「放っておいてもおカネが貯まる」なら、こんなうれしいことはないが、おカネが貯まる人は実践している(写真:kou/PIXTA)

ファイナンシャルプランナーの私は以前6年半ほどシステムエンジニア(SE)として勤務をしていました。SEの仕事には商談、システム設計、サーバー構築、運用・保守などの業務があるのですが、特に、サーバー構築や運用のシーンでは、定型的な仕事については「簡易ロボット」に任せて、手間をかけずに業務を遂行することを考えます。

実は、こうした発想は、家計を健全化するうえでも、非常に有効です。

無理して貯めてもダメ、ゆるく続けられる仕組みを作る

人が努力して家計をよりよい方向に導いていこうとすると、我慢や忍耐が必要になります。しかし実際には、苦労して一時的な成果を上げるよりも、ほったらかしにして及第点がとれる仕組みを作ってしまうことのほうが、効果が長く続きます。

たとえば、ある月だけ頑張って5万円の貯蓄を残したとしましょう。しかしせっかくそれだけの額を貯蓄したとしても、我慢した反動で使いすぎてしまったり、翌月からは続けられないといった方法では、大きな資産を築くことは難しいです。

それならば月1万円であっても、さほど苦労を伴わず自動的に残す仕組みがあれば年間で12万円になります。しかも、つらくないから続けられ、10年なら120万円、20年なら240万円と、比較的簡単にまとまった資金を生み出すことができます。

家計を健全にしたければ、頑張ることではなく「仕組みにできないか」と考えることが肝要です。では、どうやったらそうした仕組みを作ることができるでしょうか。

実は、仕組みやシステムといっても、そんなに難しい話ではありません。代表的なやり方はクレジットカードです。複数枚持っている人も多いと思いますが、よく研究して、そのなかから自分に合う「メインカード」を決めます。

メインカードが決まれば、あとは家計管理のために、無駄なく上手に使うだけです。もう1つは目標とする投資額・貯蓄額を無理のないところで決めることです。毎月の投資額や貯蓄額を決め、口座振り替えなどで自動的に積み上がる設定を行ってしまえば、それで完了といってもさしつかえありません。

目標とする額はどうやって決める?

では、目標とする貯蓄額はどうやって決めればいいでしょうか。もし読者の皆さんが独身または共働きの方であれば手取り収入の20〜30%が1つの目安です。また子育てカップルの場合は、子どもが小中学生のときなら10%、それ以外の子育て期は5%がおおむね適当でしょう。

ここで、初めて定期的な貯蓄を行う人は、やはり注意が必要です。まずは家計を把握して、無理のない金額を知るところから始めることがお勧めです。最初から頑張りすぎずに、「助走」(無理のない額で始める)からスタートし、軌道に乗ったら少しずつ増額していけばいいのです。

「わが家にとって無理のない貯蓄額」はどうやって決めると良いでしょうか。一般的には家計簿を記録することなどが思い浮かびますが、実はすでに蓄積されているデータを参照することで、苦労せずに検討することができます。

さきほどはクレジットカードを使うことが記録の代わりになるという話をしましたが、たとえば過去6カ月分の通帳(あるいはオンラインの毎月の記録など)をじっくり眺めるだけでもいいのです。これによって、毎月わが家はいくらのおカネを使うのか、把握することができます。たとえば帰省するときや旅行するときなどを利用して、過去6カ月分をみることで、特別なイベントがあったときにいくら使っているのかなども確認することができますね。

こうした、すでにストックされている身近なデータを確認しおわった後、早速、現時点で無理がない金額を、財形貯蓄や積立定期、積立投資などの方法でとりよける仕組みを作ります。

私が最近使いやすいと感じているのは、ネット銀行などで多く提供されている「定額自動入金」というサービスです。サービスを提供している銀行に毎月一定額を別の銀行から入金する場合、多くの銀行では手数料無料で提供されています。

今は定期預金の利率が低いため、定期預金などにするメリットはあまりないと感じるかもしれません。しかし、定額自動入金サービスであれば、その口座を貯蓄専用口座として使い、普通預金としても積み上げて行くことができるため、融通も利きます(貯蓄専用口座は、基本的には引き出さず利用する運用ルールを決めたいところではありますが)。

日々の努力は横に置いて「システム構築」を

一方、支払い方法も有利な払い方を決めて実行すれば、少しでも自動的に家計を助けることができます。

クレジットカードを使うとして、まずは年会費無料のものを選びます。そのうえで、利用額に応じた還元率がおおむね1%前後かそれ以上となるカードを選ぶことができればそれがベストです。たとえ還元率がサービスによっては1%未満であっても、自分の消費行動にマッチしたカード選びができれば、年間の消費総額の5%程度を浮かせることも、さほど難しくはありません。

実は先日、カードによる年間消費額が400万円にのぼるという人と会ったのですが、金額もさることながら、驚いたのはその還元分です。なんと35万円相当のポイントを付与されていると聞き、本当にびっくりしました。ここまでは使いこなせなくても、多くの家庭では、ポイント換算で年間10万円相当額なら無理なく獲得できます。

さらに、NHKの受信料、国民年金保険料、民間の保険料の一部などは、年払いにまとめることで割引を受けることができます。UR(都市再生機構)の賃料もまとめて払うと割引になりますが、それ以外でも、こうした「まとめ割引」が可能なケースもあるかもしれません。使うことが決まっている費用であれば、先に払ってしまって割引を受けるというのも、家計に有利に働く選択肢の1つです。


今回紹介したような方法は、いずれも最初だけシステムの構築や研究を伴いますが、一度環境を作ってしまえば以降は自動的に家計に対して良い効能が続いていきます。

人の意思でコントロールをしたり、我慢や忍耐を発動する回数が少なければ、感情に左右されず、ほったらかしで続き、気がついた頃にはまとまった資産形成につながっていきます。

「苦労しているはずなのに報われない」「我慢しているはずなのにおカネが残っていない」、と感じる人は、一度、日々の努力はさておき、ちょっとだけ時間を作ってみてください。その時間で、家計システムの刷新にエネルギーを注いでみてはいかがでしょうか。