ゴールデンウィークや3連休などで、新幹線の指定席を直前になって取れることは、奇跡に近いだろう。指定席をとれず、満席のために自由席に座れなかった人の中には、自由席車両から逃れて「あいている」ように見える指定席に座ってしまう人もいる。

ある三連休の初日、東京〜新大阪の「ひかり」に、品川駅から乗り込んだ女性の場合、指定席の切符を見ながら座席に向かったところ、そこには堂々と弁当を広げる先客がいたそうだ。「あの〜」と切符と座席番号をチラチラ見ながらたずねると、その先客は、「あっ、はいはい」と素早く撤収してくれ、穏便に解決したという。

また、別の人は、イヤホンから漏れ伝わってくる大きな音を立てて音楽を聞き、身体を揺さぶるような隣席の客に悩まされたことがあるという。「指定席を取得してしまったため、変わることもできず、苦痛な時間でした」と話す。

ネット掲示板では、購入済みの指定席に座ろうとしたところ、占拠されていて、トラブルになった事例も多く書き込まれている。勝手に指定席を占拠したり、大きな音をたてる迷惑な客の存在はモラルの面だけでなく、法的な問題にも発展するのだろうか。岡田一毅弁護士に聞いた。

●契約上許されない行為

「結論から言えば、購入していない指定席に『あいているから』と勝手に座ることは、法的にも問題があります。新幹線に乗車することは、『JR各社と旅客運送契約を締結する』行為です。その契約は、『旅客営業規則』という約款の内容に基づくのですが、指定席に乗車するためには、指定券を所持する必要があります。

所持していない乗客が指定席に座ることは、契約上許されないのです」

冒頭の事例のように、勝手に占拠すると、どのような法的な問題に発展するのか。

「JRは、旅客営業規則に基づいて、指定券を所持していない乗客に対して、座らないように請求できます。それでも、その乗客が座り続けている場合は、指定券を所持している乗客から、座れないことによる損害の賠償を請求される可能性が出てきます。ですから、座っている『指定券不所持の乗客』に対して、損害賠償請求をすることができます」

●隣席から音漏れ、追い出せる?

よくある新幹線トラブルとして、隣席の人のイヤホンから漏れる大きな音で苦痛を感じる人もいる。このような場合、その人を、指定席から追い出すことはできるのか。

「乗客には、乗車する際に他に迷惑を掛けないようにして乗車する運送契約上の付随義務があると考えられます。迷惑を掛けた場合は、その義務の不履行となるので、運送契約を解除して、乗車を拒否するか、損害賠償請求を鉄道会社はすることができるかと思います。

また、車内の秩序を乱すような状態となったときは、鉄道営業法42条4号によって、車外へ退去させることができる場合があります」

(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
岡田 一毅(おかだ・かずき)弁護士
弁護士2013年度京都弁護士会副会長。交通事故などの交通法務に詳しく、大手損保会社の顧問弁護士も勤める。また医療法人の顧問弁護士など、医事法務についても手がけている。大の鉄道好きでもある。
事務所名:赤井・岡田法律事務所
事務所URL:http://www.akai-okadalaw.com/