川口能活の目 大迫は文句なしのMVP、GK目線で感じる失点シーンの選択肢

 サッカー日本代表は19日、ワールドカップ(W杯)ロシア大会1次リーグH組の初戦でコロンビアを2-1で下し、白星発進した。前半6分にMF香川真司(ドルトムント)のPKで先制すると、同点に追いつかれた後の後半28分にはMF本田圭佑(パチューカ)のCKをFW大迫勇也(ブレーメン)がヘッドで決めて勝ち越しに成功。そのまま1点のリードを死守した。

 相手は開始早々の一発レッドで10人となっており、数的有利を見事に勝利につなげた日本。最高のスタートを切った試合を、W杯4大会出場の経験を持つ元日本代表GK川口能活(SC相模原)はどう見たのか。「THE ANSWER」では自身もアトランタ五輪で共に戦った経験がある西野朗監督の采配、勝敗を分けたポイントなどについてを聞いた。

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 試合開始約1時間前に発表されたスターティングメンバーから、西野朗監督のゲームプランを見て取ることができました。ボランチに柴崎岳選手を起用し、ボールポゼッションしながら攻撃を仕掛け、自分たちが先手を奪うという意思が感じられました。センターバック(CB)に昌子源選手を起用したのはパラグアイ戦のパフォーマンスを評価した上で、スピードのあるコロンビアの前線の選手に対してカバーリング能力を期待したのでしょう。

 初戦の重要性を考えて守備重視で臨むという選択肢もありました。ですが西野監督は選手の個性を生かす戦い方を選びました。先に戦術を決めるのではなく、自分が選んだ23人の個性を生かす采配です。わずか1か月の準備期間の中で選手とたくさんコミュニケーションを取ったことが伝わってきましたし、選手の考えや意見を吸い上げる作業にも力を注いだと思います。日本が最大限の力を発揮できる準備をし、対戦相手をしっかり研究し、そしてこの試合で勝ち点3を取るための戦い方を示したのだと思います。

「複数の要素」が絡み合った失点シーン、GKに求められる瞬時の判断

 いざキックオフすると、日本は素晴らしい立ち上がりを披露してくれました。PK獲得と相手選手の退場を誘ったシーンは幸運や偶然ではなく、コロンビアの最終ラインの背後を狙うという意図があったはずです。この先制点によって重圧やプレッシャーから解放されたのは想像に難くありません。どんな形であれ先制点を奪えたことでポジティブな心理状態になれました。

 それと同時に、早い時間帯に相手が10人になったのも追い風となり、この試合での日本にピンチらしいピンチはほとんどありませんでした。これだけ被決定機の少ない試合は珍しいと思います。

 それでもペナルティエリア付近で狡猾にファウルを誘い、数少ないセットプレーを生かして同点ゴールを決めたコロンビアはさすがでした。直接FKで壁の下を狙うという判断をしたキンテロ選手は素晴らしかったですし、相手を褒めるべきだと思います。

 決められてしまった側のGK目線で話をすると、1つだけの問題ではなく複数の要素が絡み合っています。最初にFK地点からの距離と角度を考えてのポジショニング、次にシュートに対して足を運ぶという技術要素、そして最後にキャッチングか弾き出すかという技術と判断が重なる要素がありました。キャッチングは原則的に両手でチャレンジすることになりますが、その場合は距離が伸びにくい。それに対して弾き出す際は左手一本でセービングできるので距離を伸ばしやすい。すべてを瞬時に判断しなければいけないので一概には言えませんが、意表を突くシュートが飛んできた時点で弾き出してCKに逃げるという選択肢もあったかもしれません。

 1-1の状況で迎えた後半の分水嶺は、コロンビアがハメス・ロドリゲス選手を投入した場面でした。押しも押されもせぬエースで危険な選手なのは間違いありませんが、コンディションが万全ではなかったようであまり脅威にはなりませんでした。加えて運動量が多いタイプの選手ではないので、日本が主導権を握れるようになりました。

「この試合のすべて」といっても過言ではない大迫のプレー

 対照的に、日本は途中出場の本田圭佑選手がCKからアシストし、決定的な仕事をしてくれました。この試合ではベンチスタートだったこともあり、試合後のインタビューでは勝利への満足感だけでなく、悔しさや課題を口にしていました。でも僕は、そこに本田選手のW杯にかける覚悟を感じました。決勝点をアシストした素晴らしいキックは彼の実力ですし、あらためて精神的な強さを感じさせてくれました。

 そして最も印象的な選手を選ぶとしたら大迫勇也選手しかいません。決勝ゴールとなったヘディングシュートも素晴らしかったですが、78分にハメス・ロドリゲス選手のシュートに身体を投げ出してブロックした場面が『この試合のすべて』といっても過言ではありません。前線でボールを引き出すために献身的にランニングし、縦パスを受けて屈強なDFに競り勝ち、さらにゴールを決めて、ゴールも守った。文句なしのMVPです。

 この勝利は決して番狂わせではなく、プラン通りにゲームを進めた結果だと思います。日本がボールを支配している時間のほうが長かったですし、ゲームの中でストレスを感じる時間が少なかった。対南米勢との対戦成績や下馬評から見ると番狂わせかもしれませんが、内容的には日本の完勝でした。

 2010年の南アフリカW杯でも、初戦のカメルーン戦に勝利するまでは不安が大きかったのが本当のところです。この勝利で2戦目以降に向けて精神的な余裕が生まれるのは間違いないですし、雰囲気が良くなることでポジティブに要求し合える状況が生まれます。まだ何も勝ち取ったわけではありませんが、次戦以降はより日本らしいスタイルで伸び伸びとしたサッカーを見せてくれるのではないでしょうか。

(SC相模原GK川口能活=元日本代表/98年フランス大会、02年日韓大会、06年ドイツ大会、10年南アフリカ大会出場)(藤井雅彦 / Masahiko Fujii)