おじいちゃん、おばあちゃんになっても縁側で仲良くパートナーと手をつなぎたい。でも、歳を重ねるごとに「家族になったら恋愛感情は消えちゃうかも……」という思いも湧いてくる。穏やかな生活と、恋のときめきは両立なんてできないと思っている人も多いのではないでしょうか。

今回は、30代の子なし夫婦の生活を描いた漫画『1122(いいふうふ)』(講談社)の作者である渡辺ペコ(わたなべ・ぺこ)さんに、理想の夫婦ってなんだろうと聞いてみました。

©渡辺ペコ/講談社

「家族」って、本当にいいもの?

--主人公である妻・一子(いちこ)と夫・二也(おとや)は、素敵な家で暮らして、好きな仕事をして、仲良し。まさに、「いい夫婦」に見えますが、実はセックスレスで「婚外恋愛許可制(公認不倫)」を導入している(しかも、夫は公認不倫中!)という展開には驚かされました。

渡辺ペコさん(以下、渡辺):そうですね、不倫は非日常でドラマティック。みんなの興味がそちらに向くのは当然のことだと思います。でも、私としては恋愛関係より家族に興味があって、今回は家族の素となる単位の「夫婦」を描きたいな、と。

--それは何かきっかけがあったんですか?

渡辺:ずっと「家族」という概念に疑問を持っていたんです。必ずしも良いものではないはずだ、もっと複雑で難しいものではないのかって。たまたま、新連載の準備をしている時に家庭生活に関する憲法第24条の改正案が話題になっていたのも一つのきっかけになりました。

©渡辺ペコ/講談社

--憲法……ですか?

渡辺:たとえ文言の修正が一部だとしても、国に家族のあるべき姿や義務が定義されたり求められたりすることに違和感があって。「恋しよう、結婚しよう、産もう、人生が豊かになるから」というメッセージが、本当にそうなのかなって。結婚は、多様で自由なものであってほしいと思ったんです。

静かに冷めて、静かに相手を軽んじる

©渡辺ペコ/講談社 

--仲良がいい夫が公認不倫しているというのは、自由に対する問題提起だと?

渡辺:相手が納得できていれば、その関係も成り立つんじゃないかなと。結婚って、ドラマティックに恋をしたり失恋したりするだけじゃなくて、もっと静かなものだと思うんです。静かに冷めていき、静かに相手を軽んじる。

--怖い。でも、運命とか、最後の恋とか。確かに盛り上がった時期はあるはずなのに。子どもを産んで、育児と仕事が回らなくなって、すれ違っていくという夫婦の声はよく聞きますね。

渡辺:そうですね。結婚って大半が盛り上がっている時に決意するものなので、そのあと段々齟齬(そご)が出たりする。理由はいろいろあるのでしょうが、私としては結婚に対して幻想を持ちすぎているのではないかと思ったりして。

--幻想ですか? でもそれって、結婚してみないとわからないものでは?

渡辺:メディアが結婚・出産はいいものだと打ち出す感じがありますよね。でも、向き不向きもあるし、環境もみんな違う。一般的に等しくみんなに良いものであるはずがないのでは、と。自分にとって良いものを作るのは、大きなライフイベントじゃなくて日常の地味な作業。努力とは言わないけど、小さなすり合わせとか、心がけみたいなものも大きいと思うんです。

私はその辺も描きたくて。お互いのかみ合うところとそうでないところを話し合って、現実的な対策を打ち出す。この漫画で言えば、その一つが公認不倫のルールです。

結婚しちゃった方がラクではある…

--なるほど。ただ、どうしてもフツーに結婚すれば、フツーに幸せになれるんじゃないかと思ってしまいます。

渡辺:社会的にはそうかもしれませんね。現実問題、男性でも女性でも一人で生きていくより、夫婦向き、家族向きの制度が多い。特に子どもがいる人への優遇措置って多いですよね。それに、一人で自分の人生を充足させるのって、いろんな能力の高さが求められますよね。

--能力ですか?

渡辺:はい。単純に稼ぐ能力だけじゃなくて、あらゆるコミュ力っていうのかな。パートナーだけじゃなくても、親しい友人、サークル、仕事の関係。持続的なつながりを広く持てるスキルとか。家事や趣味。一人でいることを楽しめるいろんなスキル。あと、一人に対する風当たりを気にしないメンタル。いろんな負荷がかかるから、結婚した方がいっそラクという面はあるのかもしれませんね。

--ラクか。結婚とか、いい夫婦って結局のところ、何なんでしょう。

渡辺:個人的な感覚で考えると、言葉でちゃんとコミュニケーションができる関係でしょうか。話し合うのが面倒だなと思っても、パートナーは自分が選んだ人だし、相手も自分を選んだという前提において、互いに頑張った方がいいのかなと思います。

中には、好みの見た目とか、性的な相性とか。そこが合えば大体許せるという人もいると思うんですけど、でも夫婦生活は基本的に長丁場。もちろん、離婚も選択肢の一つだけど、パートナーを変えるとか生活を変えるって、そう簡単にいかない部分もあるので。

まずは、お互い尊重できるか。耳が痛いことに耳を貸せるか。できるかどうかわからなくても対応しようとするかどうかじゃないかな。そういうのって積み重なっていくことだと思うんです。それをせずに、歳をとっても仲良くやろうっていうのは、難しいと思いますね。だから、「自分が少し我慢すれば丸く収まるから」じゃなくて、自分の言いたいことを相手にちゃんと伝えることが重要かなと。

真貝友香