どんなに非現実的でつかみどころのない役柄でも、この男が演じると、途端に血が通い「こういう人、いるかも…」と思えてしまう。映画『ぼくのおじさん』で演じた役も、なんとも不思議な役柄である。なんせ役名は“おじさん”。自称・哲学者で、ポスターでは、ハワイでの休暇モード全開のアロハシャツを着て、世を憂うような眼差しを見せる(もしかして、まぶしいだけ?)。さすがの松田龍平も撮影を前に脚本を読んで、不安を覚えたという。それでも、そんなハードルをこの男はふわりと軽やかに越えてしまう。やはり、只者ではない。

撮影/平岩 享 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.



最初に脚本を読んだときは「正直、お手上げ(苦笑)」



――原作は北 杜夫さんが自らをモデルに書いた児童文学です。小学生の雪男(大西利空)の視点で、居候のぐうたらな“おじさん”が屁理屈ばかりこねたり、叱られたり、恋をしてハワイに行ったりする姿がユーモラスに切り取られます。

何て言えばいいのか…最初に脚本読んだときは、全然わかんなかったです。正直、お手上げ(苦笑)。“おじさん”がどんな人なのか? さっぱり見えてこなくて「どうなるんだ? この映画…」という感じで。「早く山下(敦弘)監督にこの気持ちを伝えなきゃ!」って(笑)。



――幾多の作品に出演してきた松田さんから見ても、わからない役柄だった?

役もそうですけど、映画全体がどんな雰囲気なのかが見えなかったですね。雪男と“おじさん”が散歩するところから始まって、何か事件に巻き込まれるでもなく、ゆったりとした空気で進んでいく。だからこそ、“おじさん”のキャラクター、世界観をつかむのが大事だなと感じました。

――実際、演じる上で軸となったもの、役柄や世界観をつかむきっかけとなったものは?

雪男が“おじさん”を観察する日記という形で物語が描かれるという部分ですね。小学生の雪男の視点で展開するのであれば、そこまでリアリティにあふれていなくても大丈夫なのかな…? “おじさん”もコミカルな感じでいいのかなと。まずは、そこをとっかかりにして、やってみようと思いました。



――確かに現代を舞台にしつつ、どこか寓話的な感じが強いですね。

半世紀前に発表された北さんの原作を、現代を舞台に描いているので、セリフひとつとっても、言葉だけ追いかけると違和感があるんです。雪男の妹の恵子(小菅汐梨)が「アメリカ製の人形が欲しいわ」と言ったり…。

――現代の普通の会話の中では出てこない言い回しですね(笑)。

台本で字だけ読むと、逆に想像力にストップが掛かっちゃうんですけど、かといってこれを現代の言葉に変えてしまえば、北さんの世界観が崩れちゃう。どうなるのか僕自身、見えないまま演じた部分はあったんですが…。

――完成した映画では、そういう現代的ではないやり取りも、この作品独特のおかしみ、個性になっているように感じました。

そうなんです! 映画を見ると、撮影前にこんなに「ありえないだろう」って気になってたところが、まったく気にならなかった。そんな次元の問題じゃなく、しっかりと味わいになってて、懐かしさが漂ってました。想像できなかった部分が結果的に、うまくつながっていた気がします。



つかみどころのない役のつかみ方は…?



――今回の“おじさん”に限らず、『まほろ駅前多田便利軒』シリーズの行天(ぎょうてん)、『探偵はBARにいる』シリーズの探偵の“相棒”高田など、これまでも、どこかつかみどころのない役を数多く演じてこられてきたように思えますが…。

確かにあるかも(笑)。言葉で説明しづらい男たちですよね。

――そういう、一見わかりづらい役柄が、“松田龍平”というフィルタを通すと、たちまち現実味が増して、作品の世界の中にしっかりと存在しているのを感じられます。松田さんなりの役作り、アプローチの仕方があるのでしょうか?

どんな役であれ、意識しようがしまいが、“僕”というフィルタは通すことになるし、それが、僕が演じる意味だと思います。同じ役でも違う俳優が演じればまったく違うものになるのは当然ですし。じゃあ、そこで何か自分だけの強いこだわりを持ってやっているかというと、そういうわけでもないんですよね。

――無理やり個性を出そうとするのではなく…。

それこそ、うまく説明できない(苦笑)。やっぱり感覚でやってる部分が強いから。だから、自分なりに演じてみたはいいけど、こういう取材の段階で困るんです(苦笑)。「なんか、そう思ったんです」じゃ済まないし(笑)。もう少し、その感覚をきちんと言葉にできるようにしたいとは思ってるんですけど…。



――そうやって感覚で演じるのは、若い頃から?

そうですね。というか、頭であれこれ考えて、うまくいった試しがないんですよ。

――見る側は、スクリーンの中の松田さんの姿を見て、「なるほど」と納得させられるのですが、感覚で演じるにせよ、松田さん自身の頭の中に完成図やイメージはあるんでしょうか?

それが不思議と、自分がどんな姿に見えるのかをあまり考えてないんです。たとえば、今回に関して言えば“おじさん感”を出したいなという感覚はありました。

――おじさん感?

この映画の“おじさん”は、あくまで雪男の“叔父”としての“おじさん”なんですけど、やはり平仮名で台本に“おじさん”とあると「おじさんかぁ…」って感じるんですよ(笑)。僕が感じたその“おじさん”っぽさを出したほうが面白いんじゃないかなって。そこはある意味で、演じながら楽しく遊ばせてもらいましたね。

――その結果が、ああいう形での“おじさん”になったということですね。

ある程度、考えた上で忘れる感じというか…。現場に行けばセリフがあり、何よりも会話の相手がいるわけです。 相手を感じる中で、流れの中で勝手に出てくる部分が確実にあるんですよね。だから台本を読んであれこれ考えるわりに、現場に入ればそれを意外と簡単に捨てられちゃうんです。

――むしろ、目の前の相手と向き合うことが大事。

現場ってヒントがいっぱいあるんですよ。共演者がいて、監督もいて、衣装やセットがあって…。

――その意味では、今回は雪男の存在が非常に大きかったということですね?

僕も監督もスタッフも、みんなが雪男を見ていた現場だったと思います。今回の撮影は、日本とハワイのパートに分かれていて、日本の撮影を終えて、少し時間が空いてからハワイに行き、しかも最初は僕ひとりのシーンだったんです。そうしたら山下さんが「何の映画を撮ってるのか、わかんなくなってきた」って(笑)。



――雪男ロス(笑)。“雪男の叔父であること”が“おじさん”のアイデンティティになってた?

まさに(笑)。山下さんは、それまでの世界観を忘れて「妙に生々しい感じで撮っちゃった…」って反省してました。

飄々としたイメージで見られがちだけど、実際は…



――“おじさん”のような気ままな生き方に対し、憧れる気持ちはありますか?

まあ、そこは、かなりコミカルな感じで演じさせてもらったので、「現実にこんなおじさんがいたら…?」「こんな生き方は?」と問われても、なかなか難しいところがありますね(苦笑)。雪男目線だから、どこか憎めない感じに見えますけど、大人の目で見たらもっとシビアでしょ?(笑)

――確かに(笑)。映画の中では“おじさん”がすごく綺麗に描かれていますが…。

現実に兄の家にいい歳した男が居候してたら、もっとドロドロした感じになるでしょうね。「本当に出てってもらえないかしら?」って。映画と全然違う、ファミリードラマになっちゃって…考えたくない!(笑)

――だけど正直、“おじさん”をうらやましく思う部分はあります。気ままに生きてる姿に「なんで働いてるんだろう…?」と考えさせられたり…(苦笑)。

目の前にある問題や課題だけを見ると、ものすごくつらい、大きな問題に感じちゃうけど、時間が経つと笑い話になるようなことってあるじゃないですか? この映画って、そういう存在なんじゃないかなと思うんですよ。“時間”を置く代わりに、“スクリーン”というフィルタが置かれてるんですけど。

――なるほど。

現在進行形の現実を見ると、簡単に笑い話にできないし、すぐに解決しなきゃいけない大きな問題のように感じるものだと思います。でも、映画の中の寓話として「こんなおじさん、いてもいいんじゃない?」「他人とちょっとばかり違っててもいいよね?」と少しだけ、心を軽くしてくれる。そんな映画なんだと思います。



――雪男にしてみたら、いまでも十分に“変わり者で偏屈なおじさん”ですけど、大人になるにつれて、その存在がもっと大きな、そして貴重な経験になるのかなと思います。松田さんが大人になっていく過程でも、そんなふうに大きな影響を与えるような存在はいましたか?

たくさんいますね。若い頃はわかんなかったけど、年齢を重ねてから「あの人、面白くて、変な人だったな…」と思い出されたり…。この仕事を始めてから出会った先輩の俳優さんたちの中にもいましたし、身近な自分の周りにもいましたね。たとえば、もう亡くなってしまった母方の祖父なんですけど。

――“ぼくのおじいちゃん”ですね?

すごくインパクトのある人で、自分のラッキーカラーを赤と決めてて、赤い服しか着ないんです。立派な真っ白なひげを生やしてて、すごくファンキーなおじいちゃんでした(笑)。耳が悪かったこともあって、あまり会話をする機会がなかったんですけど、いま思うと、もっといろんな話を聞いておけばよかったなって思います。

――松田さん自身、本作で演じられた“おじさん”のように、どこか飄々と生きているようなイメージで周囲から見られやすい部分もあるのでは?

そうなんですよ。こういうインタビューでも取材される方から「また自由人の役ですね」なんて言われたりすることがけっこうあって、心の奥で「そんなことないのにな」って(苦笑)。毎回、役は違うから。

――素のまま役柄を演じているように思われやすい…?

かといって、殺人鬼の役をやれば「違う」というふうになるかっていうと、そういうことじゃないだろうって思うし。そう考えると結局、すべては自分次第、僕自身の問題であって、決して相手がどうのって問題ではないんだなと…。

――と言いますと…?

すごく単純ですけど、相手がどう思うか? 自分をどう見てるか? ではなくて、自分がどうあるべきか? 相手がどうであれ、自分がそこに対して、変わらずフラットに接することができるかどうかが大事なんだなと感じます。

――結局、多くの人が抱く松田さんのイメージというのは、スクリーンや映画、雑誌などを通じて想像したものでしかないわけで…。

そうなんですよね。そこに対して自分が変わる必要はなくて、自分の気の持ちよう次第なんだなって。そう考えられるようになったきっかけという意味でも、今回、雪男役の利空と共演できたのってすごくよかったなと思います。

――子どもの感性に触れて、気づかされた?

子どもであっても…いや、むしろ大人より、よほど素直に敏感に目の前の人間を理解してると思います。僕なんて、嘘つくのが下手で、すぐに顔に出ちゃうのでなおさら…(笑)。こっちも利空に対し、子どもというより、ひとりの人間として接していたし、気にせずに自分の感性で気持ちよくそこにいればいいんだって改めて、気づかせてもらいました。



【プロフィール】
松田龍平(まつだ・りゅうへい)/1983年5月9日生まれ。東京都出身。B型。1999年、15歳にして映画『御法度』でデビュー。その後も『青い春』、『ナイン・ソウルズ』、『まほろ駅前多田便利軒』シリーズ、『探偵はBARにいる』シリーズ、『北のカナリアたち』など、次々と話題の映画に出演。2013年公開の『舟を編む』では、日本アカデミー賞最優秀主演男優賞に輝く。近年では、『モヒカン故郷に帰る』、『殿、利息でござる!』などがある。2007年、『ハゲタカ』(NHK)で連続ドラマに初めて出演し、2009年のNHK大河ドラマ『天地人』では伊達政宗を演じる。2013年のNHK連続テレビ小説『あまちゃん』では水口琢磨を演じ、“ミズタク”の愛称で話題を呼ぶ。2016年は連続ドラマ『トットてれび』(NHK)に加え、7月クールの連続ドラマ『営業部長 吉良奈津子』(フジテレビ系)に出演した。


■映画『ぼくのおじさん』
11月3日(木・祝)全国ロードショー!
http://www.bokuno-ojisan.jp/

(C)1972 北杜夫/新潮社
(C)2016「ぼくのおじさん」製作委員会

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★★松田龍平さんのポラを抽選で1名様にプレゼント★★

今回インタビューさせていただいた、松田龍平さんのポラを抽選で1名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

■応募方法:ライブドアニュースのTwitterアカウント(@livedoornews)をフォロー&以下のツイートをRT


■受付期間:2016年11月2日(水)12:00〜11月8日(火)12:00

■当選者確定フロー
・当選者発表日/11月9日(水)
・当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、発送先のご連絡 (個人情報の安全な受け渡し)のため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
・当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから11月9日(水)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただきます。11月12日(土)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。

■キャンペーン規約
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