中国勢がいなくなったところに、周回遅れで日本人がビットコインを買っている?(撮影:尾形文繁)

話題になっている『アフター・ビットコイン』の著者で、ビットコインバブルに警鐘を鳴らす中島真志先生からビットコインの秘密を聞いています。最終回は「ビットコインがバブルなのか?」についてです。17世紀のオランダにおけるチューリップバブルと似ているという指摘もあって、ビットコイン投資を考えている人は必読です。

この1年で価値が8倍以上に


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中島:最後の講義は、「ビットコインはバブルか?」についてです。

「2017年はビットコインがいちばん投資すべき資産か?」といった記事がいろいろなところに出ていますが、過去1年の相場を見ると、1月に約1000ドルであったものが、最近(取材は11月下旬)では8000ドルを超えて、ついに8倍というすごいことになっています。




中島 真志(なかじま まさし)/1958年生まれ。1981年ー橋大学法学部卒業。同年日本銀行入行。調查統計局、金融研究所、国際局、金融機構局、国際決済銀行(BIS)などを経て、2017年10月現在、麗澤大学経済学部教授。博士(経済学)。単著に『外為決済とCLS銀行』『SWIFTのすべて』『入門 企業金融論』、共著に『決済システムのすべて』『証券決済システムのすべて』『金融読本』など。決済分野を代表する有識者として、金融庁や全銀ネットの審議会等にも数多く参加。最新刊『アフター・ビットコイン』(新潮社)がベストセラーに(撮影:尾形文繁)

中島:この1年のグラフを見ると、なだらかに上がっているように見えますが、発行開始からのグラフでみると、今年に入っていかにすごいことになっているかがわかります。初めの頃は1ドルくらいで、ちょっと上がっても10ドルだったのですが、キプロス危機で高騰しました。キプロスで銀行に課税するという話が出た時に、ロシアマネーのお金持ちたちがビットコインに逃げたんです。それをきっかけに、ビットコインに注目が集まるようになりました。

木本:なるほどなるほど。

中島:これを見るとバブリーな感じが見て取れますよね。

木本:まさしくバブリーな感じですが、いまが頂点じゃないといわれますよね。

中島:これは弾けてみないとわからないのですが、今年の夏ごろから世界のビットコインの半分以上を買っているのが日本人です。相場が相当高いところで買っているので、高値づかみをしている可能性があります。

木本:ありがちな話ですね。


バブル崩壊でいちばん損をするのは日本人

中島:今まで中国人が9割以上を買っていましたが、政府が禁止しました。中国勢がいなくなったところに、周回遅れで日本人が買っている。テレビでCMが流れたり、「資金決済法」で金融庁が規制したとアナウンスされたりして、なんとなく安心感が出てきた。今では世界でいちばん買っているのが日本人で、6000ドルから8000ドルで買っています。もし今バブルが弾けると、日本人がいちばん損をするんです。いちばん遅れてブームに乗っているので。

木本:人民元はないんですか?

中島:政府に取引所が潰されてしまったので、今はありません。

木本:再開されるという報道もありますが。

中島:なんか、木本さんは私よりも詳しいんじゃないですか(笑)。もしかして木本さんもビットコインに投資をしている?

木本:はい、実は買っております。僕は30万円くらいですが。仕事で知り合ったプログラマーに、「面白いものがあるんですよ、木本さん」とささやかれて、それが入り口でした。

ビットコインには投資指標がない

中島:実は、ビットコインには投資指標がないので、高いのか安いのかがわかりません。株の場合には、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)などの投資指標があって、それらの指標をみて買われすぎ、売られすぎがわかりますが、ビットコインには価格のアンカーになる指標がないので、まったくわかりません。上がったから買う、買うから上がる、みたいな展開になりやすいのです。


中島:またビットコインに、そもそも本源的な価値があるのかという点も疑問です。「コーポレートファイナンス」という最近主流の考え方があります。これは、金融資産、つまり株や不動産の価値は、それが将来生み出す「キャッシュフロー」(利子や配当など)を現在価値に変換したものに等しいというものです。下図のように、毎年得られるキャッシュフローを足し合わせていって、それを現在価値に計算し直したものが資産価値になります。ビットコインは、持っていても配当も利子も賃貸収入もないので、得られるキャッシュフローはありません。元がゼロなので、ゼロを現在価値に直してもゼロです。


木本:資産価値を出せないと。

中島:木本さんが、今、投資用のワンルームマンションを買おうとしているとします。年初に1000万円だったものが、今は8000万円で、この先も値上がりするから買ったほうがいいよと言われますが、賃貸収入はゼロです。賃貸収入ゼロのものを買いますか。持っていてもメリットがないものは価値がないのではないですか。このため、BIS(国際決済銀行)の報告書では「仮想通貨の本源的な価値はゼロである」と言い切っているんです。投資をするのなら、仮想通貨の価値の本質がどこにあるのかも考えておいたほうがいいです。

木本:なるほど、わかりやすいですね。

チューリップバブルのグラフに酷似?


木本武宏(きもと たけひろ)/タレント。1971年大阪府生まれ。1990年木下隆行とお笑いコンビTKOを結成しツッコミを担当。2006年、東京へ本格的進出。S-1バトル優勝、キングオブコント総合3位などの受賞歴がある。現在は、ドラマやバラエティなどピンでも活躍中。2018年1月より関西テレビにて「TKO木本のイチ推しカンパニー」(毎週土曜 朝5:50〜)がスタート(撮影:尾形文繁)

中島:オランダでは17世紀に、チューリップバブルというのがありました。数百円の価値しかない球根1個が、オランダ人の年収の5倍以上になって、それは家1軒が買える値段でしたが、3年で突然終焉しました。

木本:理由はなんだったんでしょうか?

中島:理由は特になく、ある日突然に終わったようです。バブルは3年で終わっています。ビットコインバブルが2017年を元年とすると、来年、再来年かなと。

木本:僕も後2年くらいじゃないかと思っています。

中島:ビットコインの値動きのグラフの最近時点は、チューリップバブルの最終局面のカーブに似ているように思いませんか。

木本:似ていますね。デイトレードでも、75度の上がり方をしたら、確実に落ちると教えられたことがあります。1日の1時間グラフで見て、75度だとぽかんと落ちるそうですが、その角度ですよね。

中島:そうですね。


木本:ということは、先生のおっしゃるようにあと2年もすると、バブルは一瞬にして終わるかもしれませんね。

中島:「バブルは破裂して、初めてバブルとわかる」といわれるので、断定はできませんが、その可能性が高いでしょう。高値で一生懸命買っている日本人は危ないなあと、特に高齢者の方が、マイニングの仕組みも何もわからずに、儲かるらしいと聞いて買っているようなので、危ないなと思っています。

木本:ビットコインを買えば、将来、不労所得で食べられるなんてうたい文句で誘うでしょう。

中島:そうなんですね。バブルの特徴は2つあると言われています。1つは、バブルは毎回違う顔でやってくるということ。不動産バブル、株式バブル、国債バブル、美術品バブルなど、いろいろなバブルがありますが、一度バブルになったものは警戒されて、しばらくはバブルになりにくく、ほかのジャンルがバブルになる。仮想通貨はバブルの洗礼を受けていないので、ひょっとするとバブルのニューカマー(新参者)になりかねない。

2つ目は、「専門家らしい人が値上がりを正当化するような理論を唱え出したとき」がいちばん危ないということ。特に専門家が「今回はこれまでとは違う」と言い出したときが危ない。


多くの日本人投資家がビットコインで大損するかもしれない(写真:REUTERS/Dado Ruvic/File Photo)

木本:確かに危なそうですね。

中島:日本のバブルの時も、東京は国際金融都市になるのだから、外資系の金融機関が大挙して進出してきて、高層ビルがたくさん必要になるので、もっと地価が上がると。そして、それを前提にすると「日本企業の株はもっと上がる」と専門家が言い出した。その頃がピークで、そこから10年以上、地価も株価も下がり続けた。ビットコインも、「世界を変える通貨になるのだ」(つまり、今回はこれまでとは違う)として、2020年までに25万ドルになるとか、50万ドルになるという説がネットで飛び交っていますが、同じような感じがしますね。

素人の参入も危ない兆候

中島:「いったん値上がりが見込まれると、そこに参加することが合理的とみなされる」というのがバブル期の特徴なんです。「なんでビットコインをやらないの」という風潮になってきていることに危うさを感じます。マスコミを見ても、ビットコインで資産が100倍になったとか、「億り人」というようですが、1億円儲けた人がいっぱいいるというような報道がなされており、これを見ると自分でも投資してみようかという気になりやすい。

そして、「素人が相場に入ってきたときが、相場の終わり」という有名な株式市場の格言もあります。1929年のニューヨークの株価大暴落の前に、ある資産家が靴磨きの少年から、「旦那、どの株が儲かりますか」と聞かれて、こういう素人が入ってくるようでは危ないと思って、株式を全部売ってことなきを得た、というエピソードがあります。日本でも「どうもビットコインは儲かるらしい」と、高齢者が説明会に行って買っているのは、靴磨きの少年が株式投資を始めているのに近い。

木本:ビットコインは投資の素人の方が熱を上げているようで、それもまた怖いなあと思っています。じっさい危ないぞ、となったら、素人はすぐに手放すので一瞬で暴落するんじゃないかと。

中島:株もやったことがない、投資信託もやったことがないというような人が、いきなりビットコインに手を出しています。だから非常に危ないなと。

木本:僕ですね、まさしく。何も知らずに買った怖さがあって、買った自分を正当化したいんです。知らないでやるのが怖いので、だからちゃんと勉強しているんですが、今日の講義も含めて知れば知るほど怖いと思います。

ビットコインは根拠なき熱狂だ

中島:仕組みに疎い人ほど楽観的で、「まだまだ行くでしょ」と言いますが、詳しい人ほど危ないと言っています。日銀のフィンテックセンター長だった岩下直行さん(京大教授)も警告しています。ノーベル経済学賞を受賞しているロバート・シラーさんは、「根拠なき熱狂の最も典型的な例がビットコインだ」と述べています。


また、JPモルガンチェースのCEOジェームズ・ダイモンさんは「ビットコインはチューリップバブルよりひどく、いい終わり方はしないだろう」と言っています。理論や実務に詳しい人ほど危ないと発言していますが、知らない人ほど「まだまだ上がるでしょ」と、楽観的です。ですから、いろんな意味で気をつけたほうがいいと思います。

木本:今回教えてもらった危険性をわかったうえで、期間限定ゲームとしては面白いのではないかと、僕は感じました。

中島:リスクはわかったうえで、なくなっても困らないおカネでスリルを味わう分にはいいんじゃないでしょうか。

木本:不動産や金のような長期的な投資として挑むものではないのはわかりました。短期の投機ですね。それを世の中の人がわからないと、ビットコインのえげつないニュースがはびこるのではないかなと思います。

中島:生命保険を解約して、その資金でビットコインを買ったという話がネットに載っていましたが、そういう必要資金による投資はまずいなと思います。ビットコインを買いたいと言ってきた知り合いのお年寄りにも「85歳の人は買わないほうがいいですよ」とアドバイスしました。

木本:ありがとうございます。とても勉強になりました。

(構成:高杉公秀)