お年玉は親が預かるべきか、そのまま子供にわたすべきか。ファイナンシャルプランナーの山崎俊輔さんは「あえて子供にわたして、好きなものを買わせたほうがいい。明らかにムダ遣いと思えるものでもいい」といいます。その理由とは――。

■賢い親は、子がお年玉をどう使おうが口うるさく言わない

本連載では「あなたとお金の生存戦略」と題して、お金との付き合い方を考えています。今回のテーマは「子供のお年玉」。ポイントは「いくら与えればいいか」ではなく、「どのように使わせるか」という点です。

年始のあいさつで実家に帰省したり、親戚の家に寄ったりすると、子供が「お年玉」をもらうことになります。子供が幼少の頃によくあるパターンは「親が預かっておく」というものでしょう。「いつか使うときまで預かっておいてあげる」。そう言って分別管理せず、親の日常生活費と混ざってしまう、という家庭もあるのではないでしょうか。

しかし、子供が成長してくるとだんだん「これは自分がもらっているものではないか?」という意識が芽生え、小学生にもなればその思いは確定的となります。どこかで子供自身がそのお金を受け取る方式に切り替えていかざるを得ません。

このとき親が心配するのは「使い道」です。子供のこづかいの使い方は親としては見過ごせないものです。額の大きいお年玉はなおさらのことでしょう。つい口やかましく「あれはダメ」「これは買っていい」と使い道にも口を出してしまいます。しかし、これでは子供の金銭教育になりません。

▼金銭教育の課題は「自分で考える」「失敗もすること」

子供にとって、おこづかいとお年玉を使う術を覚えることは金銭教育の重要なステップです。いくつかのテーマをあげれば……。

(1)一定の予算枠でやりくりする管理を覚える
(2)欲しいモノの優先付けをし、取捨選択することを覚える
(3)予算に収まらないものはガマンすることを覚える(今買わず、お金を残して貯めることも選択肢)

ことから始まり、

(4)自分で考え自分の欲しいものを手に入れるうれしさを学ぶ
(5)欲しいモノを得られたときの感動や喜びを覚える

この(4)(5)を習得して「お金の使い方を覚える」ことをマスターしたことになります。親は(1)〜(3)を教えればよいわけではありません。(4)(5)を覚えることまでが「1セット」です。

■「浪費や衝動買いの失敗」をお年玉でさせる

そして、本当に必要なのは「自分で考える」というプロセスの経験と、「失敗をする」ということです。

適切なゴールに親が導いてしまうことは簡単です。しかし、それは親の希望するゴールであることも多い。それでは、本人がお金について考える機会はありません。使い道について親が適宜相談を受けて関わることはかまいませんが、自分なりに使い道を考えさせることが大切です。

例えば、「紙に欲しいモノを自由に書き出し(親はダメ出ししない)」「金額は希望順などで並べ替える(親はアドバイスしていい)」、などのプロセスを経ることで、子供はお金の使い方を覚えていくのです。もちろん、自分で考え、うまく買い物ができ、それを楽しめた場合は、上手に使えたことを褒めてあげてください。

▼大人になってお金で失敗するよりお年玉で失敗したほうがいい

お年玉に関して、もうひとつ大事なことは「失敗」の経験です。失敗の経験をその後の人生の糧になります。転んでヒザをすりむいた人は転ばない歩き方を考えます。テストで間違えた人は、次は間違えないようにします。手痛い失恋をした人はその経験を活かして同じ過ちを犯さないようにすることができます。

お金の使い方も同様です。社会人になってから「衝動買いで250万円の車、全額ローンで買っちゃった」とか「急に行きたくなったからリボ払いで20万円の旅行プランを組んできちゃった」というような買い物をさせてはいけません。こうした衝動買いが続けば、老後まで続く本人のマネープランはかなり危ういものになるのは必至です。

しかし社会人になった子供のお金の使い方をあれこれ口を出すわけにはいきません。子供が社会人になる前、できればおこづかいやお年玉のレベル、数千円から数万円のレベルで失敗をさせておく。そのことが本人の将来にとっていいことなのです。

■お年玉で子供にガチャを引かせるべき理由

親が使い方に口出ししたくなるのはこういうシーンでしょう。「それは今欲しいオモチャやゲームソフトかもしれないが、絶対に2回触って飽きるよ」「Aという商品よりBのほうが満足度は高いよ」。しかし、すべて親が導いていては子供の成長もないのです。

金銭教育のテキストには、子供に向けて「失敗してみよう」と“推奨”するような内容は書かれていません。しかし、家庭で必要なのは「失敗をさせて、次に活かす」ような“攻め”の金銭教育なのだと思います。

▼スマホゲームのガチャに5000円使ってもぐっとこらえて見守ろう

2018年のお年玉の使い道については、親はぐっとこらえて、あえて子供の判断を尊重し、やりたいようにさせてみてください。

どこまで許すかは子供の年齢や金額を見ながら、やんわりとアドバイスしてもいいでしょう。例えば、中学生や高校生であれば、夢中になっているスマホゲームのガチャ(一定の確率でキャラやアイテムを得られる課金システム)に5000円を突っ込んで、数十分でお金をなくしてしまったとしても、そこから得られる経験(目当てのモノが入手できず、むなしさしか残らないという失敗経験)の価値は数十年先まで生きるのではないかと思います。

もしかしたら将来パチンコや競馬でお金を浪費する人生を回避できるかもしれません。ギャンブルをまったくしない、とまではいかなくても、適度にギャンブルを娯楽として楽しむ距離感をつかめる可能性も秘めています。

親にとって必要なのは「止めること」より、使ってしまい失敗したあとの「諭(さと)し」なのだろうと思います。

できれば、手痛い失敗をしてしまった子供に、タイミングをみつつ優しく声をかけてあげてください。親自身が若い頃にやらかしたお金の失敗経験を話してあげるのもいいと思います。きっとその失敗は、失ってしまった金額以上に子供を一回り成長させてくれるはずです。

(企業年金コンサルタント/ファイナンシャル・プランナー 山崎 俊輔 写真=iStock.com)