“リメイク声優”森久保祥太郎が明かす驚きと喜び「僕の芝居って昭和っぽいのかな?」
森久保祥太郎の声は華やかで独特だ。彼だけが表現できる質感のそれは、役柄上どんなに抑えて発声したとしても、作品のなかにじわじわとにじみ出て、知らぬまに作品の色となる。インタビューのなかで森久保は「僕の芝居って昭和っぽいのかな?」と笑ったが、その言葉で合点がいった。まさに彼の声は昭和に放送されていたアニメの、あの混沌とした、匂い立つような世界観にピッタリなのだ――“リメイク声優”森久保祥太郎が満を持して昭和のヒーロー・兜 甲児に挑む。
撮影/川野結李歌 取材・文/とみたまい 制作/iD inc.じつは“昭和ものアニメ”の出演が多かった!?
- 1972年に誕生した『マジンガーZ』は“乗り込み型ロボット”という新しい概念をロボットアニメ界にもたらし、爆発的なヒットを記録しました。今作『劇場版 マジンガーZ / INFINITY』では、TVアニメ『マジンガーZ』で悪の科学者Dr.ヘル(声/石塚運昇)と壮絶な戦いを繰り広げた兜 甲児の10年後という設定で物語が描かれていますが、甲児を演じることが決まったときはどのように感じましたか?
- 今回の役はオーディションで決まったんですが、まず、オーディションの際に「必殺技の叫びに関しては、TVアニメ『マジンガーZ』で兜 甲児を演じていらした石丸博也さんのお芝居をオマージュしてほしい」とオーダーがあったんです。ですから、スタジオにも石丸さんが演じる甲児の声が流れていて、それを聞いてからオーディションに臨みました。
- そういったオーディションはあまり聞いたことがありませんね…。
- そうですね。あまりない形式だったので、正直なところ、手応えがあったのかどうか全然わからなかったんです。「どうなるのかなあ?」って思っていたので、「兜 甲児役で決まりました」って聞いたときは、ちょっと信じられなかったですね。
- 嬉しさよりも先に、「信じられない」という驚きがあった感じでしょうか?
- もちろん嬉しさもありました。僕自身、子どもの頃に見ていた作品でもありますし……。声優を始めて20数年経ったこのタイミングで、こういった大きな作品で主役を演じるチャンスをいただけたのは、とても光栄なことでした。と同時に、僕はわりと……いわゆる“昭和ものアニメ”に出演させていただくことが多いんですね。
- “昭和ものアニメ”ですか?
- 昭和に放送されたアニメのリメイク作品やリバイバル作品ですね。僕、けっこう出演させていただいているんですよ。“リメイク声優”と言いますか(笑)。だから、「僕の芝居って昭和っぽいのかな?」って思っていました。今回、甲児役をいただけたことによって、「僕はやっぱり、あの時代のアニメが似合うのかな?」って再確認したと同時に、嬉しくも思いましたね。
- 今作の収録は短期間でギュッと集中されていたようで。アフレコにはどれくらいの時間を要しましたか?
- 甲児が出てくるシーンだけでも2日間まるまる、朝から晩まで収録していたんです。だから、僕と言うよりは、作業員や街の人など周りのキャラクターをひとりで何役も演じられる方々のほうが、大変だったんじゃないかなあと思いましたね。2日目の最後にガヤ(※雑踏での話し声や、戦闘シーンで逃げ惑う声など、ガヤガヤした効果音のこと)をまとめて録ったんですが、それが終わった瞬間になんともいえない連帯感が生まれていました(笑)。
- 「乗り切った!」みたいな?(笑)
- 「俺たち、2日間乗り切ったぞー! 頑張った!」って、あの場にいたキャストのみなさんが思っていたんじゃないでしょうか。いい意味で手強かったというか、収録し応えがあった作品だったので、「みんなで乗り越えた!」という感じがありましたね。
- それは連帯感が生まれますね。
- 終わったあとはもうクッタクタでしたが……なんだかそのまま帰りたくなくて(笑)。ちょうど取材で僕と茅野愛衣ちゃん(弓 さやか役)、(上坂)すみれちゃん(リサ役)、花江(夏樹)くん(兜 シロー役)が残っていたので、「ご飯に行かない?」って誘って、初めて4人で食事しました。本当はね、共演した数十人のキャストさん全員にお声がけしたかったんだけどね。
花江夏樹が演じるシローに「ああ、いいなあ」と思った
- 今作では先ほどもお話に出てきた、兜 甲児の初代声優・石丸博也さんが統合軍司令役として登場しています。甲児について、石丸さんとはなにかお話されましたか?
- 今回スタジオでお会いすることについて、僕自身はちょっとドキドキしていたんです。もちろんこれまでもご一緒したことはありますが、こういった形での共演はないので……。「今回、兜 甲児を演じさせていただきます。必殺技に関しては、石丸さんのお芝居をオマージュするようにと演出が入っているので、当時のお話や参考になることがありましたらお聞かせいただけますか?」って、改めてご挨拶させていただいたんです。
- 石丸さんはどうお答えになったのでしょう?
- 「忘れちゃったよ、昔のことだから。好きなようにやるといいよ」と。おそらく、「俺のことは気にしなくていいよ」っていう意味なんでしょうね。そうやってとても気さくに接してくださったので、胸をお借りするつもりで演じました。いい緊張感もある2日間でしたね。
- 先輩方のお芝居も見どころのひとつですね。
- 本当にもう、「そうそう、それだよね!」っていうお芝居をされるんですよね。たとえば、ボス役の高木 渉さん、ヌケ役の菊池正美さん、ムチャ役の山口勝平さんの掛け合いとか……収録のときに見ていてもすごい楽しくて。生意気な言い方をすると、本当に安心して見ていられるお芝居で、あの3キャラが出てくるシーンは大好きです。
- 森久保さん演じる甲児は、先ほどお話に出てきた茅野さん、上坂さん、花江さんなど、若い声優さんとの掛け合いが多かった印象です。
- そうですね。3人ともよく知ってはいましたが、今回のように近い関係性の役どころでお芝居したのはほぼ初めてだったので、すごく新鮮に楽しめました。花江くんはね、本当に素直でストレートなお芝居をするんですよ。「ああ、いいなあ」って思いましたね。
- たとえばどんなところでしょう?
- オーディションから収録まで、期間がけっこう空いたんですね。途中で一度だけ読み合わせをする機会があって、監督とキャストでシーンやセリフについてのディスカッションをしたんですが、「もっと声を若めに」とか「大人な感じで落ち着いて」というような、キャラクターについての細かい演出はなかったんです。
- シーンやセリフの解釈にフォーカスされた読み合わせだった?
- そうですね。なので、キャラクター作りに関して……僕は初日を迎えたときに少し不安だったんです。「自分が考えてきたものは合ってるかな?」って。でも、なんの迷いもない花江くんの芝居がポーンって入ってきて、「ああ、すごくノビノビとやってるなあ」って勇気づけられたというか。「ずっとシローを演じてきたのかな?」って思うぐらい(笑)、最初からとても馴染んでいて、さすがだなと思いました。
- 「いま自分は、兜 甲児を演じているんだなあ」と実感したシーンやセリフはありましたか?
- マジンガーZのパイロットだった甲児が今作では科学者に転身しているので、序盤はそれらしい物言いをしているんですが、だんだん……とくに後半、戦闘に出て、「科学者・兜 甲児」を保っていられなくなったあの感じ(笑)。“パイロットだった頃の血が騒ぐ”みたいな状態になったときは、「来た来た来た」って思いました。
- 感情が抑えきれなくなっている感じですね(笑)。
- あとは、最初に「パイルダーオン」(※操縦者が乗り込む小型飛行メカ・パイルダーがマジンガーZの頭部にドッキングするときに発するセリフ)って言ったときですね。
40歳を過ぎて…「かつての自分から次のステージへ」
- 今作の甲児について、TVアニメのときからの変化を感じる部分はありましたか?
- 10年前にマジンガーZに乗っていたときは、目の前で起きたことに対する衝動だけで動いていたと思うんですよね。「俺がやんなきゃ誰がやる! 俺がみんなを守るんだ!」って、血気盛んに“悪”と戦っていたんでしょうけれど、今作では歳を重ねて視野が広がったなかで、すごく難しい問題を突きつけられているんじゃないかなって思いました。
- 難しい問題とはどのような点でしょうか?
- 今作のキャッチコピーにも「それは、神にも悪魔にもなれる――」とありますが、そういった善と悪について、戦闘中のDr.ヘルとの会話でも……以前だったら「なにを言ってるんだ、このやろう!」って思っていたことも、大人になったからこそ「敵だけど、アイツの言ってることにも一理あるかもしれない」って“揺らぎ”が見える気がしていて。そこが『劇場版 マジンガーZ / INFINITY』の面白さであって、テーマでもあるんでしょうね。
- なるほど。
- 神と悪の表裏一体感……それを突きつけられた甲児も、理解できて悩めるぐらいには大人になったんだなって思いました。
- そういった感情をお芝居で表現する際に、なにをヒントにするのでしょう?
- んー、なんだろうなあ。頭では理解できるけど、心が理解できないことって普通にあるじゃないですか。たぶん歳を重ねれば重ねるほど、たくさん出てくると思うんですが……。僕自身、日常のなかにもけっこうあるので、そういった感覚をフィードバックしながら演じたような気がしますね。
- 森久保さんご自身と甲児が似ているところはありますか?
- あそこまで鈍くはないと思うんだけど(笑)。でも……僕も20代から30歳くらいまで「こう言ったらこうなんだ!」みたいな、我が強いところがありました。それが、40歳に近づくに従ってちょっとずつ変わっていって。この歳になってやっとってところですかね。
- どんな変化があったのでしょうか?
- 40歳を過ぎてここ最近は……まず、いろんなものを理解しよう、享受しようって思うようになりました。やっとこの歳になって…ははは! だから甲児の、かつての自分から次のステージへ進もうとしている感じは、すごく共感できるものがありました。
- 根っこのところは似ている?
- そうですね、根底にあるものはすごく似ている気がします。(甲児は)あまり器用じゃないですよね。頭で考えて動くタイプではないけれど、「やっぱりちゃんと考えなきゃダメだな」って思うようになってきたんじゃないですかね。だから……すぐには人に理解されないというか、「あの人、なにを考えてるの?」って言われがちな人だと思いますし、だとしたら、僕と似ています(笑)。