが、それだととっつきにくくなってしまうので、とっつきやすいところを残すためにも自分の体を研究するようにしています。
壇蜜さんは、仕事と恋愛のバランスを考えたことはありますか?
見せる仕事をしているのは重々自覚しているので、それも含めて考えます。なので、できることなら、相手はパッとしない冴えない人がいいなと。そういう人を傍らに置いておくと、私がいい人に見えますしね(笑)。
ただ、芸能人・壇蜜としての二枚舌を理解してくれる人じゃないと難しいかと。でも、私はどんなにパッとしない冴えない人でも、必ず男の人を立てます。男の人を優先したいし、相手に何かをしてあげたいという気持ちは大事にしたいと、つねに思っています。
これからを生きる女性のために教えていただきたいのですが、壇蜜さんは人生の岐路に立たされたとき、何を基準に道を選択していますか?
そういうときに「誰々の言葉を軸に」とか、「誰それのアドバイスを糧に」とか言ったほうがいい人に見えるので、そう言いたいんですけど、結局のところはすべて自分です。私としては、人の言葉や格言、助言に左右されることなく、すべて自分で決めて、自分のせいにして生きたほうが、人生が楽というか。後悔しても、うまくいったとしても、どっちもおいしいと思えるようになると感じているんです。
では、やりたいことを見つけるにはどうすればいいと思いますか?
やりたいことって、食う、寝る、遊ぶ以外はないと思ったほうがいいです。よく「好きなことを仕事にしています」と言う人がいますが、基本、働くには努力が必要だし、努力の“努”という字は女の又に力ですよ(笑)。そのうえ、努力の“努”の“力”を抜いたら、奴隷の“奴”ですからね。
たしかに、そうですね。
好きなことを仕事にしている人なんて、本当はいないのです。だから、仕事には楽しさを求めず、得たことを楽しさにつなげていけばいいと思います。私は以前、ケーキ屋さんでケーキに金色の紙をつける仕事をしていたんですけど、最初はそれがとにかく嫌いで。でも、先輩からやり方を教わって、コツをつかんだら、だんだん好きになっていったんですよね。
「あの仕事は大変だったけど、振り返ってみたら、意外と好きだったな」と感じることは、よくあるのではないかと。そういう意味では、最初からつらいスタートのほうが断然お得なんじゃないかと思います。こんなことを言ってしまったら、若い子たちは失望しないかな?(笑)
壇蜜(だん・みつ)
1980年12月3日生まれ。秋田県出身。O型。グラビアモデルとして芸能活動を始め、バラエティ番組や情報番組などの出演、ラジオパーソナリティー、雑誌などでの執筆活動も行っている。女優としては、2012年の映画『私の奴隷になりなさい』で主演を務めたほか、2014年のドラマ『アラサーちゃん 無修正』(テレビ東京系)、2018年の『ホリデイラブ』(テレビ朝日系)などに出演している。

「映画『食べる女』」特集一覧

出演作品

映画『食べる女』
2018年9月21日(金)よりロードショー中
http://www.taberuonna.jp/

サイン入りポラプレゼント

今回インタビューをさせていただいた、壇蜜さんのサイン入りポラを抽選で3名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
ライブドアニュースのTwitterアカウント(@livedoornews)をフォロー&以下のツイートをRT
受付期間
2018年10月1日(月)18:30〜10月7日(日)18:30
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/10月9日(火)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから10月9日(火)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき10月12日(金)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
キャンペーン規約
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