「MLBからのオファーがなければイチローは日本に戻るかもしれない」

 1月16日、そんなタイトルの記事が『MLB.com』から発信されて大きな話題となった。このストーリーは、日本人選手に関連した記事を書くことが多いベテラン記者のバリー・ブルームが、ジョン・ボッグス代理人の言葉を交えて構成したものだ。


マーリンズをFAになり、新天地を探すイチロー

「(イチローが)どのチームにとっても素晴らしい財産になることに、誰かが気づいてくれるという期待を持ち続けている」

「当初は、マリナーズがイチローを復帰させることを望んでいた。多くのチームが積極的になってくれればと思うが、(FAマーケットに)まだ多くの外野手が残っていることは理解している」

「メッツの可能性もあったが、彼らはジェイ・ブルースと契約した。レッズがビリー・ハミルトンを放出すれば可能性はあったが、そうはならなかった。6チームと接触し、私たちは連絡を待っているところだ」

 記事内に記されたこのような言葉からは、チーム探しが思うように進んでいない事実が真実味をもって伝わってくる。その後、別記事で新たにサンフランシスコ・ジャイアンツの名も出ているようだが、 彼らが外野手を探しているのは事実ではあるものの、「連絡を取っている球団のひとつ」の枠を出ないだろう。

 もっとも、44歳になったイチローの”就職活動”が簡単ではないことは、かねてから予想されていた。スター選手やレギュラークラス、年俸の高い選手から順に行き先が決まっていくのがシーズンオフの通例で、昨季は年俸200万ドル(約2億2000万円)の控え選手だったイチローの去就が後回しになるのは当然のことだからだ。

 代理人のボッグスは、記事内で「(日本球界復帰は)本当に考えたくない」とも語っており、正式に日本行きについて述べたわけでもない。したがって、この記事のタイトルに関しては、ほぼ”飛ばし”だと言っていい。

 メジャーでの来季のチーム探しを考えると、イチローの立場がより厳しくなっているのは事実だろう。なぜなら、今オフはMLB史上でも空前のスローなオフシーズンになっているからだ。

 アメリカで最も権威のあるスポーツ総合誌の『スポーツ・イラストレイテッド』や『ESPN.com』が発表した、FA選手ランキングのトップ10にランクされた選手のうち、1月17日の時点で来季の所属チームが決まっているのは、わずかに2人だけ。

 春季キャンプ開始前まで1カ月を切ったにもかかわらず、ダルビッシュ有をはじめとする多くのスター選手たちが依然として契約交渉を続けている。新たに3年以上の契約をゲットした選手は皆無であり、さまざまなな意味で”異常事態”なオフだと言えよう。

 これほどスローペースになった理由としては、2016年に締結された新労使協定で”ぜいたく税”の税率が厳しくなったことや、データ重視のGMが増えたことで各チームが長期契約を嫌う傾向にあること、1年後のオフが”大豊作”ゆえに経費削減を目指すチームが多いことなどが挙げられる。

 それでも、ダルビッシュ、ジェイク・アリエッタ、エリック・ホズマーといった大物たちは、最終的には総額1億ドル(約111億円)前後の大型契約を得るはずだ。ただ、こうしてトップの決断が遅れていることは、中堅、もしくはメジャー当落戦上にいるFA選手たちをより厳しい状況へと追い込んでいる。必然的にその去就はさらに後回しになり、準備の時間と選択の余地が限られてしまうのだ。

 イチローに関しても、いずれレギュラー格の選手が確定したチームから何らかのオファーが届くとしても、2月〜3月まで持ち越される可能性が高い。昨季のイチローは、長打率で自己ワースト2位、守備防御点でも「-1」と優れた数字が残せなかっただけに、条件は相当に厳しいものになるはずだ。

 どこかのチームとマイナー契約を結んだ上で、春季キャンプに招待されるという悪条件になる可能性も十分にあり得る。また、未所属のままキャンプが開始され、外野手にケガ人が出たチームから急に声がかかるということもあるかもしれない。

「打席の機会さえ与えれば、結果を出すことはわかっている」

 そんな代理人の言葉には多少の身びいきもあるはずだが、昨季もオールスター以降では打率.299(87打数26安打)と、イチローは依然としてメジャーでも一定の成績を残す力がある。昨季の終盤に、故障者が続出したメッツが青木宣親を獲得したような形で、イチローの安定感を魅力に感じるチームは出てくるかもしれない。

 ただ、そこまで待つほどアメリカに固執するのか、ある程度のところで見切りをつけて日本のチームの話を聞くのかといった判断は、代理人の最新のコメントからもまだ見えてこない。

 はっきりしているのは、今オフの交渉が長期戦になるだろうということだけ。2014年にFAになった際には2015年1月27日にマーリンズ入りが決まったが、今回はさらに遅れることが濃厚だ。日米両国に数多く存在するイチローのファンにとって、やきもきする時間がもうしばらく続くことは間違いない。

◆メジャーの超大物たちが15年前に語っていた「イチローの衝撃」>>

◆デストラーデ「野茂は人間だけど、イチローはエイリアンだね」>>