2017年7月、楽天と電通は共同で、ビッグデータを活用した新たなマーケティングソリューションを提供する、新会社 楽天データマーケティング株式会社の設立を発表した。その後、3カ月の準備期間を経て、この10月よりいよいよ本格的なサービスの提供を開始する。

9000万以上の会員数を誇り、質と量両方を兼ね備えたビッグデータを有する楽天と、マスメディアとマーケティングに強い電通が融合することで、「マーケティング業界に革命を起こしたい」と7月の記者会見で意気込みを語った、楽天データマーケティングの代表取締役社長を務める有馬誠氏。同氏は、インターネットメディアの代表格といえるYahoo! JapanおよびGoogleにおいて、国内のインターネット広告業界の基盤をつくってきた人物だ。さらに、購買見込みのある顧客にターゲティングしたネット広告配信に強みをもつ米国ネット広告会社のAdrollでは、日本法人の事業立ち上げ責任者として同社の事業成長に貢献してきた実績を有する。

今回サービスの開始にあたり、10月5日、広告主向けにその全貌を紹介する発表会が、品川で開催された。マスメディア、デジタル、そしてリアル店舗も含めたオンライン・オフラインの購買データをつなげることで、どのようなイノベーションを起こそうとしているのか。発表会の直前に、同社が主軸に据えているテレビCMの効果検証について、構想を有馬氏に聞いた。

ーーこれから本格的にサービスを提供されるわけですが、広告主向けにどのような点をアピールされますか?


主に、3つあります。1つ目は、「広告メディアとしての楽天」のイメージを確立したいです。楽天はやはりEC事業者としてのイメージが強いですが、実は数百億円の広告売上を持つ広告メディアでもあります。アリババ(Alibaba)やAmazon同様、これまで広告収入に目が向けてこられなかっただけで、その「媒体力」は凄まじいものがあります。「広告メディアとしての楽天」のポテンシャルを、広告主にもぜひ感じて欲しいです。

2つ目は、1つ目に上げた「媒体力」と、楽天が保有するビッグデータ、さらに電通のマーケティング力、この3つを掛けあわせたときに広がる世界観です。以前から言っていることですが、すべてのマーケティングはデータにより結びつきデジタル化される、「デジタルマーケティング」という言葉は死語になると考えています。

楽天は9200万の会員ID、オンライン購買データ、さらに楽天ポイントが利用できる楽天ポイントパートナーからのオフライン購買データを持っています。ここにテレビ広告のデータも統合すれば顧客の購買行動のすべてを明らかにすることができ、購買データから逆算して広告をプランニングすることもできるようになります。これはまさにマーケターにとってはイノベーションです。楽天ではそこを率先してやっていきたいと思っています。先ほどあげた3つが融合すれば一気にマーケティングソリューションのプラットフォーマーになれると見てますし、この数カ月間でポテンシャルが十分あると感じています。

3つ目は、ユーザー目線を重視するという点です。データによる可視化・数値化・効率化で、広告主だけでなく、欲しいものの情報が欲しいときに手に入るというユーザー側のメリットとのバランスをとっていかないといけません。


ーー具体的にどのようなサービス内容ですか?


「楽天マーケティングプラットフォーム(Rakuten Marketing Platform、以下RMP)」という名称で、複数のサービスを用意しています。たとえば、電通が提供するテレビの実視聴データログに基づいたデジタル広告配信プラットフォーム「STADIA(スタジア)」のオフラインデータと楽天IDからのオンライン購買データを統合して、購買起点のテレビ広告をプランニングできるRMP-Media Planning、ブランドセーフティが担保された楽天市場などでの広告接触を最適化するRMP-Display Network、また楽天市場でのブランドタイアップなどを促進するRMP-Brand Gatewayなどがあります。

ーー新会社の組織体制は、どのようになっていますか?


楽天はプロダクトを「つくる」立場、電通はそれを「販売する」役割にあります。この関係性のなかで、楽天データマーケティングはいわば「メディアレップ」の立ち位置です。楽天には売れる商品をつくるための情報を、電通にはつくった商品を効果的に訴求するための情報を共有します。

規模でいうと、現在専任で楽天と電通合わせて20〜25名、兼任も合わせれば50名程度います。

ーーすでにサービスの提供を開始してますが、反響は?


初期の引き合いは非常に強いです。実数データを持つ楽天の強みを感じています。これまで広告主企業はさまざまな広告の効果測定方法を活用してきてますが、正確な広告の効果検証が難しかったのが現状です。楽天IDを介した実数データの強みは、アクションの結果が確実に数字でわかるためPDCAが回しやすい、その点に一番興味を持たれているようです。

すでにネットに接続したテレビの視聴データと楽天IDを連携させる仕組みができています。秒単位での広告接触やタイアップ広告の滞在時間がわかり、また楽天スーパーポイントとポスレジに連動しているため、顧客が何のCMを見て、最終的にいつ、どこで、何を買ったのか、その効果を実数データで見られるのが最大のアピールポイントです。

ーーどういう企業が主なクライアントになるのでしょうか?


もちろん楽天で店舗展開するような一般消費財メーカーが圧倒的に多いですが、意外と多いのが自動車メーカーです。車の場合、食品や日用品と違い次の購買までの期間が長く、ユーザーの情報や行動がわかりにくいというのが課題です。そのため、楽天IDと自社の購買データを紐付けることでCRMを実現したいというニーズがあります。たとえば、車の購入時に楽天スーパーポイントを2万ポイント特典として付ければ、すぐに楽天IDと連携でき、顧客の購買履歴等と一体的に分析できるようになります。

ーー楽天IDの実データは強いですが、全体ではありません。


そうですね。たとえば顧客は購買行動にあたり検索もしますが、そのデータは当然外部からもらわないといけません。すべてのデータを網羅することはできないので、そこはむしろ外部の企業にも賛同いただいて、業界全体で共有するプラットフォームができればいいと考えています。その方が多様なデータが連携したより良いデータベースができると思います。

ーー当座の目標については、いかがですか?


RMPのサービスを一部パッケージ化したRMP-Showroomというサービスがありますが、その売上をまずは1年で2倍にしたいと考えています。数十億円の売上を、来年は3桁、2020年頃をめどに4桁を目指したいです。

また、今後システムも自前でつくりたいという思いがあります。現在、楽天DSPを展開していますが、さまざまな他社DSPと連携している状況です。デマンドサイドでも自社によるプラットフォームは必ず必要になると考えています。自社テクノロジーでやるからこそ、楽天のデータの強みを最大限活用できますし、自社ページビューを最適管理することもできるようになります。配信もDMPも含めて、自前でやりたいというのは今後の目標のひとつです。

ーーページビューの「枠」と楽天IDで得られる「人」のプランニング、両方をお持ちなのも強みなのではないですか?


ビューアビリティ、アドフラウド、ブランドセーフティといった問題については、すべて自社媒体でやっているので問題が起こりようがないです。そういう意味ではインベントリーサービスの各サイトは適切に管理されており、媒体価値としても高いです。今後、より外部の枠も開拓して、セットで最適配信できるようにしたいですね。データを効果検証して分析して改善するPDCAを回すことで、ネットワークの価値を高める必要があリます。

ーーデータでいうと海外勢が強いですが、どう対抗しようと考えていますか?


たしかに海外ではGoogleより先にAmazonで商品検索されると言いますが、欧米と日本ではECの状況も違います。日本の場合、EC事業者は楽天以外にも多数あり、より分散していると言えます。そのため、検索はあくまでGoogleやYahooのプラットフォームで構わないと思っていますが、検索チャネルとの連携は視野に入れたいですね。

ただし、GoogleやFacebookと同じことをやってもしょうがないと思っています。配信プラットフォームで勝負するより、我々の強みで勝負したい。それが何かというと楽天しか持ってないデータであり、楽天のインベントリーを活用して独自のネットワークを築きたいと考えています。



ーーテレビ業界は聖域とも言えますが、当事者の反応はどうですか?


デジタル化の波に押され、またユーザーが変化しているため、彼らとしても対応していかないといけないという危機感があります。電通もいずれ誰かが切り込む領域であるなら、自分たちがやるという意気込みです。なので、電通とともに本気で業界を変えたいと思っています。

ーー有馬さんのこれまでのご経験も踏まえて、最近のデータマーケティングの動きをどう見ますか?


いままでマーケティング費用の半分は無駄とよく言われてきましたが、具体的にどの部分が無駄なのかわかりませんでした。これはマスメディアとデジタル、デジタルと購買がそれぞれ分断していたためでしたが、あらゆるデータが結びつき数字で明確にわかるようになったことでPDCAを効果的に回せるようになりました。20年前Yahoo! Japanでキャリアをスタートさせたときにめざしていたのはこういう世界だったのかと実感しています。しかし、一方で20年は想定していたより時間がかかりましたね。20年経ってまだここまでかというのが正直なところです。

Written by 亀山愛
Interview by 長田真
Photo courtesy of 渡部幸和