海外でも「年収100万円生活」は可能なのか。東京で年収100万円以下の「隠居生活」を送った大原扁理さんは、海外でも同じことが可能なのかどうかを確かめるべく、2016年秋から台湾に移住した。1年近い実践の中でわかってきた、海外ならではの隠居のコツとは?

25歳〜31歳まで6年間、東京の片隅で隠居生活をしていました。その中で、こういう暮らし方を海外でできないんだろうか? と考えることがありました。気になったら実験してみたくなり、30歳まで取得できる1年間有効なワーキングホリデーというビザを取得し、2016年の秋に台湾に移り住みました。

ルールとしては、印税を使わないこと。私は本の印税で隠居することに興味はありません。東京での生活と同じように、本以外の仕事で最低限の生活費を稼ぎ、経済的に誰にも頼らずに隠居ができるのかを確かめたいと思っています。

移り住んでからまだ1年未満なので、確かめきれていないこともありますが、現在までの実験報告です。

今のところ、台湾でも基本的には東京にいたときとほぼ変わらない生活ができています。

郊外の学生街の安いワンルームに住み、生きていくのに必要なだけ働いて、あとは本を読んだり、散歩したり。環境を選ばない趣味や生活のしかたを知っておくと、環境が変わったときに非常にラクだと改めて思います。

■「隠居」の1カ月生活費 台湾編

ざっくり紹介しますと、家賃4500元、食費4500元、水道光熱費400元、携帯代が800元程度。合計10200元で、円に換算すると37740円(2017年7月時点)になります。

携帯は、渡台に合わせてSIMフリーのスマホを日本で買い、台湾でSIMカードを買いました。その他としては、たまに友人とごはんを食べに行って、カジュアルなレストランで200元(740円)くらい。また台湾は温泉大国なので、交通費と入浴代合わせて500元(1850円)もあれば日帰り温泉も楽しめます。

アパートは台北近郊・新北市の学生街にあります。ワンルームでシャワー、トイレ、エアコン、インターネット、家具家電付き。台湾人の友人に「これくらいの物件を台北市内で借りたらいくらか」と聞いたら、「倍」だそうです。郊外の学生街が安いのは狙い通りでした。

あとは、外国人でも保証人が要らない(保証金は払います)ので、東京よりも断然借りやすい印象です。

食費は1日150元(555円)程度。東京にいたときよりも高くついているのは、台湾が外食文化で、アパートにキッチンがないのが一般的だからです。

交通費はかなり安く、初乗りは地下鉄が20元(74円)、バスが15元(55円)。私の街は台北から1時間ほど離れた郊外ですが、それでも台北駅までバスと地下鉄を乗り継いで片道55元(203円、ICカード割引後)。

現在かなり円安とはいえ、やはり東京で暮らすよりもお金はかかりません。

台湾では、ライターや翻訳、観光地の取材の仕事をしています。

実は東京に住んでいた頃から、観光ガイドブックのテクニカルライターを不定期でやっており、現在はその編集部から台湾の取材と執筆を委託されています。現地の会社に売り込みに行って、取材の仕事を受けることもありますが、正直いつもあるわけではなく、日本と比べるとギャラもかなり安いです。

あとは翻訳の仕事、ウェブサイトや書籍用の文章をリライトする仕事など。これを合わせると、日本円で月平均4〜5万くらいの収入でしょうか。フリーなので週何日とは言いづらいのですが、だいたい1カ月仕事をしたら、あとの2〜3カ月は遊べる、という感じです。

生活を「衣食住」でざっくり分けてみると、「衣」はほとんど変化がありませんでした。

普段から、世界中どこでも手に入るようなベーシックなものしか着ないのと、日本の春夏秋の服装+1枚だけ冬服(寒い日用)でやっていけるので、暖かい台湾ではむしろかさばる冬服が少なくなり、手持ちの服が減りました。

「住」についても、あまり変化はなかったです。

人間が家でやることは、どの国でもほぼ一緒ですよね。基本は食事・排泄・入浴・睡眠。これ以上のことは贅沢を言えばキリがありませんが、隠居生活には十分です。

■亜熱帯の異文化で変わる食生活

海外に住んで最も変わらざるを得なかったのは「食生活」でした。

部屋にキッチンがないということは、食事のたびにわざわざ私の部屋(4階)から地上に降りて食べ物屋まで炎天下を歩いて行かなければならない、ということです。しかも学生街の屋台ですから、炭水化物・肉・油多めで、三十路の胃にはつらいものが……。

これを極力減らすために、なるべく火を使わなくても食べられるものを多めに冷蔵庫に常備するようになりました。

朝は有機シリアル、夜はフルーツ。昼だけ野菜たっぷりの精進弁当を買う、という感じにしています。

それでも、気分・体調に合わせて量や味付けを変えられる自炊の自由さを知っている身には、外食に合わせなければならないのは若干ストレスです。

台湾に引っ越したら、もっと生きやすいのではないか。移住する前は、のんきにそんなことを考えていました。

確かにいいところもたくさんあります。物価は安いし、のんびりしているし、人はやさしいし、食べ物はおいしいし、同調圧力もない。日本や日本人に対する理解も浸透しているので、考え方の違いから摩擦・対立が起こることが、欧米に滞在していた時と比べてかなり少ないように感じます。

しかし、いざ住んでみると台湾には台湾の生きづらさがあることにも気づかされます。

例えば物価が安いのは海外からの旅行者にとってはメリットですが、現地に住むとなると、給料が安いというデメリットに直結します。これは、日本から仕事を受けるということで一応クリア。

気候も、冬はいいのですが、夏が死ぬほど暑い。夏になって初めて気がつきましたが、厳しい暑さを避けるためにはお金が必要なんですね。日中は涼しい図書館などに避難しますが、睡眠は必要不可欠なので、夜だけ冷房を使うことにしています。電気代のことを考えると戦々恐々です。

■台湾にはフリーランスのビザがない

今のところ、台湾に越してから「最低限だけ働いて気ままに暮らす」という生活はできていると、一応は言えそうです。が、もっと長く住んでみないと説得力がないなあ、というのが本音です。

一番の問題はビザです。ワーキングホリデービザが切れてからも、この生活が続けばいいのですが、台湾にはフリーランスのビザはなく、かといって一般の労働ビザを取ったら隠居ができません。ビザが切れる秋までに何かいい方法を見つかるといいのですが……。

どう転がっていくのかわかりませんが、これからのお楽しみということにしておきます。

(大原 扁理)