この写真の中央、2つの電極の間にぽつんとみえる小さな白い点は、たった1個の原子が放っている光です。これはイオントラップと呼ばれる装置の中のイオン化した単一のストロンチウム原子で、両方から伸びる電極の間は約2mmほど。しかしそれは(画像では拡大表示になっているかもしれないものの)実際に目視できる光です。
この装置がどうやって単一の原子を捕捉するかを超絶大雑把に説明すると、まずレーザーのエネルギーでストロンチウム原子の電子を励起させてイオン化、それを超高真空な空間に閉じ込め、4つの電極で"ローテーティングサドルポテンシャル"と呼ばれるエネルギー状態を形成してその場に保持するとのこと。
保持状態が安定したら、複数の方向からレーザーを照射してイオンを絶対零度にまで冷却すると光を吸収したイオンが青紫色の光を放出します。ストロンチウムの原子半径はわずか1/4ナノメートルほどの大きさしかないものの、その発光はそれが実際の何百倍もの大きさがあるように見せます。
この状態ですでに目視でも原子1個が放つ光が見えています。そして、この実験を行ったオックスフォード大学の量子物理学者のDavid Nadlinger教授は、マクロ撮影用にEF 50mm f/1.8レンズとエクステンションチューブを装着したキヤノンEOS 5D Mark IIをセットして、この光の点を撮影しました。
ちなみに、このような写真を撮影したのはNadlinger教授が初めてではありません。知られた例としてはイオントラップを開発し、1989年にはノーベル物理学賞を受賞したハンス・デーメルト氏が、単独のバリウム原子の撮影を行っています。とはいえ、これは原子レベルのミクロの世界にまさにスポットライトを当て、それがわれわれの住む世界を構成するもののひとつであることを示す、貴重な写真といえそうです。