その劇的な決着に、多くのサポーターによって真っ赤に染め上がったスタジアムは歓喜と熱狂で爆発した。現地時間10月8日に行なわれたロシア・ワールドカップのアフリカ予選、ホームでコンゴを下したエジプトが7大会ぶりに世界への切符を掴んだ。
 
 この試合に勝てばワールドカップ出場が決まるエジプトは、63分にエースのモハメド・サラーの得点で悲願達成に一歩近づいたが、土壇場の88分にコンゴのアルノル・ブカ・ムトゥに決められてしまう。
 
 暗雲が立ち込めるなか、その空気を一掃したのは、またしてもサラーだった。後半アディショナルタイム5分にPKを獲得すると、これを自ら冷静にゴール右隅に沈め、エジプトを勝利へと導いたのだ。
 
 試合はこのまま2-1で終了。勝利したエジプトは、前日にガーナと引き分けた2位ウガンダとの勝点差を4に広げ、1試合を残して1990年イタリア大会以来となる28年ぶりのワールドカップ出場を決めた。
 
 試合終了直後に選手やスタッフはもちろん、カメラマンや一部のサポーターまでもがピッチ内に飛び出して喜びを爆発させるその光景は、史上最多7度のアフリカ王者に輝いてきたエジプトにとって、いかにワールドカップ出場が悲願だったかを物語るものだった。
 
 このファラオ(エジプト代表の愛称)軍団の悲願達成を報じた『CNN』のエジプト版は、「夢は実現するものだ」と見出しを打ち、「一時はコンゴに喜びを台無しにされそうになったが、ファラオは諦めなかった。サラーがやってくれた」と、興奮気味に綴っている。
 
 母国の躍動に歓喜したのは、もちろんサポーターたちも同様だ。UAE紙の『SPORT360°』は、「ワールドカップを待ち望んだエジプトの長い夜が終わり、ツイッターが炎上」と、SNSでのファンの反応をまとめている。
 
 サポーターたちは思い思いに感情を爆発させ、なかでも“ホットワード”となったのが、2ゴールを決めたサラーだ。「彼は神の恵みだ」とつぶやくアカウントもあれば、「鋼の精神を持っている」や「サラーはエジプトがW杯最終予選で上げた7得点全てに貢献した。文字通りエジプトの英雄だ」とスピードスターを称えるつぶやきが目立った。
 
 そうした反応とは裏腹に、エジプトを率いる知将はハラハラした展開に肝を冷やしていたようである。バレンシアやインテルなどを率いた経歴を持ち、2015年からエジプト代表を指揮するアルゼンチン人のエクトル・クーペルは、やや疲弊した表情で次のように漏らしている。
 
「ネガティブなことばかりを考えてしまってね。だから、試合前に私は高血圧の薬を服用していたよ。人生というものはストレスに満ちているが、ワールドカップへの挑戦は、私が直面した最も厳しいストレスだった」
 
 幾多の試合を潜り抜けてきた指揮官ですら、極度の緊張に駆られた一戦を勝ち抜けたエジプト。ロシア・ワールドカップでも大いに期待したい。