映画賞受賞も「自信はない」くやしさに立ち向かう、高杉真宙の歩み方
夜明けの歌舞伎町。高杉真宙が交差点の真ん中で立ち止まると、見計らったかのように一陣の風が舞い、ロングコートがマントのようにたなびく。車が行き交い、人々が足早に通り過ぎていく中、そこだけ時間の流れがスローになったかのような…。振り向いたその表情は精悍さと、男の子でも青年でもない、男の色気さえ感じさせる。かと思えば、ゴールデン街の路地のあいだからヒョイとこちらをのぞき込むさまは、野良猫のような愛嬌にあふれている。高杉は一瞬も立ち止まることなく、刻一刻と変わり続けている。
撮影/平岩 享 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.スタイリング/石橋修一 ヘアメイク/堤 紗也香
衣装協力/チャイナコート¥37,000、カットソー¥11,000(ラウンダバウト)、パンツ¥37,000(ダイエットブッチャー スリムスキン/ヴェノム tel.03-5728-4765)、シューズ¥9,500(オポジット オブ ブルガリティー/ハイブリッジ ショーケース 六本木店 tel.03-3408-8682)
「本棚はいまもまだ組み立ててないです(苦笑)」
- これも毎回、お尋ねしてますが、ひとり暮らしのほうはいかがですか?
- ひとり暮らしを始めて、なんだかんだでもうすぐ2年が経つんですよ。
- もう2年ですか! あっというまですね。昨年の秋にお話をうかがった際は「漫画をしまうための本棚を買ったはいいけど、まだ組み立てていない」と。
- はい、いまもまだ組み立ててないです(苦笑)。いや、ちょっと言い訳をさせていただいてもいいですか? あんまり言い訳はしたくないんですけど…(笑)。
- どうぞ(笑)。
- 僕としても早く組み立てたい気持ちはやまやまなんですよ。読み返したい漫画もいっぱいあるし、段ボールに入ったままだと何巻まで買ったのかがわからなくなって、買い足せないんですね。それが心苦しくて…早く本棚に背表紙が並んでいる景色が見たいんです。それはまぎれもない真実、本心なんです!
- よくわかりました。が、なかなか組み立てることができない事情が…?
- 先ほども言いましたが、あと数ヶ月で2年になるんです。つまり、契約の更新の時期になるんですけど、じつは引っ越ししたいなと思ってまして。そうすると、大きな本棚を組み立てて、またバラして、本を箱に詰めて…というのは大変だなと。せっかくならこのまま、新しい部屋に運んで、そっちで組み立てたほうがいいんじゃないかと。
- なるほど…。無事、引っ越し先で本棚が組み立てられることを願っています! 自炊のほうはいかがですか?
- 全然、できていないんですよね(苦笑)。
- 家でお酒を飲むことも…。
- ないですね。前もお話したかもしれませんが、家に酒はあるんですよ。友達が勝手に自分が飲む酒を持ってきて、そのまま、うちでボトルキープしているという(笑)。
- そもそも、ドラマの撮影に映画のプロモーションと、忙しい日々が続いていて、家でゆっくり休める時間も少ないのでは?
- というわけでもないんですけどね。時間がないわけではないけど…。相変わらず休みの日はインドアですし(笑)。
2017年は多くの映画賞を受賞「もっと頑張らなきゃ」
- 今年は、映画賞の授賞式への出席も続いていますね。映画『散歩する侵略者』での演技で第9回TAMA映画賞の最優秀新進男優賞に輝き、高杉真宙特集まで開催。第72回毎日映画コンクールでもスポニチグランプリ新人賞を受賞されました。こうして賞という形で評価されて、いかがですか?
- 撮影自体は一昨年で、自分が現場で仕事をしてから、ここまですごく長かったので、何だか変な感じですね。とくに『散歩する侵略者』に関しては、侵略者の宇宙人という自分でもよくわからない役で、自分なりに知らないものを探していくような作業で…。
- 「これ」というはっきりした正解があるわけでもなく…。
- そうなんです。「こんな感じかな?」とか「こうしたいな」というイメージを持ちつつも模索しながら作っていったので。正解・不正解はいまでもないと思うけど、こうして評価していただけるのはうれしいです。少しでもいいものに近づけることができたのかなと。
- こうして目に見える賞という形で評価されることが、自信になったり、ここまでやってきたことが間違いではなかったという手応えにつながることは?
- それは全然ないですね。
- 即答で、しかも「全然」と。
- そうなんです。うれしいのは事実ですし、受賞の場でも言いましたが、賞をいただいたことで「もっと頑張らなきゃ」という気持ちはあるんですけど。過去にこの賞を受賞された方々がたくさんいて、そういう先輩方はそのあと、さらに活躍されて、主演賞や助演賞を受賞されたりしていて…。
- そうそうたる俳優さんたちが、新人賞から日本を代表する俳優へとステップアップを遂げていますね。
- 自分もそこにたどり着かなきゃという気持ちもあるし、うれしさもあるんですけど、何て言ったらいいのかな…? くやしさなのかな?
- 受賞に対してくやしさを感じているということですか?
- 自分でもうまく説明できないんですけど、本当にこの賞、この評価に値する演技を自分は見せられていたのか? もちろん(評価を)疑っているというわけではないんですが、そもそもこの作品、役柄自体が素晴らしいと思うので、自分が演じていなくともこの賞を受賞されていたんじゃないかな?と考えてしまったり…(苦笑)。
- 超ネガティブモンスター(笑)。とはいえ、それが俳優・高杉真宙の歩み方なんでしょうね。
- そうなんです。結局、自信にはなっていないんですけど、そこで「もっと頑張らなきゃ」って。
- 受賞を“励み”にするというよりは、いい意味での“プレッシャー”にしているような…?
- 受賞に対して、何よりも自分の中にギャップを感じているからこそ、そこに追いつくように「頑張らなきゃ」という気持ちなんですよね。
- ただ、ファンや応援している周りの人々にとっても、高杉さんが賞という形で評価され、晴れの舞台に立たれるのはすごくうれしいことだと思います。
- そうなんですよね。普段から支えてくださる方たちが自分のことのように喜んでくださって…。うん、賞をいただく一番の喜びはそこかもしれませんね。
- TAMA映画賞では、映画『トリガール!』で共演された間宮祥太朗さんと一緒に新進男優賞を受賞されました。毎日映画コンクールでは男優主演賞が菅田将暉さん(『あゝ荒野』)、女優主演賞は長澤まさみさん(『散歩する侵略者』)と、10代の頃に別作品で共演経験がある方々で、こうした場での再会も感慨深いものがありますね。
- それはすごくありますね。
- 長澤さんは授賞式の場で、2012年のドラマ『高校入試』(フジテレビ系)での共演時の思い出から、今回の『散歩する侵略者』での再会で感じた成長にまで言及されていて…。
- そうなんです。『高校入試』では、長澤さんとは先生と生徒という関係で共演したんです。当時の僕はまだまだ経験も浅くて、そんな時期に共演させていただいた方と、別作品でまたご一緒できるのはうれしいですし、『高校入試』という作品自体、僕にとってはすごく思い入れの強い作品でして。
- いま振り返ると、すごい俳優陣が顔をそろえています。
- すごく素敵なんですよ。清水尋也ともあの作品で初めて会ったんです。そのあと、映画『渇き。』でも一緒でしたけど、当時からスゴかったなぁ…。実年齢は僕よりも3つ下なんですけど、大人びていて。
- さまざまな作品で出会いがあり、今回のように映画賞の場や、別の作品で再び顔を合わせるというのは素敵なことですね。
- そこに関しては本当に恵まれているなと感じます。共演者のみなさんとの出会いだけでなく、スタッフさんやこうした取材の機会もそうなんですけど「もっと頑張らないと、次にまたお会いできる機会はないかもしれない。またお会いできるように頑張ろう」という気持ちでいるので、それが実るのはすごくうれしいです。
『賭ケグルイ』での“ポチ”役は、英 勉監督も太鼓判
- 昨年より映画が次々と公開される一方で、ドラマへの出演も続いています。まず、昨年10月からは葉山奨之さんとW主演を務めた『セトウツミ』(テレビ東京系)が放送されました。前回、お話をうかがった際は、まさに同作の撮影の真っ最中でしたが、終えられて、改めていかがですか?
- 本当に大変な仕事でした。これまでやってきた作品の中でもトップクラスの大変さだったと思います。まずオール関西弁という苦労がある中で、会話劇としてどれだけ演技を削りながらできるのか? 制限がある中で伝えていくという苦しさがすごく大きかったです。
- 撮影が終わった瞬間は?
- 解放感しかなかったです(笑)。「あぁぁぁぁぁ!!」って。
- 泣きそうに?
- 寂しさでもなく、達成感でもなく、解放感で泣きそうになってましたね。「終わったんだぁ…」って(笑)。とにかく終わったということへの喜びが大きかったです。
- そこまでの苦労が…。続いて今年1月からは、こちらも人気漫画を原作とした『賭ケグルイ』(MBS・TBS系)の放送がスタートしました。『セトウツミ』と同じ高校生役とはいえ、タイプはまったく異なります。芝居のタイプとしても「削る」お芝居ではなく、やや大げさに「見せる」お芝居が求められているかと。
- そうなんです。英 勉監督とは『トリガール!』に続いてのお仕事だったんですけど、毎回、いままで見たことのない、自分でさえも知らない自分が見られるという感覚と確信を持って、現場に行っていました。
- ギャンブルの勝利ですべてが決まる学園を舞台にした本作で、高杉さんは最弱層に堕ちて“ポチ”扱いされたり、鎖でつながれたりと、散々な目に遭う鈴井涼太を演じています。
- これまでやったことのないタイプの役で、これを僕がやらせていただけるというのがすごくうれしかったし、演じていて楽しかったです。英さんは僕に、こういう役が「似合う。絶対に合ってるよ」と言ってくださって。
- そうなんですね! 『トリガール!』で演じられた役ともまったく異なりますが…。
- ほかの作品や役柄を見てというわけじゃなく、おそらく『トリガール!』の撮影を通じて、僕に接している中で「高杉にはこれだな」と思っていただけたんでしょうね。それがすごくうれしいです!
- 現時点(※取材が行われたのは2月下旬)でまだ放送は続いていますし、この先、どういう展開になるのかわかりませんが、ファンのあいだでも続編や映画化を望む声もあがっています。
- 映画、やりたいですね。僕自身が見たいです!(笑)
ディーン・フジオカから、大人の男性らしさを学びたい
- そして、4月からはディーン・フジオカさん主演のドラマ『モンテ・クリスト伯 -華麗なる復讐-』(フジテレビ系)への出演が決定しています。
- いまの時点でまだ撮影は始まってないんですけど、昨日は衣装合わせに行ってきました。
- ディーンさんをはじめ、大倉忠義(関ジャニ∞)さん、新井浩文さん、高橋克典さんに山本美月さんと、これまたすごい面々がそろっていますね。
- スゴいですよね。しかもそれぞれの役柄が、ハンパじゃなく濃いんですよ!(笑) また人間関係がものすごく入り組んでいて、台本や企画書を読みながらこっちがわけわからなくなるくらいで。
- 複雑に入り組んだサスペンスになっているんですね?
- いい意味でゴチャゴチャしていて、相関図の矢印も激しいですけど(笑)、そこが面白いです。読み進めていくと「え? ココとココがつながるのか!」という展開があって、期待を裏切られたり…。すごく面白くなりそうです。
- 高杉さんが演じられる守尾信一朗は、ディーンさんが演じる柴門 暖(さいもん・だん)がかつて働いていた漁業会社の社長・守尾英一朗のひとり息子で、ある事情から父の代理で社長の座を継ぐことに。幸せを奪った者たちへの復讐を誓う柴門が、唯一、心を許す疑似的な弟のような存在ともうかがいました。
- 濃い面々の中で、唯一の“良心”と言える存在であってほしいと監督からは言われています。
- ディーンさんとは初共演ですよね?
- そうです。まだお会いできてないんですが、どの現場でもディーンさんの話を聞くと、みなさん「紳士」ということをおっしゃるんですよ。ディーンさんとご一緒する中で、素敵な大人の男性像というものを見て、学ぶことができたらと思っています。
- ここ最近、学生役が多く、同世代との共演が中心でしたが、今回は初めての社会人役で、年上のメンバーの中に飛び込むことになりますね?
- そのほうが逆に落ち着きますね(笑)。自分にとっては、大人の方がたくさんいる現場が一番やりやすいので。同世代ばかりだと、何を話したらいいんだろう?と悩んでしまうので…。
- 普通は同世代が多いほうが、共通の話題が多くて会話が弾みそうですけど…。
- それがなかなか難しくて、何を話していいのかわかんなくて…(笑)。
- 年上の方々ばかりだと、ずっと敬語で話すこともできますし。
- そうなんですよ! それは本当に大きいです。
- 以前、別の取材で「敬語は日本の素晴らしい文化だ」という名言を口にされていましたね。
- いや、本当に敬語って素晴らしいなと。距離感って本当に難しいじゃないですか? 同世代に対しては、最初は敬語で、でもずっとそのままじゃおかしいから、どこかでタメ語になるものなんでしょうけど…じゃあ、どこから?と。その距離をどう取って、どう縮めていくのかが本当に難しいんですよ。
- 年上であれば、ずっと敬語でも自然な状態なので、あれこれ気にせずにすむ?
- 敬語で話しているからといって、決して距離が開きすぎているわけでもないし、もちろん失礼でもないし。敬語って絶妙だなぁと。