●「値ごろ感」で勝負する商品
炊飯器なんて炊ければどれも同じ――。一昔前はそんな風に思っていた人もいるだろう。だが、今は変わってきている。従来のマイコン式、IHといった熱の加え方のバリエーションから、釜の材質や厚さなど、よりコメがおいしく炊ける高付加価値の炊飯器が各種登場している。炊き上がりの好みも家庭によって分かれるところだから、炊飯器を見れば、その家庭の「食」への考え方が見えてくるといえるかもしれない。そんな炊飯器で、アイリスオーヤマが、快進撃を続けている。

○「値ごろ感」の追求

プラスチック製衣装ケースなどの生活雑貨でおなじみのアイリスオーヤマは、5.5合まで炊くことができるIH炊飯器「銘柄炊き IH ジャー炊飯器5.5合」を発表した。家電量販店などを中心に初年度10万台の出荷を目指すという。

今回参入する5.5合IH炊飯器は炊飯器の中でも市場規模が大きいカテゴリー。だから当然、ライバルも多い市場だ。同社が今まで出してきた炊飯器はいずれもコメの銘柄に合わせて、コメ本来の味を引き出す最適な炊き方ができることをうたったものだが、ここでも、“炊き分け”で勝負する。

31の銘柄を、特徴の似た6通りに分類し、6パターンの炊き方ができる。この機能がついて、参考価格1万9800円(税抜)だ。同社としては、ただ安いのではなく、コメの特徴を最大限に生かした味にこだわりつつ、価格を抑えた「値ごろ感」で勝負したいそうだ。

○コメへの知見で競合にアドバンテージ

値段が高いと思うか、安いと思うか、すべては炊きあがったごはんに答えがある。

炊飯器を開発するためには、コメに均一に熱を伝える、温度を制御するなどといった技術が必要だが、それ以前に、コメそのものへの知見も必要になってくる。同社の本社は、コメどころ宮城県。東日本大震災からの復興を地元の企業として応援する意味などから、実は、2013年に精米事業に参入し、販売しているコメの評判は高いという。

●コメの知見への自信
炊飯器などの「お米家電事業」に参入したのは、2015年からだから、その段階では、すでにコメの知見がある状態だった。大学など研究機関との共同研究なども進めていて、いかに本格的にコメの研究に取り組んでいるかがうかがえる。

このコメへの知見が、銘柄ごとの味や、硬さなどの特性を踏まえた炊飯器の開発に、大きなアドバンテージをもたらしている。開発のスピードも、追求できる味の深みもだ。だから“銘柄別炊き分け”で勝負できるのだ。

○2016年売上高10億円の達成

その結果、2016年の計画目標10億円を達成した。2017年は3倍の30億円、2018年には、60億円を計画している。今までに発売している炊飯器の中には、欠品状態になっているものもあり、好調さがうかがえる。

2017年には、先に取り上げた5.5合のIH炊飯器など6アイテムを投入予定で、バリエーションが増えることによる売り上げの増加もあるが、別の理由もある。

○販路拡大のインパクト

同社が本格的に家電事業に参入したのは、2009年。大手メーカー並みの品質でありながら、機能を絞り、目の付け所のいい商品を、「値ごろ感」のいい価格で、一貫して世に出してきた。それが消費者から支持され、今では同社の主力事業に成長した。

●販路拡大の効果
元々生活雑貨などを中心としていた同社の商品は、主にホームセンターが消費者との接触ポイントだった。しかし、家電に参入してから、家電量販店からの声がかかるようになり、家電の取り扱い店舗が量販店にまで拡大していった。当然、購入場所は、家電量販店の比率が、年々高くなっている。商品が売れ、いい評価が広まれば、販路が拡大していく。それを繰り返している状況だ。今後もまだまだ拡大していく可能性があるだろう。

さらには、インターネット通販でも、低価格なマイコン式3合炊きなどを中心に、同社の家電が売れている。今まで同社が主戦場としていたホームセンターの顧客層は、年齢が高い傾向があった。しかし、通販という消費者との接触ポイントが増えたことで、より若い世代にも認知され、支持されてきている、そんな数字なのではないだろうか。

商品との接触ポイントの広がりが、売り上げの増加につながっている。今後も新しいお米家電の発売は続くが、アイデアと品質の良さを兼ね備えた「値ごろ感」のあるどんな商品が生まれるか。そして、どこまで販路を拡大できるか。注目していきたい。

(冨岡久美子)