人に何かを頼んだとき、どうして言った通りにしてくれないのか。その原因は、あなた自身の言い方や口グセにあるのかもしれない。24の症例とともに、改善するための「処方箋」を明らかにしよう。今回は、経営コンサルタントの小宮一慶氏に「なぜダメ上司は"自分に甘く人に厳しい"か」について聞いた――。(全24回)

※本稿は、「プレジデント」(2016年10月31日号)の特集「『超』ウケる言い方入門」の記事を再編集したものです。

■反省できない人に出世も成功もない

コンサルティング業を続けるうちに、成功する人が共通して持つ資質や要素に気づきました。京セラの稲盛和夫さんもおっしゃるように「能力」「熱意」「考え方」です。3つの掛け算で成功できるかどうかが決まります。

このうち最も重要なのが「考え方」で、ビジネスを成功させる根本になります。「能力」や「熱意」も非常に重要ですが、例えば経営者の場合、能力の高い優秀な部下を雇うことができます。つまり「能力」はお金で買えるんです。ですが、「考え方」はお金では買えない。こうした視点で見ると論語や老子といった古典に書いてあることや成功した経営者の残した言葉は、すべて「考え方」に関するものだということに気がつきます。

企業では、若いうちは能力が最も重視されます。また最初は、誰がついていくべき優れた上司なのか、見分けるのが難しいと思います。自分のことを思って厳しいことを言ってくれているのか、無能な上司から嫌みを言われているのか、正しく判断できないケースも多いでしょう。ですので、若いうちは自分の能力を磨くことに集中して、同時に人を見る目を養うことです。

一方で、立場が上にいけばいくほど、考え方が重要になります。しっかりした考え方がないと、自分には甘いくせに部下には厳しい芯のない上司になってしまいます。そうならないために、3つのことが大事だと思います。論語でもその重要性が繰り返し説かれているので、紹介したいと思います。

■自分の考え方を客観的な視点で検証する

1つ目は反省することです。論語では「吾(われ)日に吾が身を三省(さんせい)す」という言葉で自分の生き方について反省することの大切さを説いています。これまで多くの経営者に会ってきましたが、成功するかどうかを最後に分けるのが、この要素です。ほかの部分は非常に優れているのに、反省だけができずうまくいかないという人を多く見てきました。それくらい大切なことです。

2つ目は自分を高めることです。論語には「人の己(おのれ)を知らざるを憂えず、人を知らざるを憂う」とあります。人が自分を理解してくれないと悩むのではなく、自分が人のことを理解できないことを悩むべきだという意味です。上司の立場になっても、今の自分に満足せず、生き方の勉強をし続けることが必要です。

3つ目は利他心を身に付けることです。論語では「苟(いや)しくも仁(じん)に志せば、悪しきこと無きなり」「我れ仁を欲すれば、斯(ここ)に仁至る」など、利他心を意味する「仁」という言葉が繰り返し出てきます。仁は「リーダーの持つ人をはぐくむ愛情」という意味で、上の立場に立つ人には必須となる資質です。仁を欠くと、必ずビジネスで失敗します。東芝の不正会計や三菱自動車の燃費データ不正など、他人のことを考えることができない、仁を欠いた経営者による行動と言えるでしょう。

論語のような古典は、長い間にわたり多くの人が参考にしてきた知恵が詰まっています。自分の考え方を客観的な視点で検証するための助けになる。古典をそのまま読むのは難しいので、最初は解説書を読むのがお勧めです。

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小宮一慶(こみや・かずよし)
経営コンサルタント。小宮コンサルタンツ代表。京都大学法学部卒業後、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。在職中、米国ダートマス大学タック経営大学院に留学、MBA取得。1991年岡本アソシエイツ取締役等を経て、95年独立。著書に『人生が変わる最高の教科書「論語」』。

 

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(小宮コンサルタンツ代表、経営コンサルタント 小宮 一慶 構成=吉田洋平 撮影=永井 浩)