いまトップダウン型のマネジメントに限界が来ている。実績を持つ上司が指示を出し続けた結果、次世代が全然育たないという事態が起きているのだ。それを打開する有効な方法が、対話による「コーチ型マネジメント」。コーチングの第一人者であるコーチ・エィの桜井一紀氏に、部下を自立に導くコーチングの極意を聞いた。

優秀な上司ほど陥る「罠」。
教えれば教えるほど部下は自ら学ぼうとしなくなる

 コーチングとは、もともとスポーツの世界で使われていた言葉である。そのため今なお、コーチングについて誤解されている部分がある、と桜井一紀氏は言う。

「スポーツの世界では、経験のある者がない者に指導する方法が一般的です。たとえばプロ野球の名選手が、自分のやり方を若い選手に教えるというやり方。そのために、コーチには“教える人”というイメージが強くあります。でもそれは一方的に教えるティーチングです。コーチングとはティーチングとは違い、対話を通して自分で考えることを助けること。対話によって、両者の間に新しいものが生み出されることです」

 もともと上司は経験上、いろいろなことが見えてしまうという欠点がある。よかれと思って、転ばぬ先の杖、細かい指示を出しがちなのだ。プレイヤーとして結果を出している優秀なマネージャーほど、そうした傾向がある。しかし一生懸命教えれば教えるほど、部下は“どうせ上司が教えてくれるのだから”と、自ら学ぼうとしなくなる。

「ふと周りを見ると、自立した部下が全然育っていない。あらゆる場面で自分が判断して指示を出さなければならない、次世代が全然育っていない、という事態に陥るのです。部下の主体性を高めるという視点から見れば、指示やアドバイスをしないというコミュニケーションの形が、極めて有効になります。それを戦略的にまとめたものがコーチングであり、今、多くのリーダーやマネージャーに求められている手法なのです」

 そもそもビジネスの現場ではいま、トップダウン型のマネジメントが限界に来ていると言われている。かつて高度成長期には、上司が答えを知っていて、それを部下に教えるという構図が成立していた。だが価値観が多様化する社会の中で、いま上司は部下に教える答えを失いつつある。もちろん部下も答えを持っているわけではない。

「そんな時代だからこそ、上司が教えるティーチングではなく、対話によって新しいものを生み出すコーチングが必要になっているのです」

 もちろん、マネジメントのすべてをコーチングに変える必要はない。ティーチングが必要な場面もある。大切なのは、コーチングをマネジメントに応用していくことであり、それが「コーチ型マネジメント」なのである。

続きはこちら(ダイヤモンド・オンラインへの会員登録が必要な場合があります)