マック・ミラーとアリアナ・グランデの破局、そしてミラーの死を経て、アリアナへの批判が絶えない。今なお語り継がれるオノ・ヨーコやコートニー・ラヴなど、男性のふるまいの原因は女性にあるという根強く残る偏見を考える。

不思議なことに、マック・ミラーとアリアナ・グランデの恋愛は2年に及ぶ交際中のほとんど、タブロイド紙に取沙汰されることはなかった。2人の関係が世間の注目を浴びるようになったのは、5月に2人の関係に終止符が打たれた後。破局から8日後、ミラーが薬物摂取のまま運転して交通事故を起こしたこと、さらにその数週間後にグランデが『サタデー・ナイト・ライブ』の出演者ピート・デヴィッドソンと婚約したためだ。

「ハリウッドで起きた、もっとも痛ましい出来事」とは、イライジャ・フリントと名乗るユーザーが5月にあげた、Twitterの投稿だ。フリントは、ミラーのファンと思われるその他大勢のユーザー同様(タブロイド紙の読者も含め)、本人も音楽の中で言及し、公にも認めていた、彼の長年にわたる薬物依存との戦いよりも、フリント曰く、ミューズとして男を支えてきたグランテのような女性が、愛想をつかして他の男に心変わりした事実のほうに心を痛めたようだ。

pic.twitter.com/1GPM6smsBu
- Ariana Grande (@ArianaGrande) 2018年5月23日

イライジャ・フリント
@FlintElijah
2018年5月22日

マック・ミラーが愛車のワゴンをブッ壊し、DUI(麻薬等運転)で捕まったのは、アリアナ・グランデが彼を捨てて他の男に走ったせいだ。彼はあんなに愛情を注いで、10曲入りのアルバム『The Devine Feminine』を彼女に捧げたのに。ハリウッドで起きたもっとも痛ましい出来事だ。

アリアナ・グランデ
@ArianaGrande
12:40 AM - May 24, 2018

ばかげてる。自分のためにアルバムを作ってくれたんだから、たとえ有害でも関係を続けるべきだなんて、女性の自尊心や存在価値を貶めているわ。それにアルバムのことも間違ってる(私のことを歌ってるのは「Cinderella」だけ)。私は彼の子守じゃないし、母親でもない。女性はそういう存在でなきゃいけない、と思う必要もない。私はずっと彼のことを気にかけてきたし、彼が薬物を断った時は支えになって、彼が平穏に過ごせるようにと祈ってきた(もちろん、この先もそうするつもり)。でも、男性がトラブルを解決できないからといって、女性を責めたりなじるのはいかがなものかしら。そういうことはもうやめてほしい。

当時、フリントのような意見は他にもあったが、グランデが反論したのはフリントに対してだけだった。当時25歳だったグランデはノートアプリにしたためた長文の中で、薬物依存の患者を恋人に持つことがいかに恐怖に満ちたものだったかを訴えた。彼女はミラーのことをかつて愛した恋人と呼び、彼女の力ではどうしようもない病を抱えた彼の身を心から案じた。

金曜日にミラーが薬物の過剰摂取で悲劇の死を遂げると、グランデの名前はたちまちTwitter上で話題になった。大勢のユーザーは彼の功績を単なる「人気スターの元恋人」に貶めただけでなく、非難の矛先を再びグランデに向けた者もいた。彼女のInstagramのコメント欄やTwitterの投稿は、たちまち女性に対する非難や、彼女がミラーを殺したという抽象的な発言、悲しみに暮れるあまり誰かを責めずにはいられないといった類の罵詈雑言であふれかえった。ミラーの死を最初に報じたTMZの記事にも、2人の破局が原因となってミラーが薬物に屈したと仄めかすような記述がある。グランデはすぐにInstagramのコメント機能を停止。以降、彼女のアカウントにはミラーの微笑ましい写真が掲載されている。フレームの下から彼女のスニーカーが顔をのぞかせていることから、付き合っていた当時彼女自身が撮影したものと思われる。

恋人の抱える問題をしょいこまされた女性は、グランデが初めてではない。とくに名声やファン心理が絡んでくると、裏切りや心変わりを騒ぎ立てるゴシップ記事を信じこみ、悲劇の直接的原因であると誤解する。だが現実には、どんな最強ヒーローでも、周囲のサポートにも関わらず戦いに敗れることもあるのだ。今回の場合は、グランデが人生をやり直そうと彼女のいう「ソウルメイト」に出会い、幸せの真っただ中にいるがゆえに、女性を敵視する人々を「やっぱりミラーの転落は彼女の責任だ」と納得させる根拠を与えてしまった。

このようなファンの主張の根幹には、ポップカルチャーで長きにわたって語り継がれている悪しき伝説、いわゆる”オノ・ヨーコ効果”がある。ポップカルチャーは、自分たちが理解できない事柄は全て女性になすりつけたがる。往々にして、やたら男らしさを振りかざすファンの一派が信奉しているような主張や陰謀説が、しぶとく居座り続ける場合もある。コートニー・ラヴはいまだに攻撃の矢面に立たされ、SNS上のコメントやブログには、カート・コバーンがヘロイン中毒になった原因を作ったのは彼女で(間違い)、彼女がコバーンを殺害して自殺を偽装した(これも事実とは異なる)、という陰謀説が後を絶たない。コバーンが死んだ20年前にはSNSなど存在しなかったが、ラヴがなにかしら投稿するたびにこうした心ない意見が現れるという事実は、社会が女性に男性の子守役を押し付け、女性が恋人の痛みを受け止めきれないとわかると怒りをぶちまける図式を如実に物語っている。

その一方で、ミラーとグランデ両方のファンの多くは、彼女に対する意地の悪いコメントを目にした人々も含め彼女の弁護に回った。2人の破局とミラーの交通事故を結び付けた張本人のフリントでさえも、考えを改めた。

「1回しか言わない。これはアリアナのせいじゃない。残念かもしれないけれど、彼女が僕にツイートした内容が正しい」

「ポジティブで何よりじゃないか」 最後のアルバムとなる『Swimming』のリリース直前、ミラーはインターネット・ラジオBeats 1とのインタビューで、グランデの婚約についてこう語った。グランデがノートの中で2人の破局に対して再び口を開いたことを受けてのコメントだった。彼女は常々、薬物依存からの回復を祈り、彼を心底気にかけていた。2人が何年も前からの知り合いだったことを考えれば、彼女の主張が偽りではないことに疑いの余地はない。

「彼女が人生の次のステップに進むことができて、本当にうれしい」と彼は続ける。「きっと彼女も、俺に対して喜んでくれていると思うよ」。