コーポレートガバナンスの先進企業と見られていた東芝の不正会計事件でも第三者委員会が事件の背景として「上司の意向に逆らうことができないという企業風土が存在していた」と指摘しているが、企業経営における健全な組織のあり方に改めて注目が集まっている。 組織・人事コンサルティングのHRアドバンテージ相原孝夫社長は、「多くの人事・組織上の問題は職場において発生している。発生した問題に対症療法的に手を打つばかりでなく、そのような問題の発生を抑えるために職場を健全な状態に維持しておくことが何よりも重要」として、人材開発だけでなく、組織開発へのより積極的な投資が求められていると説く。

 また、人材育成支援のJIN-G三城雄児社長は、「世界人材マネジメント会議では、経営者はもっと『人』への投資に注目すべきだとして、人の持続性、つまり、社員の健康への投資などに時間とコストを使うべきという主張が基調講演でされている」と紹介し、強い組織づくりのための「健康経営」への投資が高まると予測している。 今後の労働力人口の減少も人材マネジメントに大きな影響を与えることが考えられる。

 「少子高齢化に伴う労働人口の減少、国内市場の縮小を考えると、企業の人事労務面では女性、シニア、外国人の活躍促進、労働生産性向上を考えざる得ない」(HPT研究所伊藤克彦社長)と指摘する声も挙がる。

 労働政策研究・研修機構の調査によると、人材不足が経営に「深刻な影響を及ぼしている」企業が14.1%、「一定の影響を及ぼしている」企業が52.1%に上る。

 「今後生じる恐れがある」企業も26.0%で、人材が確保できなければ事業運営が困難になる可能性がある。 現在でもエンジニアなどはすでに奪い合いの状況で、今後あらゆる業界・業種、職種において人材不足が深刻となってくるだろう。

 厳しい採用環境で人材獲得競争を勝ち抜くためには採用力の向上が多くの企業で急務となっている。

 同時に、人材不足の対応策としてダイバーシティ、柔軟な働き方の推進、女性管理職の登用・育成などは人事が取り組むべき喫緊の課題だ。 労働力人口が減少していくことを考えると、これまで以上に多様な人材、時間の制約がある人たちにも企業で能力を発揮してもらわなくてはならず、あわせて正社員の働き方自体も見直して人材の確保と長期的な生産性の向上につながる制度の構築が不可欠だ。

 政府も「働き方改革」を成長戦略に掲げて「同一労働同一賃金」の実現などに動き始めているが、人事にとって重要なのは「働き方改革」を“イノベーションを生み出す人と組織づくり”につなげていくことだろう。 企業の女性活躍推進を支援するwiwiw山極清子社長は、「日本的雇用慣行など半世紀前の男性中心の就労モデルがいまもなお堅持され、女性人材が活かされていない。このままでは人材の多様性に欠け、イノベーションの推進力が抑制されてしまう。女性活躍の成果を出すには、ジェンダー・ダイバーシティと働き方改革等のワーク・ライフ・バランスを同時に進めることが必要」と、人材の多様性がイノベーションの推進力につながっていくと訴える。

 ビジネスの変革にスピードが求められる時代になり、特に最近はこれまでのビジネスモデルにデジタル技術が結合して新しいビジネスモデルが次々と生み出されるようになっている。

 新しいビジネスモデルによる競争は、これまでの競合とは違う分野からの参入で業界そのものが消滅してしまう可能性もはらむ。これまでの長時間労働や人事・評価制度を前提とした人と組織の関係を見直す必要が生じている。(1)人事が取り組むべき重要テーマとして選択した理由